第7話 前編《師の部隊へ①》
─聖暦5607年1月─
第3学年の武術訓練講義を終え、次の講義に向かおうとするソニア。
そんな彼女をルイーゼが引き止めた。
「シュミット、少し良いか?」
「はい、お伺いいたします」
振り返ってそう言ったソニアに、ルイーゼは素早く書類をソニアに手渡す。
(何かしら…?)
ソニアが書類に目を向けると、そこには『第3学年 部隊実習 希望調査書』と書かれていた。
「昨日他の連中に配布した際、お前は別学年の講義で不在だったからな。1日遅れですまないが、今渡しておく」
ルイーゼの言葉に、ソニアは(そういえば…)と以前受けた説明を思い返す。
(第3学年の後期から、卒業後の本配属に向けた実習があるんだったわね。確か…どこかの部隊に仮配属して、色々と学んでいくってシステムだったような…)
そう考えながら書類をパラパラとめくるソニアに、ルイーゼは続けた。
「提出期限は来週金曜日の午前中だ。それまでに、仮配属を希望する部隊の長に許可のサインをもらった上で、私まで提出するようにな」
「承知いたしました」
「一応、仮配属先の候補はそこに全て載っている。時間のある時に、一通り目を通してみると良い」
ルイーゼはそう言うと、少し考え込むように黙り込む。
何事かと軽く首を傾げるソニアに向き直ると、彼女は言葉を選んでいるかのようにゆっくりと話し始めた。
「仮にだが…もし、未記載の部隊への仮配属希望するようであれば、まずは該当の部隊長に相談してみなさい。…わかったな?」
「あ、はい…」
「しっかり考えて、自分が下につきたいと思う部隊長を選ぶんだぞ?」
「ご丁寧にありがとうございます。そのようにいたします」
ルイーゼの念押しするような口調に違和感を覚えるソニア。
(どういうことなの…?)
そう思いつつも、ソニアは一礼する。
そんな彼女にルイーゼはサッと答礼すると、そのまま講義室を後にした。
1人になったソニアは、じっくりと仮配属先候補一覧に目を通す。
「…あら?クロイツァー大尉のお名前が載っていないわ…」
どうせなら、自分の師の部隊が良いだろうと考えていたソニアは、一覧にユリウスの名前が無いことに気付いて思わず考え込んでしまう。
(でも、ザクセン中佐のあの言い方だと…載っていない部隊がダメだというわけでもないのよね?一度、大尉に相談してみようかしら…)
ソニアはそう考えつつ、次の講義へと向かうのだった。
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────
──
午前の講義を終え、軽く昼食を済ませたソニアは、ユリウスの執務室に向かって本部の廊下を歩いていた。
昼休みということもあり、本部の廊下はいつもより人通りが多い。
すれ違う正規軍人たち全員から次々と視線を向けられるソニアは、何となく居心地の悪さを感じてしまう。
(…やっぱり、学生1人で歩いてると目立つわよね。早く大尉の執務室に行きましょう)
そう考えて早足で歩いていると、廊下の曲がり角で誰かとぶつかってしまう。
「申し訳ございません!…あっ」
素早く謝罪しつつ顔を上げたソニアは、ぶつかった相手がユリウスだったことに気付く。
ユリウスは、やや呆れ顔でソニアを見下ろしていた。
「シュミット…お前な、歩く時くらいきちんと前を見ろ」
「はい、申し訳ございません」
「お前が1人でこの辺りをうろついているなんざ、珍しいな。どうかしたか?」
その言葉に、ソニアは一瞬言い淀んでから口を開く。
「…大尉をお探しておりました」
「俺を?」
そう首を傾げるユリウスに、ソニアはコクリと頷くとスッと両手で調査書を差し出した。
それを受け取ったユリウスは、ザッと中身を確認する。
「これは…部隊実習の調査書だな。何か問題でもあったのか?」
「いえ、特に問題はありません。ただ、その…大尉に少しご相談したいことが…」
