表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/43

12.ディストーション

「ふっ...!」


ズバババッ!


「いいですねぇ、いい戦いっぷりですねぇ!もっと私を楽しませてくださいよ!!!」

「うるさい...!」


数が多い。あまりにも多すぎる。

竜巻を使ってから、どれだけ戦ったか分からない。数多の狼を切り伏せ、殺したにも関わらず...全然減らない。


「おや、注意散漫ではないですか?」

「...っ!がぁっ...!!」


疲れが出てきたせいで、動きが、思考が鈍る。その一瞬の隙を逃さず、狼が一瞬で距離を詰め、僕の腕に噛み付く。その痛みでできた隙を見つけた狼たちが、一斉に駆け寄ってくる。


「それは...悪手だ!」


別にわざと噛まれて隙を作ったとかそういう意図は無いが、狼が大量に駆け寄ってくるこのタイミングは、一掃する絶好のチャンスである。


「《天恵剣》──『竜巻』!」


寄ってきた狼が、一瞬でバラバラに切り裂かれる。これで、かなりの数を削れ──


「がはっ!?」


突然、背中を激痛が襲う。後ろを振り返ると、背中に爪を刺す狼の姿があった。

急いでそいつを斬る。なんでだ、今竜巻で周りの狼は全員死んだはずなのに...まさか、竜巻の後隙を狙われた!?さっき見たから、学習したのか...!

また狼たちが駆け寄ってきた...!もう一度、竜巻を──


ガブッ


「...!ぐぁ...」


突然、狼が左腕に噛みつく。いつの間に、距離を詰められた...?まさか、見逃していたのか?真正面から近寄る狼を...?

痛みで剣を振れない。力が入らない...視界もぼやけてきた。刺された背中が、噛まれた腕が...熱い。寒い。

足が動かない。立てない。力が入らない。もう、無理...


...ふざけるな。


まだ立てる。まだ動けるはず。僕はまだ死んでない。戦える、戦えるはずだ...!

意識を保て、考えろ。この状況を打開する方法を...


狼たちは、動けない僕に近づいてくる。それも、かなりの速さで。そして、今もう目の前に、真後ろに、真横に、数え切れないほどの狼たちがいる。今にも、僕を切り裂き、殺さんとして...


竜巻は撃てないだろう。この腕で、全方位に剣風を飛ばすなど不可能だ。ならば、どうする?使えるものはなんだ?

足はノーダメージだから動く。だが、動かしたとて意味は無い。魔法は...『スパーク』ごときではどうにもならないだろう。『ディストーション』は...中に閉じ込めることなら可能だ。だが...それだけじゃ間に合わない。恐らく、正面に使ったあと他の方向のやつらにやられるだけ。


他の『型』は...無理だな、やっぱり撃てない。この状態じゃまともに剣を振れやしない。

...でも、『技』を使わずに周りの敵を一掃できるなら?全方位かつ広範囲を斬ることができたら?


その方法は...思いつく限りは、2つ。

1つは、『スパーク』を剣に乗せて振ること。仮に剣で魔法の効果を乗せて放てるならば、剣風を出さずとも広範囲を斬れる。だが、目の前に敵が迫っているこの状況で、魔法の効果を剣に纏わせて放つ、なんて時間はない。


ならば...2つ目の方法を、試すしかないか。

理論上出来ないことはない...はず。でも、やった事ないし、出来たとてどれほどの効果があるか分からない。それでも...他に、方法はない!

できるか分からないけど...一か八か、喰らえ...!


「『ディストーション』...!」


バシュゥッ!


