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《碧眼の花と緋の刃》軍に拾われた少女は、差別と陰謀の時代に抗い、愛を知る  作者: 伊太利ひなぎく
第1章

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第9話 前編《休日の邂逅①》


─聖暦5607年2月下旬─


第3学年前期の各種試験を無事終えたソニアは、試験明けの短い休暇を利用し、久々に実家へと帰省していた。


「ソニア、俺はそろそろ出るぞ」


その声に、自室でゴソゴソしていたソニアは部屋から出て、1階のリビングへと向かう。


「もう?始業時間までまだあるでしょ?」

「今日は朝一で会議があってな。資料の最終チェックをしておきたい」


その説明にソニアは「なるほどね…」と呟き、目の前の大柄な男性と目を合わせた。


「いってらっしゃい、父さん」

「ああ。とりあえず、夕方に時計塔の前で待ち合わせするか」

「わかったわ」


ヒラヒラと手を振って玄関に向かって行く父親を見送ったソニアは、再度2階の自室に戻る。

再びクローゼットを漁って適当に服を見繕うと、姿見の前でくるりと1回りして首を傾げた。


「これで良いかしら…?よくわからないけれど、父さんが選んできた服だし…きっと大丈夫よね」


可愛らしいレース襟の、膝下まであるシルエットの落ち着いたデザインのワンピースを着たソニアは、そう独りごちると戸締りをして自宅を後にする。


(とりあえず、夜までに父さんへのプレゼントを絶対に買わないと…)


そう考えつつ、そのまま中心街へと向かった。


この日は奇しくもソニアの父の誕生日で、ソニアは慣れないながらも1人街に繰り出したのである。

ソニアは鞄から事前に作成した店のリストを取り出すと、そこに書かれた店舗を1軒ずつ回っていくことにするのだった。



───────

────

──


数時間後、ソニアは中心街にある公園のベンチにそっと腰掛ける。


(なかなか見つからないものね…)


晴れた青空をぼんやりと見上げながら、小さくため息をついた。


それなりの数の店を回ってみたものの、予算が合わなかったり父親の好みには合わなさそうだったりと、ソニアは苦戦していたのである。

ふと時計を確認すると、時刻は既にお昼時になっていた。


(お店の昼休憩が終わるまで、どこかで時間を潰さないと…)


そう考えていたその時、突然ソニアの隣にドカッと誰かが座ってきて彼女に声をかける。


「ねーねー、君1人なの?暇なら俺らと一緒に遊ばない?」

「えっ…?」


ソニアがふと顔を上げると、いつの間にか見知らぬ若い男3人が彼女を取り囲んでいた。


(ひょっとして…これ、『ナンパ』ってやつなんじゃ…?)


そう判断したソニアは、素早くベンチから立ち上がる。


「申し訳ありませんが、これから約束があるので失礼させていただきます」


そう言ってその場から立ち去ろうとするソニアの腕を、男の1人が鷲掴みにした。

ソニアは思わず声を上げる。


「離してください!」

「えー、ちょっとくらい良いじゃん?ね?」

「お、よく見たらこの子めちゃ可愛いじゃん。ねぇ、一緒に昼飯でも食おうよ〜」


ソニアを値踏みするような男たちのニヤついた視線に、彼女は背筋がゾクリとする。


(…怖い。逃げなくちゃ…)


そう思ったソニアは腕を掴む手を振り解こうとするが、相手も離すまいと更に力を込めた。


「やめてください!」

「そう言わずにさぁ。ちょっと付き合ってよ、ね?」


ゲラゲラと笑いながらそう言う男たちに、ソニアはどうすべきなのかぐるぐると考えを巡らせる。


(護身術は当然習っているけれど…一般市民相手だと、どこまでが正当防衛の適用範囲なの?それに、下手に手を出したら、この人たちに過剰防衛だって騒がれるかもしれない…。でも、このままじゃ──)