ソニアの言葉に、ユリウスは思わず少し目を丸くしてしまう。
(まさか、弟子から仮配属の相談をされるとは予想外だったな…。だが、編入したばかりのシュミットが、担当指導教官以外の軍人をほとんど知らないのは当たり前か)
そう判断すると、ソニアに向き直った。
「…立ち話も何だからな、執務室まで来るか?話はそこで聞こう」
「はい、よろしくお願いいたします」
そう返事をするソニアを連れて、ユリウスは自身の執務室へと戻って行くのだった。
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──
「入れ」
「失礼いたします」
ユリウスは執務室の扉の鍵を開けてソニアを室内に招き入れると、そのまま休憩スペースの方へと誘導する。
彼女をソファに座らせると、自身は飲み物を用意すべく給湯スペースに移動した。
それを見たソニアは、ソファからサッと立ち上がるとユリウスの隣に移動する。
「お手伝いいたします」
そう言ってユリウスを見上げるソニアに、彼は小さくため息をつく。
(ただ、大人しく座って待っていれば良いものを…)
ユリウスは、やれやれとため息まじりで口を開いた。
「…わかった。そこのカップを取ってもらえるか?」
「はい」
しばらくして、2人はそれぞれコーヒーと紅茶の入ったカップを片手に、揃ってソファに腰を下ろす。
カップに口をつけながらどう話を切り出すか悩んでいるソニアの様子に、ユリウスは自分から彼女に声をかけた。
「…それで、相談とは何だ?どの部隊を選んだとしても、シュミットの実力であれば問題ないとは思うが…」
「いえ、そうではなくて…その…」
珍しく言い淀むソニアの様子に首を傾げつつも、ユリウスは静かにコーヒーに口をつけながら彼女の次の言葉を待つ。
少しして意を決したソニアは、ユリウスの目をまっすぐに見つめた。
「大尉の部隊に仮配属させていただくことは、可能でしょうか?」
「は…?」
予想外のソニアの言葉に、ユリウスは思わず驚きの声を上げてしまう。
(俺の聞き間違いか…?いや…確かに今、シュミットは『大尉の部隊に』と言ったよな…?)
僅かにそう動揺しつつも、ユリウスは努めて冷静に口を開く。
「お前にそう言ってもらえるのはありがたいが…部隊実習の仮配属先の候補は、予め決まっているだろう?」
「私もそう思っていたのですが、実はザクセン中佐から…」
そう言いつつ、ソニアはルイーゼから聞いた話を一通りユリウスに説明する。
「──ということでして…」
「なるほどな、中佐がそんなことを言っていたのか…」
ユリウスは腕を組みながら、ソニアの説明を頭の中で反芻する。
(事情は理解した。中佐の言い方がどうも引っかかるが…)
そう思いつつもユリウスは立ち上がり、執務スペース内の本棚の一角に視線を向けた。
「…まずは、本当にウチに仮配属が可能なのかどうか、諸々の規則を一通り調べてみるべきだろうな。シュミット、3時限目は?」
「いつも通り空いております」
「…なら、お前も手を貸せ」
ユリウスの言葉に、ソニアは思わず「えっ?」と声を上げてしまう。
「ですが、大尉は業務が──」
「少しくらい問題ない。それに、提出期限がある以上は、早めに片付けておいた方が良いだろうからな」
「…ありがとうございます」
ソニアはそう言うと立ち上がり、ユリウスに続いて休憩スペースを出ると本棚の前に立つ。
ユリウスは書籍を取り出すと、次々とソニアに手渡していく。
ソニアの手には、ずっしりと重い革表紙の書籍が数冊積まれた。
「…それらには、軍大学の規則や規定が載っている。お前はそれを一通り確認してくれ。俺は軍の方の規定を調べてみよう」
「承知いたしました」
ソニアがそう答えるとユリウスは空いている席から椅子を1脚持って来て、自分のデスクの前に置く。