「ほう、これはこれは...」

「...できた...!」


僕が使ったのは、『ディストーション』の派生技。次元を縮めて別空間に保存する...その効果範囲を、薄く細く調整する。そして、ごく僅かな限られた空間のみを縮めることで、効果範囲がまるで斬撃のように斬れる、という技だ。


この範囲の線を、自身の周辺に瞬時に張り巡らせ、発動すれば...ほぼノータイムで、全方位対応の、物理的な干渉が難しい斬撃を放てる、という訳だ。

そして、見事迫り来る狼たちを切り裂き、撃破した。

そして...これが使えるのならば、あとは簡単な話だ。


狼たちに近づくことなく、安全な距離から、防御不能の斬撃をお見舞いできる。その上、これは魔法だから体力は使わず、魔力だけを消費することで撃てる。

本来、『ディストーション』は魔力消費量がかなり高い。『スパーク』の50倍くらいかかる。でも、僕は魔力量が多い方みたいで、何回使っても魔力が減ってる感覚がない。だから、まぁ多分大丈夫だろう。


「...まさか、今のを突破するとは...しかも、あんな魔法で、ね。しかし...こうなってしまうと、あとは作業になってしまいます...うーん、面白みに欠けますねぇ?」

「ん、もう十分楽しんだでしょ。もう終わらせよう」


そう言い、狼のいる場所に線を張り巡らせ...歪める。


「さよなら、狼さん」


バシュッ


これで、全ての狼を倒した。ようやく終わった...!

全身傷だらけ。痛くて仕方ない。アイツにお願いを聞いてもらったら、ジールに回復してもらお──


「残念ながら、まだ終わりではないですよ?」

「...は?」

「確かに、私のペットは全て倒されましたが...まだ終わりではありません。なぜなら、私のペットはまだ死んでませんから」

「...?何言ってるの、もう全員死んでるじゃん」

「ククッ、では見せていただきましょうか?あなたの絶望する表情を──『死者の踊り(デッド・リヴィング)』」


ゾワッ


嫌な気配が漂う。これは魔力...?それも、どこかで感じたことのある、嫌な魔力...


「グルルル...」

「...!?な、に...?」


さっき切り倒したはずの狼たちが、次々と起き上がる。その見た目はさっきまでのとは違い、僕の斬った箇所が爛れ、傷として残っている。だが、その目は──さっきまでよりもさらに獰猛で、殺意に満ち溢れている。まるで...


「お前が、オレを殺した。許さない」


と言わんばかりに。


「...でも、もうお前らには負けない──『ディストーション』」


生き返ってきた狼たちを、次々と切り裂く。魔力はまだまだ余裕なので、何度も何度も発動し、生き返ってきた狼を切り裂いていく。


「ククッ、いい、素晴らしくいい!もっと私を楽しませてください──『死者の踊り』!」


ゾワッ


「グルルル...」


また生き返らせやがった...!これじゃ、埒が明かない...!

僕の魔力は、大量にあるとはいえ多分いつかは無くなるだろう。アイツはそれを待つ気なのか...?

いや、ありえない。楽しさを求めるアイツが、そんなつまらない手を取るわけがない。

となれば、恐らく何か仕掛けがある。そして、それを僕が見破れるか試している...といったところか?


となると...飽きっぽいアイツのことだ、早く見つけないと「もういい」とか言ってアイツが手を下す可能性だってある。早くトリックを見つけなければ...


まず引っかかるのは、僕が斬った狼たちを生き返らせる時、僕がつけた傷が体に残っているという点。これは、復活の際に戻せなかった可能性もあるが......死者蘇生ができるなら、あの程度の傷が治せないわけが無い。そもそも、傷口が爛れているが...あれは、間違いなく意図的につけているものだろう。


次に、復活した狼たちの様子だ。元々知能はかなり高かったはずだけど...今は、知能のない、言葉通りの獣に成り下がってるように見える。


あと引っかかるのは...アイツがこの魔法と思しき効果を発動する際の、嫌な魔力。あれは...確か、アイツと狼たちが来た時に感じた魔力だ。この魔力を察知したからこそ、敵襲に事前に気づけた。

ということは、僕たちと接触する際にも使っていた...?でも、死者蘇生なんて起きてなかったはずだけど...

あの時起こったことは、確か...


