ようこそ、チェヒ王国へ
~教皇領首都ロマニエ~
教皇サビニアヌス
「皆の者、緊急の公会議に集まってくれて感謝する」
枢機卿や大司教の多くが集まった会議がロマニエで開かれた
「発言をしてもよろしいでしょうか?」
一人の男性が手を上げる
「どうぞ」
発言を許可された男性は立ち上がり発言する
「枢機卿のパオロです、今回緊急の会議だとしか聞かされておらず、周りの様子をみたところ、同様の人間が多くいます。エウロペ大陸にいる枢機卿のほとんどがこんなにも集まったのは98年前の第32回ラテラノ公会議以来です」
教皇は深刻そうな顔している
「今回、集まってもらったのは二つの事案についてだ。一つ目は皆が知っていると思われる、"改革派"についてだ」
議場が騒がしくなる
「"改革派"はチェヒ王国を中心に神聖ロマニエ帝国内へと拡大している。改革派は皆も知っていると思うが魔族との和解を掲げているのだ」
議場から様々な声が飛び出す
「改革派はお花畑な連中ばかりだ、魔族との和解など不可能。ゴブリンやオークは貴族の荘園、教会領を何度も襲ってきた、そして多くの人間が虐殺された」
「32年前のオッフェンシュタット市で起きた吸血鬼の虐殺を忘れたわけではないだろうな、あの時はたった一人の吸血鬼に6名ものエクソシストが命を落としたんだぞ!」
「聖書主義なんかやってみろ、我々教会の象徴である神ミゲル様の権威を下げることになるんだぞ!何が父なる神だ!そもそも新約書、旧約書じたい破り捨てるべきだ!」
教皇サビニアヌスが大声をあげる
「静粛に!枢機卿の皆のものの意見はよくわかっている。だがそれ以上の問題が、先日起きた」
議場がまた騒がしくなる
「改革派以上の問題だと!」
「魔族帝国が本格的に行動でもおかしたのか?」
「いや僭称者の東ロマニエのことじゃないか?」
またも教皇が枢機卿達を戒めた
「憶測が飛び交うのはわかる、だが皆が想像している問題ではない。私より詳しく説明できるものがいる。エハン大司教、説明を頼む」
すると一人の男が立ち上がった
「メーンツ大司教領のエハンです。今回の公会議は私が教皇にお願いした次第です。」
議場から声が上がる
「エハン大司教が?」
「はい、今回皆様に集まってもらったのは帝都シュパンガウで起きた事件についてです。先日、皇帝の元に吸血鬼の少女をつれた4人組が現れました。」
議場がまた騒がしくなる
「吸血鬼が帝都のど真ん中、皇帝のもとに現れただと!?」
「皇帝を暗殺するつもりだったのか!」
「いえ、今回の問題はそのメンバーにいた6~8歳だと思われる子供です。我々は二人のエクソシストと四人組の間で戦闘が起きたのですが...その子供にエクソシスト二人がやられたのです!さらには今回連れていたエクソシストの一人はランベルト聖戒士です...」
*聖戒士エクソシストの階級、司祭に相当
「ら、ランベルト聖戒士だと!?ランベルト聖戒士はたった一人で吸血鬼の集団を倒した上、魔族帝国に仕える悪魔すら手も足も出なかったと言われているんだぞ!あり得ない!」
「ええ、そして私が戦闘の最後にみたのは帝都が大いなる光によって滅ぼされていく姿でした。しかし、目を覚ますと、都市も地形も破壊されていませんでした」
「どう言うことなんだ?負けて都市が滅んだと思ったら生きてて無事でしたって...」
「おそらく、子供に見えたのは悪魔であり、幻影を使えたのだと思えます。ランベルト司祭を欺くことができるほどの幻影を作れる悪魔なんてとても危険です。そのため、この公会議の要請をしました。我々はランベルト司祭を中心としたエクソシスト部隊を編成し、4人組を討伐することを許可していただきたい」
「なるほど、エハン大司教に異議があるものは?」
「異議あり!」
一人の男が立ち上がった
「ろ、ロベルト枢機卿...」
「ロベルト枢機卿だと、改革派の重鎮じゃないか」
「教皇もあんなやつさっさと追放すればいいものを」
「私は皆様から嫌われているようですな、しかし私は幻影を作る悪魔などと言う意見には賛同できぬ!私は見たんだ、帝都から聖なる光のタワーが出来上がったのを、あれはミゲル様の使わした者の力だ!地形を戻されたのもきっとミゲル様の力に違いない。私は断固として4人組の討伐を反対する、いやその4人組こそミゲル様祝福を受けたもの達だ」