とその時、不意にソニアの腕を掴んでいる男が「ぎゃあぁぁ!」と悲鳴を上げた。


「痛ってぇ!何すんだよ、離しやがれ!」


男の悲鳴に、素早くソニアは顔を上げる。

見知った男性が男の腕を捻り上げており、ソニアは思わず目を見開く。


「クロイツァー大尉…?」


ポツリとソニアがそう呟くと、ユリウスは素早く彼女を男から引き剥がし、自分の後ろへと押しやる。

それから男たちをギロリと睨みつけると、どすの利いた声で口を開いた。


「…俺の連れに、何か用か?」


そう言ったユリウスの圧に屈したのか、男たちは震え上がってそそくさと退散していく。

ソニアは男たちの姿が見えなくなるとホッと一息つき、ユリウスに頭を下げた。


「大尉、ありがとうございます。助かりました…」


そう礼を言うソニアに、ユリウスは呆れ気味に口を開く。


「お前な…こういう時のための護身術だろうが」

「申し訳ありません。どこからが過剰防衛なのか考えていたら、行動が遅れまして…」

「ああいうのは、問答無用で殴って問題ない。明らかに向こうに非があるからな」


そう言ってため息をつくユリウスを見て、ソニアは首を傾げる。


「ところで、どうして大尉がこんなところに?今日は出勤日だったと記憶していますけど…」

「実は…急遽、休日出勤分の代休を取らされてな。特に予定もなかったから適当に街中をうろついていたんだが…まさか、ソニアが絡まれているところに出くわすとは思わなかったぞ」


ユリウスは頭を掻きながらそう言うと、ソニアを上から下までじっと見つめて再度口を開く。


「…お前は、恋人と待ち合わせでもしていたのか?」

「え?いえ…前にもお話しした通り、私に恋人はいませんけど…」


ソニアの言葉に、ユリウスは腕を組んで首を傾げる。


「そうなのか?その格好、てっきりデートにでも行くのかと思ったんだが…すまない、俺の勘違いだったようだな」


そう言われたソニアは自分の服装をじっと確認した。


(私、そんな変な格好してるのかしら…)


そんな様子の彼女にユリウスは声をかける。


「…それなら、お前は何をしていたんだ?」

「実は…」


父親の誕生日プレゼントを探している旨を、簡単に説明するソニア。


「──という状況だったんです」

「なるほど、父親の誕生日か…」


ユリウスはそう呟くと、ソニアに視線を向けてフッと微笑む。


「何だかんだ言いつつ、きちんとした父娘(おやこ)関係を築いているようだな。父親とはあまり話をできていないのかと少し心配していたが…安心したぞ」


そう言ったユリウスは、ふと顔を上げてぐるりと辺りを見回す。


「…ソニア、この後もお前1人でうろつくつもりなのか?」

「あ、はい。そのつもりですが…何か?」


ソニアがそう首を傾げると、ユリウスはしばらく無言で考え込んだ後、ポツリと呟いた。


「…俺も付き合おう」


その言葉に、ソニアは思わず目を丸くする。


「え?でも、せっかくのお休みなのに──」

「さっきも言ったが、特に予定も無いからな。それに…このままお前を1人にしておくと、面倒なことになりそうだ」

「えっと…?ありがとうございます…」


ソニアは状況をよく理解していなさそうな表情を浮かべながら、そう礼を言う。

そんな様子の彼女に苦笑いしつつ、ユリウスはくるりと向きを変えた。


「とりあえず、昼飯にでも行くか。この時間はどの店も昼休憩中だろうからな」

「そうですね。承知いたしました」


ソニアはそう答えると、ユリウスと共に公園を後にするのだった。



───────

────

──


しばらくして、中心街にある小綺麗なレストランにやってきたソニアとユリウス。

通された席に腰を下ろしたユリウスは、正面に座るソニアにメニュー表を手渡した。


「好きなものを頼め」

「あ、はい…」


ソニアはキョロキョロと店内を見回しつつユリウスからメニュー表を受け取り、中に目を通す。

ソワソワと少し落ち着かない様子のソニアに、ユリウスは首を傾げつつ口を開く。


「ソニア、どうかしたか?」

「えっと…その…」


ソニアはユリウスとメニューに交互に視線を向けつつ、言い淀んでしまう。


(まさか、こんな良さ気なお店に入るなんて思ってなかったなんて言えないし…手持ちのお金で足りるかしら…)