「幻夢魔法...?」


確か、みんなを眠らせた魔法を使ったって言ってたような...もしかしてこれも夢で、実際は僕も眠っているとか...?いや、それはないか。確かアイツは、「とってもいい夢を見て、とっても深い眠りについている」、そう言っていた。これは、何をどう考えてもいい夢じゃないし...仮に、夢の影響でみんなが起きないのであれば、僕の悪夢を見たら飛び起きるだろう。

となると...今見ている狼たちは、幻影?でも、幻なら...ダメージを受けないはず...?


「試してみる価値は...ある」


覚悟を決める。今まで『ディストーション』で斬って遠ざけてきた狼に、攻撃を止める。すると、狼たちはこちらにものすごい勢いで向かってきて──

僕の身体を、すり抜け...消滅していく。


「...!やっぱり...!」

「あららぁ...見破られちゃいましたか」


これはつまり、狼が死んでいるということ。ならば、この勝負は...


「僕の勝ちだ」

「おや?まだ私は倒されてませんが...」

「お前は、ペットを倒せって言った。お前を倒すのは条件に含まれてない」


これでも納得せず、コイツが襲ってきたらもう無理だけど...どうだ?


「う〜ん...これはダメですね、完敗です。狼が全員死んでることがバレちゃいましたからねぇ?」


ふぅ、よかった...なんとか、修羅場を乗り越えられたみたいだ。


「...じゃあ、僕の欲しいもの1つくれるんだな?」

「いいでしょう、差し上げますとも。何が欲しいのですか?高価な装備ですか?それとも...神権(スキル)、とかですか?」

「それが何か知らないけど...僕が欲しいものは1つ。魔導書がほしい」


やっと手に入る。僕が欲しかったものが...

正直、手に入るのはもっと先になると思っていた。どこにあるかの見当もつかなかったから...


「...魔導書、ですか?あなたは、魔法使いではありません。空間魔法は使えますが...それでも、メインは剣術でしょう?何のために魔導書を?」

「シェルラにあげる。シェルラ、この森に来てから何も出来ないって...すごく辛そうにしてた。だから、これをあげる。それに、僕の仲間たちはみんなとても深い悲しみやトラウマがあるけど...シェルラは、シェルラの心の傷は、みんなとは比べ物にならないくらい、深くて重い傷だった。だから、少しでも元気になってほしい」

「...そうか、そうですか。彼女の...なるほど、いいでしょう。では、私の知る限りの最上級の魔導書をお渡しします」


そう言って渡された分厚い本の表面には、魔導奥義書(グリモワール)と書かれた本だった。

触れただけで分かる。とんでもない魔力が内部に存在することが。


「いやぁ、楽しませてもらいましたよ。今後もあなたの活躍に期待しています。せいぜい、楽しませてくださいね?」

「...おい、ピエロ」

「おや、まだ何か?」

「今回は僕に攻撃したからよかった。でも、もし僕の仲間たちに手を出したら...お前を、必ず殺す」

「ククッ、いい、素晴らしくいい!あなたは本当に面白い人だ!いいでしょう、そもそも私はあなたにしか興味ありませんし...約束しましょう。では、またお会いしましょう」


そう言って、ピエロは消えた。


「っはぁ〜!終わった...!」


なんとかなった。本当に疲れたし全身痛いけど...とりあえず、みんなをディストーションから解放してあげて──


ぐらっ


...?なんだ?目眩が...それに、なんだか、ちから、はい、らな


パタッ


───────


シシルが倒れた頃、世界の端にて──

「ばあ、面白いことになってきたよ」


光のみで構成された空間で、光の粒──魂が、1人の老婆に話しかける。


「なんじゃ」

「奴が勇者の、兄の方に接触した」

「ふむ、死んだのか?」

「撃退したよ。奴が本気じゃなかったのもあるけど...かなり頑張ってた。もしかしたら、あっちでもいいかもね」

「そうじゃな...勇者は、このまま殺されるやもしれん。次善策を並行させておくべきかものぉ」

「次善策というか...あっちが本命になるかもしれないね」

「ほぉ...お主がそこまで言うとは...楽しみじゃな」


2人は、永遠に続く光の中、そう笑った。


いつの日か、輪廻から解放される日を夢見て。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