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《碧眼の花と緋の刃》軍に拾われた少女は、差別と陰謀の時代に抗い、愛を知る  作者: 伊太利ひなぎく
第1章

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第1話 後編《孤独な訓練所で》


入学式から数日後の夜、ソニアはいつものように誰もいない訓練所で、1人自主鍛錬に励んでいた。

武術と魔術の基礎訓練を繰り返し、もう2時間ほどになる。


(…もう1セット終わったら、魔術の方に切り替えましょう)


息を整えながら、汗を拭った。


ソニアは聴講生時代、正式な訓練課程の講義を受けられていない。

第4学年からは士官養成課程が開始されるため、この1年間で第3学年までの単位を全てカバーしなければならないのだ。


(まずは、基礎的な体力がなければ話にすらならないわ…)


そんな焦りから、ソニアは何度も何度もしつこいほどにトレーニングを反復する。

その時、不意に背後から低い声が響いた。


「おい、お前そこで何をしている」


その声に、ソニアは内心驚きながらも素早く振り返る。

背が高くガタイの良い男性軍人が、訓練所の入り口で仁王立ちしているのが目に入った。

見回りの上官だろうと判断したソニアは、即座に立ち上がって敬礼の態勢をとる。


「基礎訓練を行っておりました」

「…訓練所の利用時間は過ぎているが?」


黒髪の男性軍人は、そう言いながら鋭い視線をソニアに向ける。

ソニアは自分の時計を確認するが、まだ閉所までは30分弱残っていた。


(どういうこと?)


内心戸惑うソニアに、男性軍人は彼の時計を見せてくる。

時刻は既に閉所時刻の約30分後を示していた。


「どうやら、お前の時計が狂っていたようだな」


男性軍人の言葉に内心冷や汗をかくソニアは、即座に深く頭を下げた。


「…自分の管理不行き届きでした。申し訳ございません」


そう謝罪するソニアを男性軍人は緋色の眼でじっと見つめ、ソニアはそんな相手の様子に少し警戒する。


(時間超過なんて、確実に始末書コースよね…)


そう考えつつも、向こうの出方を伺うソニア。

一方の男性軍人は、無言で何やら考え込みながらソニアを上から下までじっくりと観察する。


「…お前、見ない顔だな。1年目の学生か?」

「はい、先日入学したばかりです」

「新入生とはいえ、時間厳守は軍人としての基本中の基本だと理解しているな?」


厳しい口調の男性軍人の言葉に、ソニアはもう一度頭を下げる。


「…はい、誠に申し訳ございま──」

「が、自主鍛錬を怠らない姿勢は悪くない」


ソニアの謝罪を遮ってそう告げる男性軍人の言葉に、ソニアは思わず顔を上げた。

そんなソニアの様子を一瞥しつつ、男性軍人は続ける。


「今回は、その姿勢に免じて目を瞑るとしよう。ただし、次はないぞ」

「あ、ありがとうございます…」


予想外の展開に、内心やや動揺しつつもそう礼を告げるソニア。

そんな彼女をじっと観察しながら、男性軍人は再び口を開く。


「…お前、名前は?」

「ソニア・シュミットと申します」


ソニアが自分の名を名乗ると、男性軍人は小さく頷いた。


「…覚えておこう。シュミット、早く寮に戻れ」

「はい…では、失礼させていただきます」


ソニアは男性軍人に素早く一礼する。


(この人の気が変わらないうちに…)


