ep.2 錦織空雅という人物
あれからずっと、まさの家で宿題をしていた。
「だからぁーこのXを代入してぇー、そんでこうやって式を解けばいいの!」
まさが、宿題の問題集を指しながら、楓に教えている。
「はあぁ!?意味わかんないし!もっとうまく説明してよ!」
楓は、数学が不得意らしくて……。あいかわらずてこずっている。
「だーかーらー……」
まさと楓が言い合ってる。相変わらず楓はバカだなぁー……。
「あ、海李ちゃん、ここ間違ってるよ」
さっきのイケメンくんが言う。
「あ、あぁ、ほんとだ……」
ま、人のことは言えないけどね。
そういえば、さっきのイケメンくんは、錦織空雅って名前で、どうやらかっこいいのは顔だけじゃないいらしい。
錦織くんは、まさの中学時代の親友なんだそうだ。
「まさにこんなかっこいい親友がいたなんてなー……」
「あぁ?」
「あいや、なんでもないです」
小声で言ったつもりなのに……。聞こえてたとは。
うちの学校に、錦織くんほどかっこいい人はいない。これは、アタックするべきなのか……。
「はぁー」
思わず、ため息が出る。
「おい海李!進んでねえぞ!」
そして容赦ないまさの突っ込み。
「うっさいなー」
少しはあたしに考える時間をくれ!
*
勉強会も終わり、みんなで夕飯を食べに行こうという話になり、今は近くのファミレスで食べている。
「あの、錦織くんってどこの学校なんですか?」
思い切って、聞いてみる。
「晴洋学園だよ」
「え、晴洋学園ってめっちゃエリート校じゃないですか!」
あまりのびっくりさに、立ち上がりそうになった。
「そうかな?」
錦織くんは、そうでもないよ?という顔をした。晴洋学園とは、都内でも有数の偏差値65越えの学校なのだ。
「ていうかさぁーなんで勉強会に全然知らない人を連れてくるわけ?」
楓が、スパゲッティをフォークにくるめながら言った。
確かにあたしも思ってた。なんで勉強会に全く知らない人を呼び出すんだろうって。
「いやー別に頭いいから役立つかなーと思って」
てへてへとでも言うように、まさは言った。
「そんな理由で呼び出されたのか、俺は!?」
錦織くんは、わざとらしくショックなふりをして言った。でもまさは本気で焦りながら言った。
「そーじゃなくて!」
「わかってるよー」
冗談通じないなーと付け足して錦織くんは言った。
なんだかんだ、冗談言いながら、お互いのことを話しながら、楽しく話した。
そして、あたしが一番気になってた質問を、まさがした。
「つーかさ、お前、彼女いんの?」
瞬間的に、あたしの思考回路は停止した。
どうしてこのタイミングで聞いたんだろー?てか、頭おかしい。バカだろまさ。いやいや、そんなことより錦織くんの答えが気になる。
そーっと錦織くんのほうをみる。そして、耳を澄まして答えを待った。
「えー、内緒」
錦織くんはにっこりと笑った。
………………。内緒……ですか。
「お前こそどうなんだよ、まさ」
話を変えるように錦織くんは言った。
「あ?俺?いねえよ」
文句あんのか?というように言った。
「あははっ!やっぱりな!」
「やっぱりってなんだよ」
ゲラゲラと錦織くんは笑い始めた。
「海李ちゃんはいるの?」
突然、ぼーっとしてたあたしに錦織くんは話を振ってきた。
「え、えぇ!?いませんよ!」
あたしがそういうと錦織くんは意外そうな顔をすると、
「そうなの!いるのかと思ってた!」
と言った。
「おい空雅、口説くんじゃねえ」
「別に口説いてないし!」
また錦織くんがゲラゲラ笑い始めた。
あーあ、きっといるんだろうなー彼女。こんなかっこいいのにいないわけないじゃん。
「はぁー」
またため息をついた。
「あ、うち、そろそろ帰んなきゃ」
話に参加していなかった楓は立ち上がるとあたしに耳打ちした。
「がんばれよ!」
「……え?」
何を頑張れと?
「ばいばーい!!」
元気よく3人にバイバイをすると、ファミレスを出て行った。
「じゃあな」
「またね」
そして、携帯が震えだした。メールを見てみると、楓からだった。
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小林 楓
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あんた錦織くん
狙ってるんでしょ
頑張りな!!
たぶん彼女いるから
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「え」
楓にバレてる!!!
思わず声が出る。
「どうしたのー?」
錦織くんが、メール画面を覗きこもうとした。サっとあたしは携帯を閉じると、
「あいや、なんでもないです」
アハハと笑った。
「そう?」
あたしを不思議そうな目で見る。
「てかよー空雅!」
「ん?」
でも、くるっとまさのほうを向くとまさの話を聞きはじめた。
はぁ……。かっこいいなー錦織くん。でも彼女いるかもなんでしょ?勝ち目ないなこれ。
あたしはもくもくとジュースを飲んでいた。