「うむ、しかしロベルト枢機卿。宮廷へ吸血鬼を連れていき皇帝を...」
「異議あり!聞いた話によると、吸血鬼は無防備だったときく。逃げたあとも衛兵は殺されてなかった!ロマニエ連邦を見ろ!魔族と共に暮らしている国もあるんだぞ!」
ロベルト枢機卿とエハン大司教はにらみ合いを続ける
「そしてライマー神父がエハン大司教に送って来ている報告書、これからは私とのやり取りに切り替えてもらいたい。神に祝福されし4人組として私は支持する」
教皇サビニアヌスは気難しい顔をして発言する
「エハン大司教、ロベルト枢機卿の言っていることはよくわかる。仮に悪魔となれば帝国、ひいてはエウロペ大陸事態にとって大きな脅威だ。だがもしミゲル様の祝福を受けたもの達を攻撃したとなれば、天罰が訪れるに違いない。そのためロベルト枢機卿はライマー神父とやり取りを、エハン大司教は4人組の監視をおこなってくれたまえ」
「くっ...わかりました」
「教皇様、ありがとうございます」
~チェヒ王国~
「お客様、チェヒ王国へ入りましたよ」
「1時はどうなるかと思いましたが、無事にチェヒ王国へこれましたね」
「ライマー、これからどうしよう。我々いわば皇帝暗殺未遂のお尋ね者、さらにはエクソシストにも目をつけられたかも知れないとなると...」
「彰、ライマーお兄さん、僕のせいで...」
「ごめんなさい...私がいたせいで...」
「ミゲル、アフィナ、気にするな!きっと大丈夫さ」
僕達は馬車に揺られながら、チェヒ王国の首都プラーガを目指した
~王国首都プラーガ~
衛兵が僕たちの前に現れた
「君たちの中にミゲル様はいるか?」
なぜ呼び止められたんだ、もしかして皇帝暗殺未遂で俺たちを逮捕する気じゃ...
「おじさん!僕がミゲルだよ!」
「おお、やはりミゲル様でしたか、ああ、お付きのかたもどうぞ、フランツ•フォン•ゲルンハルト国王が皆様を宮廷で待っておられます」
なーんだ、宮廷に招待するためにきただけか、フランツは言ってたよなチェヒ王国なら安全だって、エクソシストや皇帝に追われつづけるのは困るからな...
~チェヒ王国宮廷玉座の間~
「わあ~、帝都の宮廷に比べるとこじんまりはしているが、十分大きな宮廷だな~」
奥から大きな声が聞こえてくる
「おお!ミゲル達じゃないか!無事についたか!」
フランツ王爵だ、帝都の宮廷にいたときとは違い王冠を被り、まさに王さまの風貌といった感じだ
「王様、今回は助けていただきありがとうございました。ミゲル様のお付きの彰です」
「よろしく、彰くん。これくらいどうってことないさ、ミゲルには多くの騎士が救われた。こんなことになってしまって申し訳なかった」
「王様!私たちが、アフィナ、吸血鬼のことを軽く考えてたせいです。アフィナを連れていってなければ今回の事件は防げました...」
「王様...ごめんなさい...」
「安心したまえ、チェヒ王国にいれば安全だ。ああそうだ、君たちをここへ呼んだのは他でもない、称号として領地を授与しようと思ってだな...」
「おじさん!ぼく、領地経営なんて興味ないよ...」
「なに!?確かにミゲルくんはまだ子供だからな...!そうだ!アフィナに領地を与えるのはどうだろう!」
僕は驚いた顔をしてフランツ国王に聞く
「え、なぜアフィナに?」
「ハッハッハ、単純な話だ、アフィナ帝国貴族となれば、おいそれと他の諸侯も手を出せなくなる。さらに私の臣下となれば、チェヒ王国のバックがつくのだ。チェヒ王国は帝国の最大諸侯にして選帝侯。例え皇帝と言えど、簡単には口出しできんよ!」
「フランツ国王、私が貴族になっては国王様の立場が危うくなるのではないでしょうか...」
「なぁに、ミゲルくんに助けられた騎士は数知れない、その中には公爵も多くいたのだ。これくらいどうってことないさ。あと渡すのは小さなカルルスバード男爵領と考えている。男爵程度なら他の諸侯も黙っているだろうよ」
「フランツ国王...ありがとうございます...」
「ハッハッハ、ああ、もちろん承知だろうが領民を襲ったりするんじゃないぞ、今回、男爵領を授与するのはミゲルくんの仲間で、信頼できるとの考えからだ」