そう判断しながらくるりと踵を返すソニア。

急いで訓練所を後にし、そのまま真っ直ぐ女子寮に戻るのだった。



───────

────

──


翌朝、ソニアが学生食堂で朝食を取っていると、正面の席にトレイが置かれる。


「おはよ、ソニア」


その声にソニアがふと顔を上げると、ニッコリと笑顔を浮かべたアンナの姿があった。


「アンナ…おはよう」


そう答えるソニアの顔を、アンナは不思議そうにじっと覗き込んだ。


「…何かあった?ちょっとお疲れ気味じゃない?」

「実は…」


ソニアはそう言って昨夜の出来事を説明する。


「──ということがあったのよ」

「あー…やっちゃったね。ってことは、始末書コース?」


そう問われたソニアは、フルフルと首を横に振る。


「ううん、今回は目を瞑るって…」


ソニアの言葉に、アンナは驚いたように目を丸くしつつ口を開いた。


「へぇ…珍しいこともあるもんだね。どんな見回りの上官だったわけ?」


アンナの言葉に、ソニアは昨晩の男性軍人のことを思い返す。


「初めて会う上官だったのだけれど…かなり背が高くて、体格もがっしりしてたわ。後は──」

「ちょ、ちょっと待って…」


ソニアの説明を、少し慌てた様子のアンナが遮った。


「あんたが『すごく背が高い』って言うってことは…ひょっとして、2メートルくらいありそうな感じ?」

「そうね…私よりも頭1つは高かったから、190cmは超えてると思うわ」

「まさか、コワモテな人だったりする…?」

「鋭い目つきではあったけれど…強面というほどではなかったわね。端正な顔立ち、とでも言えば良いのかしら?」


ソニアが小首を傾げつつそう答えると、アンナは恐る恐る次の言葉を紡ぐ。


「…その人さ、黒髪で赤い目してたんじゃない?」

「ええ、そうだけど…アンナの知ってる上官?」


ソニアの言葉に、アンナは小さくため息をついた。


「知ってるも何も…それ、多分鬼教官だよ」

「鬼教官…?」


ソニアは思わず首を傾げる。


(厳しそうな印象を受けたのは確かだけれど、鬼と言われるほどには見えなかったような…)


そんな疑問を抱く彼女にアンナは補足を入れた。


「そ。あんたが会ったのって、鬼教官って呼ばれてるクロイツァー大尉だと思うよ。先輩たちから話だけは聞いてるんだけど…めちゃくちゃ厳しくて、男女問わず泣かされる学生が毎年大量にいるんだってさ」

「なるほどね、それで鬼教官…」


ソニアは納得したようにそう呟くと、顎に手を当てて考え込む。


(従軍という厳しい業務に携わる以上、軍大学の指導者側にそういう人間がいるのは理にかなっているわ。甘い考えで続けられる仕事だとは思わないもの…)


そんなソニアを横目に、アンナは首を傾げた。


「でも…鬼教官が規則違反に目を瞑るかなぁ」

「それもそうね…。それなら、別の上官かしら?」

「うーん、そうかも…って、あたし今日早番だったんだ!ごめんソニア、あたしもう行くね!」


アンナはそう言うと、慌てて朝食をかき込んで席を立つ。

ソニアはアンナが去って行くのを軽く手を振って見送ると、水の入ったカップに口をつけた。


「クロイツァー大尉、か…」


そう呟いたソニアはサッと食事を済ませると、1限目の第3学年向けの魔術訓練講義のために、講義室に向かった。


講義室に足を踏み入れると、同級生たちが一斉にソニアに目を向ける。

その冷ややかな視線に思わず足を止めるソニア。

小さく深呼吸してから姿勢を正すと、軽く頭を下げて口を開く。


「…本日より、私も一緒に訓練課程の講義を受けさせていただきます。皆さんよろしくお願いします」


そう告げるソニアから、同級生たちはさりげなく視線を外し、声を潜めた。

誰もが彼女と目を合わせるのを避けるその空気が、じんわりと胸に刺さる。

ソニアは小さくため息をつきつつ、空いているスペースに移動する。


同級生たちよりも5つも歳下、そして彼らよりもずば抜けて優秀なせいか、ソニアは聴講生時代からずっと距離を置かれている。

ソニアを妬んで嫌がらせをしてくる学生も少なくなく、おかげで親しい人物もいなかった。


(妬まれるのはいい加減慣れているとはいえ…それでも、やりづらいのはやりづらいのよね)