ソニアとユリウスは並んで席に着くと、それぞれの書籍に目を通し始めた。
しばらくすると、執務室の扉が勢い良く開いてユリウスの部下たち4人がガヤガヤと室内に入って来る。
が、ユリウスの隣に腰掛けるソニアの姿に気付くと全員が話を止め、一瞬遅れてギルベルトが驚いたように声を上げた。
「はぁ!?嬢ちゃん?」
その声にソニアはふと顔を上げて口を開く。
「ベルクマン准尉…皆さんも。お邪魔しております」
ソニアがペコリと頭を下げると、ヴェルナーは首を傾げつつユリウスに声をかける。
「え?大尉、2人で何やってんすか?」
「…調べ物だ。お前たちは、休憩時間が終わったら通常通り仕事を進めていろ」
ユリウスが書籍から目を離さずにそう答えると、4人はそれぞれの席に戻って業務の準備を始めた。
そのまま午後の始業時間を迎え、ギルベルトは引き続き調べ物をしているユリウスの手元をじっと覗き込む。
「んー?こりゃ、軍の規則か?」
「ああ」
短く答えるそうユリウスの手元から目を離したギルベルトは、今度はソニアの手元に目を向ける。
「…嬢ちゃんの方は軍大学のだな。何かあったのか?」
そう首を傾げるギルベルト。
ユリウスは書籍から目を離してソニアに声をかけた。
「…シュミット。ギルベルトたちも無関係で無い以上、今ここで話をしても構わないか?」
「はい、問題ありません」
ソニアがはっきりとそう答えたのを確認したユリウスは、全員に一旦手を止めさせてから口を開く。
「お前たち、軍大学の3年次後期から部隊実習があるのは知っているな?」
「あー…そういや、そんなのあったっすね。懐かしいなー」
眉を軽く上げて懐かしそうにそう言うヴェルナー。
その斜め向かいで、シュテファンは首を傾げながら口を開く。
「僕も制度くらいは知ってますけど…それが何か?」
「…シュミットが、ウチへの仮配属を希望している」
ユリウスの言葉に、ギルベルトたちは4人揃って「はあ!?」と驚きの声を上げた。
「いやいやいや…そもそもが、大尉の名前はリストに載ってねぇだろ?」
そう告げるギルベルトに同意するように、ラルフもコクコクと首を縦に振る。
「そうですよ…それに、仮配属先に選定されるのは、部隊長が中佐以上の隊じゃありませんでしたっけ?」
ラルフがそう言って首を傾げると、ユリウスは小さくため息をつく。
「俺もその認識だったんだが…ザクセン中佐が『リスト外の部隊にも仮配属できる』といったようなことを、シュミットに吹き込んだらしくてな」
ユリウスの説明に、ソニアは小さく頷いた。
「はい。ですので、せっかくなら大尉のところにと思いまして…」
そう言うソニアに、ヴェルナーたちは顔を見合わせてフッと笑う。
「…良いんじゃねーの?小規模隊は小規模隊で、何かしら学べることがあると思うぜ?」
「ですね。僕が実習に関して力になれるかは甚だ疑問ですけど…」
そう話すヴェルナーとシュテファンの会話を聞きつつ、ギルベルトはニヤリと笑って口を開いた。
「まあ…嬢ちゃんのことは、元々大尉が本配属で採るつもりだったからな。ウチに来るのが1年半早まった、とでも思えば良いんじゃねぇか?」
「えっ?そうだったんですか…?」
ソニアが少し驚いたようにそう言うと、ユリウスは少し気まずそうに頰を掻く。
(ギルベルトめ、余計なことを…)
そう思いながら、ちらりとソニアに目を向ける。
彼女は少し首を傾げてユリウスを見つめており、ユリウスはやれやれと小さくため息をついた。
「…ああ、そうだ。バングルを付け始めたことで、お前の本来の魔術の実力もよくわかったしな。お前ほど優秀な人材を、みすみす余所にやるのは惜しい」
「お褒めに預かり光栄です…」
ソニアが僅かに照れ臭そうにそう返すと、ヴェルナーたちは目を丸くしてソニアとユリウスの様子を見つめる。
「嘘だろ?あの大尉が、学生を…褒めただと…?」
「それほど優秀ってことだねぇ…」