「もちろんわかってます!...血は彰さんがくれるので大丈夫です...」
「おお、彰くんが、まさか吸血鬼のために血を差し出すなんて、たいした男だ!ハッハッハ」
フランツ国王のお陰で帝国から追い出されずにすんだ、我々の目的はロマニエ連邦にいくことだが、帝国内で足場を固めれる場所を得られたのはよかった
「そしてアフィナくん、そのマントは脱ぎたまえ!すぐに各地の諸侯へと君が男爵となることを伝える。そしてちょっと待ってくれ...」
フランツ国王は自室へ戻った、しばらくすると、ひとつの手紙をもって出てきた
「私の直筆のサインと家紋が入った手紙だ。もし敵対的な人間がいればこれを見せなさい。君は堂々と吸血鬼として帝国に居れることを保証しよう」
「フランツ国王!...ありがとうございます!...」
「僕からも、アフィナのためにここまでしてくれてありがとうございました!」
「おじさん!ありがとう!」
「フランツ国王、ありがとうございます」
「ハッハッハ、領地経営、頑張ってくれたまえ!」
僕達はそれから宮廷をあとにして馬車へと向かった
「いらっしゃい、どこへ...って吸血鬼!?わし食うつもりか!」
「しずまれい!この手紙が目に入らぬかぁ!このお方をどなたと心得る!帝国貴族、アフィナ様であらせられるぞ!」
一度やってみたかったんだ
「なんと、まさか貴族とは...失礼しました。それではどちらまで?」
「カルルスバード男爵領まで!」
僕達はカルルスバード男爵へと向かった
~カルルスバード男爵領~
ここが僕たちの男爵領か~
途中で休憩を挟んで馬車でチェヒ王国首都プラーガから約3時間ほどでついた。もし何かあればフランツ国王にすくに会いに行ける。領地経営になれてない僕たちにはありがたい
見渡す限りの畑と小さな村、そして奥の方に見えるのは領主の小さな城、つまり僕たちの新しい家だ!
「ライマー、これからどうしょう」
「そうですね、まずはアフィナのことを村の人たちに伝えましょう」
僕達は男爵領の村へ入った
「おお、よそから来たも...!!吸血鬼!吸血鬼だ!」
「なに吸血鬼だと!?」
「領主が居なくなった隙を見て、村を襲いに来たのか!」
僕達はあっという間に農具などで武装した村人達に囲まれてしまった
アフィナはおどおどしながら喋る
「私は全領主に代わり、新たに叙爵したアフィナ•エリエスクです!...」
「き、吸血鬼が新たな領主だって!?」
「信じられるか!俺たちを食いに来たんだろ!」
まずい、アフィナが戦えば戦闘で人間達に負けることはないだろう。だがそんなことすれば領地経営なんて不可能だ...
すると一人の子供が前に出てきた
「お姉ちゃん、お姉ちゃんのお羽素敵!キラキラしてるー!」
母親らしき人が子供を止めようとする
「レオ!」
しかし、他の子供達も興味をもったのかぞろぞろ出てきた
「羽さわっても良い?」
「もちろんいいよ...」
「服素敵!かわいい!」
「お父さんがくれたの素敵でしょ...」
それをみた村民達もアフィナが抵抗せずに子供達と話してるのを見て武器をおろした
「アフィナお姉ちゃん!あそこの木で遊ぼうよ!」
アフィナは子供達に連れて行かれ、子供達とアフィナが遊んでいた
すると
「アフィナお姉ちゃん!ほら木登り楽しいよ!」
「あぶない...降りた方がいいよ...」
「これくらい大丈夫だって!あ...」
なんと子供が木上から足を滑らせてしまったのだ
すると常人とは思えないスピードでアフィナが走り無事に子供を受け止めた
「アフィナお姉ちゃん!怖かったぁ!」
「だからいったでしょ...あぶないからって...」
それをみた村民はアフィナのこと見直した顔をした
「吸血鬼...アフィナ様のことを完全に信用した訳じゃないよ、でもありがとう」
「子供達がアフィナ...アフィナ様と仲良くしてるんだ。ひとまずは信用してやる」
よかった、事故とはいえ、アフィナを信用してくれるきっかけになったのは良いことだ
「皆様、アフィナを信用してくれてありがとうございます」
領民との挨拶を済ませ、我々は城へと向かった
城といえばたいそうご立派な物を想像するだろう、だが小さな男爵領のお城なのでそこまで大きいものではない。
まさに石づくりでできたお城!これから僕たちのマイホームだ!