その様子に何となく彼女の言わんとすることを察したユリウスは、つい苦笑いしてしまった。


「…俺が出すから値段は気にしなくて良い。遠慮するな」

「いえ、そういうわけには…。それに、もっとこう…屋台とか大衆食堂とか、そういう庶民的なお店で良かったんですけど…」


申し訳なさそうにそう言うソニアに、思わずユリウスはため息をつく。


「あのな…その格好のお前を、そういう所に連れて行けるわけがないだろう」

「えっ…?」

「大衆食堂なんかに入ってみろ、入店直後から注目の的だぞ」

「…?」


戸惑ったように無言で首を傾げるソニアに、ユリウスはやや呆れ気味に口を開いた。


「さてはお前、自分の容姿の良さを自覚していないな?」

「容姿、ですか…?」


ソニアの返答に、「やはりそうか…」とユリウスは深く肩で息をつく。


「全く…それなら、これからはその辺りをきちんと自覚して行動するように心がけろ。でなけば、さっきの男どものような連中にしょっちゅう絡まれることになるぞ」

「しょっちゅうだなんて、流石に大袈裟では…?」


少し混乱気味にそう首を傾げるソニアに、ユリウスは呆れ顔を浮かべる。


「そんなわけがあるか。ソニアは気付いていないようだったが…お前に絡んでいた連中、あの後遠目からずっとお前の様子を伺っていたんだからな?」

「え?そうだったんですか…?」


そう言うソニアに、ユリウスはコクリと頷いた。


「それに、他にもソニアを注視している男が複数いたのも確かだ」

「全然気付きませんでした……あっ、だから同行を?」


ソニアがふとそう声を上げると、ユリウスは「今更気付いたのか…」と言いつつ苦笑いした。


「ソニアを1人にしていると、また妙な男どもが寄って来そうだと判断させてもらった。ああいう軽い男は、特段珍しくもないからな…ウチのヴェルナーが良い例だろう。…いや、あれは悪い例か?」


腕を組みながら首を傾げるユリウス。

そんな彼の言葉に、ソニアは仮配属が決まった当初のことを思い返す。


(そういえば、初めの数日はローデ少尉から何度もお誘いを受けたわね…。その度に、大尉たちから叱られていらっしゃったけれど…)


何となくユリウスの言わんとすることを理解したソニアは、彼に向き直って口を開いた。


「…今後は、重々注意するように心がけます」

「わかれば良し。で、注文は決まったか?」


その言葉にソニアがコクリと頷くと、ユリウスは彼女の注文を確認してからサッと店員を呼ぶ。

ソニアはその様子をじっと見つめており、注文を終えたユリウスは何事かと首を傾げた。


「どうした?」

「いえ…大尉もよく女性と出かけられるのかと思いまして」

「は…?」


ソニアからの思わぬ言葉に、ユリウスは呆気に取られたように目を見開いてしまう。


「注文なんかもスマートでしたので、慣れていらっしゃるのかなと…」


そう言うソニアに、ユリウスは思わず苦笑いで口を開いた。


「あのな…俺は今年27なんだ。こういう場でどう行動すべきなのかくらい、一般常識の範囲として身に付けているに決まっているだろう」


ユリウスの言葉に、ソニアはハッと気付いたように表情を変える。


「あっ、なるほど…大変失礼いたしました」

「気にするな。ソニアはまだ16だ、知らないことが多くても仕方がない」

「私が子供っぽい、ということでしょうか…?」


少しムッとした様子でそう言うソニアに、ユリウスは思わずフッと笑ってしまう。


「子供っぽいも何も、お前は実際まだ未成年の子供だろう?」

「でも、後2年すれば大人ですよ?そう変わらないと思いますけど…」

「ソニアの場合はその落ち着き具合のせいか、大人びて見えるのは否定しないが…」


ユリウスはそう言いつつ、目の前のソニアをじっと見つめた。


(今思えば…こいつを初めて訓練所で見かけた時には、16の学生だとは微塵も思わなかったな)


そんなユリウスの視線を受けたソニアは、少し首を傾げて口を開く。


「あの…大尉?」

「何でもない、気にするな」


そう言ったユリウスは、話題を変えようとソニアに話しかける。


「そういえば…父親へのプレゼントは、何を買うのか決まっているのか?」

「いくつか考えてはみたんですけど、実際見てみるとあまりしっくりこないと言いますか…」


悩まし気にそう言うソニア。

そんな彼女の様子をじっと伺いつつ、ユリウスは腕を組んで椅子の背にもたれかかった。


(まあ、相手が養父ともなれば、贈り物にも余計に気を遣うのは致し方ないか…)