そう驚くヴェルナーとラルフの横で、シュテファンが首を傾げた。
「バングルって…何のことですか?」
その言葉にソニアは一瞬硬直してしまい、ユリウスもどうしたものかと少し考え込む。
「…シュミット。ウチに仮配属を希望する以上は、遅かれ早かれいずれ話すことになるぞ?」
「そう、ですよね…」
ソニアは内心不安に思いつつも顔を上げ、ユリウスをまっすぐに見つめた。
「大尉の部下の方々というのであれば、信頼に値する…という認識で間違いないでしょうか?」
「ああ、その通りだ」
ユリウスのはっきりとした返答に、ソニアは少し俯いて考え込む。
それから意を決すると、ユリウスに向き直った。
「…であれば、大尉にお任せいたします」
そう言われたユリウスは、真剣な表情でソニアを見つめ返す。
「わかった。…なら、今から解除魔術をかけるぞ?その方が説明するのに手っ取り早いからな」
「はい」
ソニアの答えを聞いたユリウスは、ヴェルナーたちの方へと振り返ると真剣なトーンで口を開いた。
「…お前たち、今から目にすること耳にすることは、全て他言無用だ。わかったな?」
ユリウスの言葉にヴェルナーたちは無言でコクコクと頷き、それを確認したユリウスはソニアのバングルに解除魔術をかける。
ソニアの瞳はゆっくりと翠色から澄んだ碧色へと色彩を変え、ギルベルトを除く3人はその光景に目を丸くした。
「これは驚いたなぁ…」
「その眼の色って…俺、初めて見るぞ」
思わずそう呟くラルフとヴェルナー。
3人から一斉に視線を向けられるソニアは思わず目を逸らせてしまい、その様子にユリウスは彼らに声をかける。
「…珍しいのは理解できるが、あまりじろじろと見るものでも無いぞ」
「あっ…すみません」
申し訳なさそうにそう謝罪するシュテファンに、ソニアは小さく首を横に振った。
「いえ、問題ございません」
ソニアは努めて表情を変えずに淡々とそう答えるものの、内心は不安でいっぱいになってしまう。
(この瞳の色のこと、皆さんどう思われるかしら…)
熱心な信仰者はここ最近減りつつあるらしいのだが、世間ではテオリム教の力が未だに根強い。
特に教育機関で宗教の科目が採用されている影響は大きく、潜在的にせよ顕在的にせよ、碧眼を持つ者に対して差別意識のある人間が自然と量産される要因となっているのだ。
ソニアはちらりとユリウスを見上げる。
(大尉のように、全く気にされない方ってかなり珍しいのよね。大尉にとって信頼に値する方達とはいえ、差別意識の有無はまた別の話だと思うのだけれど…)
そう思うと、少し暗い表情で俯いた。
(碧眼なんて、普通は受け入れてもらえないわよね…)
ソニアはキュッと胸が締め付けられる。
(大尉が自然と受け入れてくださったから…少し期待してしまったんだわ。部隊の全員が受け入れてくれるなんて、絶対にあり得ないのに…私、何考えてるのかしらね…)
つい卑屈になってしまうソニアの予想を裏切り、ヴェルナーは明るく彼女に声をかけた。
「めちゃくちゃ綺麗な色じゃねーか?」
その言葉に、ラルフもうんうんと頷いて同意する。
「確かにそうだね。深みもあって、良い色だと思うよ」
「同感です。僕、髪も目も茶色で地味なんで…正直羨ましいですよ」
そんなシュテファンたちの言葉に驚いたソニアは、思わず顔を上げて目を見開く。
彼女のそんな様子に、ユリウスは少し驚いたように声をかけた。
「シュミットがそこまで表情を変えるなんざ珍しいな…そんなにこいつらの反応が意外だったか?」
そう言われたソニアは、自分の本心がつい表に出てしまっていることにハッと気付き、慌てて平静を装いつつ口を開く。
「…どなたかお1人くらいは、この色を良く思われないのではないかと考えておりました」
淡々とそう答えるソニアの言葉に、ユリウスは短く息を吐いた。
ほんのわずかに眉を寄せ、ソニアの額を軽く小突く。