お城へつき村人達への説明も終わったので現在の状況を整理しよう。ここはカルルスバード男爵領、チェヒ王国直轄地だった男爵領だ。そのためカルルスバード男爵領の上はチェヒ王国となりフランツ国王の直接臣下になる。これはありがたい、何かあればフランツ国王に頼ることが出きるからだ。そして領地経営について確認しよう。中世世界の領地経営は御恩と奉公、土地の所有を認めてもらっている代わりに有事には戦力を提供しなければならない。小さな男爵領だから提供できる戦力は限られるがアフィナを筆頭に我々が騎士としてフランツ国王を支えなくては
「彰さん、皇帝暗殺未遂やエクソシストに追われた時はどうなることかと思いましたが、チェヒ王国では安全に暮らせそうですね。あと小耳に挟んでおいてほしいのですが、チェヒ王国は我々改革派の中心地なんです。こちらの教会では味方を増やせるかもしれません」
「おお、エクソシスト戦ったから教会との敵対は避けがたいと思ったがどうにかなるかもな」
中世での教会の影響力は無視できない。世俗の領主のように領土をもっていたり、教会の機嫌次第で領地の税金を納めるか納めないかを決めたりも出来る...
「しかし、報告書はこれからどうしましょうかね...エハン大司教に報告書を書くべきなのか...」
「敵対した張本人だからな、とりあえずメーンツ大司教領に向けて報告書を送ったら良いんじゃないかな?」
「そうですね...しかし、こんな大事を起こしたのですから破門でもされてしまうかも...」
「破門!?待て、僕達を擁護したフランツ国王の立場も危ういんじゃ!」
中世世界で破門されたとなれば国王と言えど危うい立場におかれてしまう...
「うう、最悪なことにならないことを願いましょう...」
ミゲルが疑問そうな顔をして聞く
「彰、ライマーお兄さん、はもん、ってなんなの?」
「異端だとされてユニヴェルスの信者ではないと宣言されることです。もし破門されてしまえばそれを理由に皇帝はフランツ国王を捕らえようとするかもしれません...」
「何で教会はそんな力を持ってるの?」
「教会は諸侯として土地を保有していたり、貴族の教育の場でも大きな影響力を持っています。さらには民衆に聖書が読めないことを利用して教会は教義を悪用したりしているんです。抵抗勢力として我々改革派はいますが...」
「むう!僕の名前を使って悪事をするのは許せない!」
「でもミゲル様、教会の権威をあげているのは、奇跡の力ですよ。奇跡の力を与えたのはミゲル様じゃないですか...」
「それは...ほら!魔族帝国に対抗するには力が必要だし...あっそうだ!ライマーに奇跡の力をあげるよ!」
「ええ!私にですか!?私はエクソシストのように戦えませんよ!」
「大丈夫だって!」
そういうとミゲルは指を鳴らした
パチン!
「はーい、これで奇跡の力を与えたよ~」
「なんかすごいあっさりしてますね...」
「ええ、指鳴らしたじゃん、別に指ならさなくてもわたせちゃうのにわざわざ鳴らしたんだよ!ねえねえ、奇跡の力、使えるか試してみて!そうだ!僕に光の鎖を展開してみてよ!」
「み、ミゲル様にですか!?」
「ほらほら、早く~」
「わかりました...神様、み心にかなうように力を下さい!ミゲル様に鎖を!」
ライマーが唱えるとミゲルの回りに光の鎖が現れた
「すごい、すごい、やれば出きるじゃん!強度は...」
ミゲルが光の鎖を握ると簡単に粉々になってしまった
「うーん、不合格。でも前のエクソシストの鎖よりは強度はあるかな?」
「ミゲル様を拘束できるものなんて作れるわけないじゃないですか...」
「もっと力を与えたら...でも人間にそんな力与えたら破裂しちゃうかも」
「お、恐ろしいこといわないで下さい!」
「あーあ、だってみんな弱すぎるんだもん、ちょっと力いれただけでこの星壊れちゃうし、ルキフェルと戦えばこの世滅んじゃうもんなぁ~」
改めてミゲルのヤバさがわかるな...ってそれはおいといて
「ライマー!奇跡の力を使えるようになったのは自分達の身を守る上で最適じゃないか!アフィナも堂々と戦えるようになったし、ライマーももっと補助出来る。僕は銃で援護するだけだけど...ミゲルが戦わずにいれるのは良いことだ」
「彰さん、そうですね!今まで見てるだけでしたが、お二人の力に馴れるかもと思うと嬉しいです!」
「ライマーさん...今日からエクソシスト...」
「ははは、なんだか照れますね~」
ライマーが奇跡の力を使えるようになり4人の戦力が増強された。そして新たに男爵当主となったアフィナ。教会でうごめく改革派と保守派の対立。僕達の生活、この世界の未来はどうなっていくのだろうか...