ソニアがそう考えながら待機していると、ルイーゼが指導教官を連れて講義室に入ってくる。


「あっ…」


その指導教官に見覚えがあったソニアは、思わず小さく声を上げる。

昨夜訓練所で出会った上官…間違いなく彼だったのだ。


「今期の第3学年の魔術訓練指導教官はユリウス・クロイツァー大尉だ。大尉、よろしく頼むぞ」

「承知いたしました」


ルイーゼはそのまま講義室を後にし、学生たちは声を揃えて「よろしくお願いします!」と挨拶をする。

ソニアがじっとユリウスを観察していると、ふと彼と目が合った。

ユリウスは怪訝そうな表情を浮かべ、そのままソニアの方に近付いてくる。


「…確か、シュミットと言ったな。何故ここにいる?」


その問いかけに、ソニアは首を傾げた。


「…と言いますと?」

「お前、1年目じゃなかったのか?これは第3学年の講義なんだが…」


そんなユリウスの言葉を聞いたソニアは、彼の反応に納得する。


(そういえば、この人は私の事情を何も知らないものね…)


そう判断したソニアはユリウスを見上げ、自分の置かれている状況を簡単に説明し始めた。


「自分は昨年まで2年間、聴講生として在籍しておりました。今年から特例措置により正規入学となりましたが、聴講生時代の取得単位が考慮され、第3学年への編入扱いとなっております」

「特例措置…?そういえば、入学規定に満たない学生が入ったという話を聞いたな…お前のことだったのか」


ソニアの端的な説明に、ユリウスは腕を組んで彼女を再びじっと見つめながら少し考え込む。


「…なるほどな、事情は理解した。だが、1年目だからといって手を抜く気はない。指導も評価も、他の学生たちと同等に扱わせてもらう。心得ておけ」


その言葉にソニアは一瞬目を丸くする。


(流石、鬼教官と言われるだけあるわね。とはいえ、そのくらいしてもらわないとこっちも困るし…むしろ都合が良いわ)


そう判断したソニアはユリウスに一礼する。


「承知いたしました。ご指導のほどよろしくお願い申し上げます」


そんなソニアたちの様子に周りの同級生たちがヒソヒソと話をしていると、ユリウスは彼らを一瞥する。

その気迫に全員がビシッと姿勢を正した。


「…では、始めるか」


そう言ってユリウスは講義を開始する。

ソニアはそんな彼の様子をじっと見つめた。


(初回だし、軽く基本理論の振り返りから始めるのかしら…)


そんなソニアの予想を裏切り、ユリウスはいきなり実技指導を行い始める。

周りの同級生たちもソニアと同じように考えていたのか少し戸惑いの色が見られるも、そんなのお構いなしにユリウスは講義を進めていく。


(…復習、しておいて正解だったわね)


ソニアはそう考えながらも、ユリウスの指導を受けるのだった。



───────

────

──


講義開始後1時間半が経ち、ユリウスの指導についていけず泣き出す者が何人も出ている中、ユリウスは講義の終了を宣言した。


「今日はここまでだ」


ユリウスの言葉に学生たちは揃って礼を言い、地面に座り込んだ。


「つ、疲れた…」

「噂通りだな。マジで鬼教官だぜ…」

「あたしもう泣きそう…」


学生たちがグチグチと内輪で話している中、ユリウスはポツンと1人立っているソニアに声をかけた。


「…シュミット、ちょっと来い」

「はい」


何事かとソニアは急いでユリウスの元に駆け寄る。


「お前、魔術訓練の講義は今日が初めてか?」

「はい。他学年の講義は明日から開始されます」

「なるほど…」


ユリウスはそう言って少し考え込んでから続ける。


「基礎的なことや理論についてはよく理解しているようだが…やはり圧倒的に経験不足だな。第3学年の講義を受けるには、足りない部分が多い」

「重々自覚はしております。申し訳ございません」

「今後、第1学年の講義で基礎部分を学んでいくことにはなるだろう…。だが、そのペースでは第2、3学年の魔術訓練の単位は落とすと考えて良い」

「…はい」


歯に衣着せぬユリウスの言葉に、ソニアはやや俯き気味に返事をする。


(基礎ができていない以上、こういう事態を予想していなかったわけではないけれど…やっぱり面と向かって言われると、流石に堪えるわね…)