「お前な…俺の部下だぞ?たかが瞳の色だの何だので他人を判断するような人間を、自分の部隊に置くわけがないだろう」
「だな。大尉は典型的な『曲がったことは大嫌い』ってタイプだしよ」
ギルベルトの言葉に、ヴェルナーもニッと笑って同意する。
「同感っすね。大尉、軍大学生時代はそこが原因でちょくちょく揉め事──」
「ヴェルナー…それは今、何の関係もないだろう…」
ユリウスはヴェルナーの言葉を遮ると、ソニアに視線を向けつつ部下たちに向き直る。
「…とにかく、シュミットにはこういう事情がある。元々は魔術で色を変えていたんだが、それでは講義に支障があってな。今は魔術固定用のバングルを使用して、幻影魔術を一定時間維持しているというわけだ。理解したか?」
「一応は…。でも、魔術固定のバングルなんて物があるんですね。僕、初めて聞きましたよ」
シュテファンの言葉に、ギルベルトはユリウスの話を補足すべく口を開いた。
「ま、簡易的な魔道具だな。ちょいと知り合いのツテで手に入れてきたんだよ」
「流石は准尉。相変わらずそういうのに詳しいっすね…」
そう話すギルベルトとヴェルナーの横でしばらく腕を組んで考え込んでいたラルフは、ふとユリウスに向き直る。
「先日の大佐とのトラブルって…ひょっとして、その瞳の色が関係してます?」
ユリウスは小さく頷いて口を開く。
「…その通りだ。シュミットが幻影魔術を使っているのがバレて、解除魔術をかけられてな…」
「なるほど…」
そう言いつつ、ラルフはじっとソニアの瞳を見つめた。
「…でも、本部の方でそんな噂は一切聞いてませんよ?」
「そこに関しては、単に大佐が言いふらしてねぇってだけだろうよ。理由は流石に検討つかねぇが…」
ギルベルトの推測に、全員が一瞬黙り込む。
その静寂を破るかのように、ユリウスはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…とりあえず、話しておくべきことはこのくらいだな。お前たち、何か質問は?」
ユリウスの問いかけに、全員が首を横に振る。
それを確認したユリウスは各自に仕事に戻るように指示を出すと、自身も再度書籍に視線を戻した。
ソニアもそれに倣い、2人は黙々と書籍内容の確認を進めていく。
そんな2人の様子を眺めていたヴェルナーは、コソコソと小声でギルベルトに話しかけた。
「珍しいっすよね。大尉が、学生相手にあんなに親身になるなんて…」
「…そもそも気に入った奴でもなけりゃ、わざわざ時間も手間もかかる個別指導なんか申し出ねぇからな。そんな相手が困ってたら、手ぇ貸したくなるのは当然だろ」
ギルベルトの説明に、ヴェルナーは首を傾げる。
「そういうもんなんすか…?」
「そういうもんだ」
はっきりとそう言い切るギルベルト。
ヴェルナーは少し考え込んでから再度口を開く。
「…まあでも、あの子は人を見る目があるってことっすね」
「そうだな。大尉は上官として大当たりの部類だからよ」
ギルベルトはそう言いながら、相変わらず書籍に齧り付いているユリウスに目を向けた。
ユリウスは指導教官としては学生を泣かせる鬼教官として有名だが、そもそも軍人としてはかなり優秀な部類に入る。
だからこそまだ大尉という尉官の階級にも関わらず独立部隊を持つことが許可されているし、何より直属の上官だって佐官ではなく将官なのだ。
もちろん上官としても優秀で、上に立つ者としての責任感があるのは当然として、部下たちに的確な指示が出せると共に分析力もあり、各部下への指導やアドバイスも適切に行える。
緊急時の判断も迅速で的確、常に公平で論理的な態度を心がけており、そのおかげか部下からの信頼は厚い。
ユリウス本人の武術や魔術の実力も申し分なく、平時でも有事の際でも間違いなく頼りになる上官だろう。
ギルベルトはそんなことを考えつつ、テキパキと仕事を進めていくのだった。