ユリウスはそう考えつつ、ソニアに向き直って話を切り出す。


「例えば…趣味の物だとか好物だとか、そういうものにしてみたらどうだ?」


そんな彼の提案に、ソニアは少し言い淀んでから口を開く。


「実は、それも考えたのですが…父の好きなものはお酒なんです。なので、未成年の私では購入できなくて…」

「なるほどな…」


そう言ったユリウスは少し考え込むと、ふと何かに気付いたような表情を浮かべた。


「…俺が一緒なら、酒も買えるんじゃないか?」

「えっ…?」


少し驚いた様子のソニアに視線を向けつつ、ユリウスは続ける。


「俺の身分証を使えば良いだろう。お前が飲むわけじゃないなら、特に問題にはならないはずだ」

「確かに仰る通りですが…どう買ったのかを、父から問い詰められそうな気もします」

「その時は、俺の名前を出してくれて構わない。別段やましいことをしているわけでもないしな」


ユリウスの提案にソニアは少し考え込む。


(確かに、父さんへのプレゼントとなると、お酒が1番喜んでくれそうなのよね。他にこんな提案をしてくれる大人なんて、周りにいないし…)


そう判断したソニアは、ユリウスにまっすぐ向き直る。


「でしたら…お金はきちんとお返ししますので、代理購入をお願いできますか?」

「もちろんだ。…以前、俺の上官から勧められた店がある。後でそこに行ってみるとするか」


ユリウスの言葉にソニアは一瞬動きを止め、おずおずと口を開く。


「上官から勧められたお店…ですか?」

「ああ、俺の直属の上官も酒好きでな。年代物の酒が揃っているという話だったが…正直、俺もあまり詳しくはないんだ。お前、父親の好みは把握しているか?」


その言葉に、ソニアは少し硬い表情のまま小さく頷く。


「はい…大体ですが把握しています」

「よし、それなら向こうに着いてから吟味するとしよう」

「…ありがとうございます、大尉」


ソニアがそう言ってペコリと頭を下げたタイミングで、2人の食事が運ばれて来る。

テーブルに並べられた料理からは良い香りが漂っており、その香りにソニアのお腹が小さくグゥ…と鳴ってしまう。


(聞こえてしまったかしら…)


ソニアは思わず顔を赤くして俯き、その様子にユリウスはつい笑ってしまった。


「…腹が減っているなら、好きなだけ食え」

「ありがとうございます…いただきます」


そう言ってソニアは自分の皿の料理を口に運ぶ。


(あ、美味しい…)


そう思ったソニアは、料理をパクパクと食べ進めていく。

ユリウスはそんな彼女の様子を微笑ましく思いつつ、自分も食事を進めるのだった。



食後の紅茶を飲み終えたソニアは、遠慮がちにユリウスに声をかける。


「あの…出る前に、お手洗いに行って来ても良いでしょうか?」

「ああ。ここで待っているから心配するな」


そう答えるユリウスにペコリと頭を下げると、ソニアは一旦トイレに移動する。

その後、戻って来たソニアの姿を確認したユリウスはサッと立ち上がった。


「そろそろ行くか?」

「あ、はい」


ソニアはそう言うと、ゴソゴソと鞄から財布を出しつつレジへと向かおうとする。

そんな彼女を制して、ユリウスはそのままレストランの出口の方へと歩き出した。


「大尉、まだお会計が──」

「お前が席を外している間に、既に済ませた」

「えっ…?では、私の分はおいくらでしたか?」


そう言いながら財布を開けようとするソニアの手を、ユリウスは素早く遮る。


「俺が出すと言っただろう。お前も弟子なら素直に奢られていろ」


そう言うユリウスに、つい申し訳なく思ってしまうソニア。


(でも…ここで固辞し過ぎても、逆に大尉に失礼よね)


そう判断すると、素直にペコリと頭を下げる。


「…ありがとうございます。ご馳走様でした」

「気にするな。…行くぞ」

「はい」


ソニアはそう答えると財布を鞄に仕舞い、ユリウスに続いてレストランを後にするのだった。

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