そう考えるソニアをユリウスはじっと見つめた。


「…とはいえ、初回でここまで付いて来られるなら見込みが無いわけでもない。少しコツを教えてやるからメモを取っておけ」

「はい、承知いたしました」

「まずは…」


ユリウスは細かくアドバイスを始め、ソニアはそれを一言一句漏らさぬようにメモに書き記す。


「──後は、ネーベルと自分の魔力との繋がりを意識しろ。術式展開後の魔術の維持に大きく関わってくるからな」

「…はい」

「とりあえずはそんなものか…。まず、そのメモを一通り読み返した上で、1度魔術を展開してみろ。種別は問わない」

「承知いたしました」


メモをしっかりと読み込んだソニアは、サッと右手をかざす。


(術式構築…炎魔術、操作型──)


ソニアは展開の手順を確認しながら、基礎魔術の1つである炎魔術を展開した。

ユリウスはそんな彼女の様子をじっと観察する。


「…しばらく、そのままの状態を維持しろ」

「はい」


ソニアは集中して魔術で作り出した火球を維持し続け、ユリウスは暫しその様子を見守った。


「…なるほどな。シュミット、向こうの的にその火球を当ててみろ」


そう言われたソニアはユリウスの指す先に視線を向ける。

指定された的は、ソニアにとっては果てしなく遠く見えた。


(さっきの講義でも、当てられた学生は1人もいなかったわよね…?)


ソニアはそう思いながら照準を合わせようとする。

とはいえ、初心者のソニアは狙い方にすら慣れていない。


(これを外したら、本格的に見放されるということなのかしら…)


そんな考えが頭をよぎり、思わず自嘲気味に息が漏れた。


(…悩んだところで、経験不足なのはどうにもならないものね。こういう時は勢いが大事なのよ、きっと…)


ソニアは覚悟を決めると、火球を的に向けて放った。

だが火球はすぐに軌道を外れ、ふらつきながら飛んでいく。

それでもかろうじて、的の端をかすめて、そのまま背後の壁にぶつかった。


(せっかくアドバイスをいただいたのに、結局無駄にしてしまったわ…)


そう思うソニアを余所に、一連の挙動を真剣な表情で眺めていたユリウスはソニアのそばに歩み寄った。


「大尉…申し訳──」


そう言いかけたソニアの頭に、ユリウスの手がポンッと置かれる。


「驚いたな。思いのほか悪くない」


そう言うユリウスの言葉に、ソニアは怪訝な顔でユリウスを見上げた。

そんな彼女と視線を合わせつつ、ユリウスは言葉を続ける。


「…今日の講義では、どの学生もあの的に掠らせることすらできなかった。それを、僅かな助言でここまでできるとは…」


そう言われたソニアは、どう返すべきなのか一瞬悩んでしまう。


「…大尉のアドバイスが的確だったのだと思います」


そう告げると、ユリウスは少し驚いたように目を丸くした。


「お前、妙に謙虚だな…まあ良い。こういう学生の方が、こちらとしても指導のし甲斐がある」

「…光栄です」


ソニアはそう言いながら、同級生たちの視線が自分の背中に突き刺さるのを感じる。


(きっと、後から影でアレコレ言われるのでしょうね…)


そう思うソニアは、内心つい気が滅入ってしまう。

そんな彼女の様子に、ユリウスは不思議そうに小首を傾げる。


「…どうした?」

「いえ…何でもございません。ご丁寧にご指導ありがとうございました」

「気にするな。次回からもしっかり付いて来い」

「承知いたしました」


ソニアが淡々とそう言って一礼すると、ユリウスはそのまま訓練所から去っていった。



───────

────

──


その後数週間が経ち、その日もソニアはユリウスの魔術訓練の講義を受けていた。

講義が終わり、ユリウスが講義室を出ようとすると後ろから声をかけられる。


「クロイツァー大尉」


その声にユリウスが振り返ると、ソニアがいつものようにメモを片手に立っていた。


(相変わらず、勉強熱心な学生だな…)


