10分だけ監視される街
駅のホームで電車を待っている時や、レストランで案内を待っている時、バスの車内、授業が始まる10分前の講堂、などなど、僕は「集団の中で、ただ何かを待つ時間」が嫌いだ。
嫌いと言っても短気だからという理由ではない。こういった時間、僕は何者かに監視されている気がするのだ。
結論から言うと、この原因は既に判明している。僕がスマホを見ていないからだ。
10分間の待ち時間というのは確かに手持ち無沙汰になりがちだ。その隙間時間をどう過ごすかは人それぞれだろう。SNSをチェックしたり、動画や電子書籍を見たり、英単語を勉強したり・・・。
しかし、僕はこの10分間、何もせずボーッとしているのをよく好む。流れている雲を見たり、変わらない景色を見続けたり、遠くを走っている車の音に耳を傾けたりする。それが一番リラックスできるし、何より、この時だけは憂鬱な日常からちょっとだけ解放された気がする。
ただし、その代償はとても大きい。
駅のホームで、全員下を向きながらスマホを見ているのに、僕だけ地面と平行に景色を眺めているのは、かなり目立つらしい。そのため、人が集まりきったタイミングでやってきた、歩きながら待つ場所を探している乗客によく視線を向けられる。時には二度見されることもある。
あいつは何をやっているんだ?まさか、何かよからぬことを考えているのか?怪しいやつ・・・といった具合で。みんなスマホを見ている中で、ただボーッとしていると異端に思われるのは分かっているし、本当は怪しいやつなんて思ってもいないと分かっているのだが、急に視線を向けられるのは、監視されているようで、まぁまぁ嫌な気分になるものだ。
今日もまた、ホームに降りてきた一人の女性に視線を向けられた。珍しくイヤホンをしていたが、歌詞でも見とくべきだったか。その女性を横目で追いかけてみると、自販機の横で立ち止まり、スマホを取り出した。インスタを開くつもりなのか、それとも悪の組織に監視状況を伝えるつもりなのか。