ユリウスはそう思いながら一瞬フッと笑うと、ソニアに向き直る。


「シュミット、どうした?」

「今日の講義で、どうしても理解できなかった点があるのですが…質問よろしいでしょうか?」

「もちろんだ、言ってみろ」


ユリウスがそう答えるとソニアは簡潔に不明点を彼に伝え、ユリウスも1つ1つ丁寧に彼女の質問に答えていく。

ソニアはそれをしっかりと聞きながら全てをメモに取った。


「──という理屈だ。理解できそうか?」

「はい。ご丁寧にありがとうございます」


頭を下げるソニアに、ユリウスは再度声をかける。


「他に聞きたいことがあれば、遠慮なく質問しに来い。わかったな?」

「はい、ありがとうございます。お引き止めして申し訳ございません」

「気にするな。次回は、先ほど説明したことを踏まえて、講義に臨むように。後、自主鍛錬を続けるなら魔術コントロールにもう少し比重を置け」

「承知いたしました」


ソニアがそう言って一礼すると、ユリウスはそのまま講義室を後にする。

次の講義に向かおうとするソニアの耳に、これ見よがしにボリュームを上げて話す同級生たちの声が入ってきた。


「何なのあの子…。基礎もそれなりのくせに贔屓されちゃってさ」

「顔じゃね?軍ってやっぱ男社会だし、女に優しくしたがるやつもいるんだよ…」

「でも、あの鬼教官だぞ?枕でもして手懐けたんじゃねーの?」


そんな同級生たちの言葉を、ソニアは不快に思う。


(あることないこと…いえ、ないことばかりよくもまあ次々に思いつくものね…。大尉にも失礼だわ)


彼らの話にそれ以上耳を傾けないようにして、ソニアはそそくさと講義室を後にした。



───────

────

──


その日の夜、ソニアは再び訓練所で自主鍛錬に励んでいた。

ユリウスに指導された内容を思い出しながら魔術を使ってみるが、同時に同級生たちからの心無い言葉も思い出してしまう。


「…他人からアレコレ言われることには、もういい加減慣れているけれど…」


ソニアは動きを止め、深くため息をつきながらその場に座り込んだ。


「たまーに、しんどくなるのよね…」


そう呟くとポロッと涙が零れ落ち、ソニアは慌ててそれを拭う。

それでも涙は止まらず、ソニアは額を膝にくっつけると、そのまま1人静かに泣くのだった。


しばらく経ってようやく涙を止めることに成功したソニアは、誰もいない訓練所の隅に座り込んだまま、何も考えないようにぼんやりと天井を見上げる。


(今日は、このくらいで切り上げようかしら…)


そう考えていると、不意に声をかけられた。


「シュミット…?大丈夫か?」


声の方に顔を向けると、そこにいたのは心配そうな表情を浮かべているユリウスだった。


「…クロイツァー大尉?」


そう呟きつつ、ソニアはハッと表情を変える。


(ぼんやりし過ぎて、また閉所時間が過ぎてしまったの…?)


急いで時間を確認しようとするソニアを、ユリウスは遮る。


「閉所時間まではまだある、心配するな。…どうした?具合でも悪いか?医務室まで──」

「いえ…何でもございません」


ソニアはパッパッと埃を払いながら立ち上がってそう答えた。


「そうか…?あまりそうは見えないが…」

「本当に問題ありません。では、私はこれで失礼させていただきます」


ソニアは淡々とそう告げてユリウスに一礼すると、ユリウスに顔を見られまいと素早く訓練所を後にする。

ユリウスはそんなソニアに声をかけられず、複雑な表情で彼女を見送るしか無いのだった。

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