ドクのある人生
キーンコーンカーンコーン
「はい。本日はここまでとしますので次回までにしっかりと課題を済ませてきてください。」
ようやく授業が終わった。高校生の時に特に将来の夢もなく友達とのノリで「俺、先生になるわ。」と言って念書を書かされたものの、実際に目の当たりにすると大学の授業に置いてかれそうになっている、どこにでもいる普通の大学三年生だ。
だが一つだけ他の人から見たら幸せなことがある。それが、
「神木さーん! 今日も今日とてやっても成績上がらない、“見た目だけ“学習ですか? もっと本気でやらないと、どーせ無駄ですよ?」
「違うわ! ちゃんと真面目に復習してるんだよ。」
「どうせ真面目にやってもうちよりは下ですよ。」
そう。矢本彩葉が、授業が終わったら俺のところに来るのだ。周りの男子から見たらそこそこ可愛い女の子と話しているから妬まれるし、女子から見たら底辺と優等生が絡んでいるから変な噂が絶えない。もちろんそうゆう人だから学年一位で先生からも評判の良い優等生だ。だかしかしそんな優等生でも欠点がある。それが、
「ちょっと! 話聞いてるんですか?」
「あっ、ごめん。聞いてなかった。」
「うわー。また厨二病みたいに妄想してるんですか? いい加減辞めてください。痛いです。」
言葉が少しばかりきついことだ。全部が全部心に刺さる。特に俺みたいな女から声をかけられない人にとっては話しかけられるのが嬉しいのだが、それが全部俺の人生を否定されているような気分だ。
「で? なに想像してたんですか?」
「まさかですけど、架空の世界の人のために自分語りとかやめてくださいよ? こっちが恥ずかしいので。」
「あ、はい。」
「あっれれ? まさか図星ですか? 本当に何度言っても懲りないですね。いい加減辞めてください。」
本当に図星なことを言わないで欲しい。分かっていてもなんとなく知らないふりをして濁して欲しいものだ。
「じゃあ話しかけて来なければいいんじゃない?」
といつも提案するが何があっても断らないし、理由も述べてくれない。裏では文句を、垂れ流していると噂が回ってきたことがあるのにだ。
「いや、それとこれは話が別です。」
「そーですか。お好きにどうぞ。」
ようやく、今日一日の授業が終わった。ここ最近はこの後が大変なのだが。それはともかく今日はバイトがあるから急ぎで駅に向かわないといけない。
(矢本、珍しく今日はいないんだな。いや、よくないな。いない方がいい事なのに、いないと考えてしまうとか。)
「(音楽)……列車をご利用ください。」
とアナウンスが駅の階段に響き渡る。
(はぁはぁ。乗り過ごした。バイト間に合うか。)
「うわ、あそこにいるの神木じゃね?」
(あれは、矢本の声? )
「本当だー。彩葉はいつも授業が終わると話しかけに行ってるよね。」
「そお? だって話しかけると女子慣れしてなくてオドオドしてるの見るの楽しいもん。」
「彩葉も趣味が趣味だねwそうやって人で遊ぶと自分に帰ってくるよ?」
「いや、ないないない。あいつとは住む世界が違うからさ。」
「うわ、彩葉かっこよ。」
(えっ? 嘘だろ? 考えすぎなだけだと思うが、話している言葉とやっていることが違うだろ。)
「なんかさ、あいつと同じ電車とか乗りたくないから、逆方面いこ。」
「うわー。彩葉やってるわー。」
「まっ、いいんじゃね?」
「わーはっはっは」
別に好きなわけではないが、好意がありそうな女子からこんな思いやりのない言葉をかけられると心にくるものがある。
「(音楽)一番……ドアが閉めます。駆け込み乗車はおやめください。かけこみ……」
危ない。危うくもう一本逃すところだった。
「駆け込み乗車は危ないのでお辞めくだい。」
誰宛の呼びかけだ? おそらく俺だか、こんな公開処刑はしなくてもいいだろ。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか。」
「えっと、ダブル、チーズ、バーガー、セットで、えっと、レタス倍で。」
「お飲み物はどうなさいますか。」
「……コーラで。」
「ご注文を確認いたします。ダブルチーズバーガーセットでお飲み物はコーラでお間違い無いでしょうか。」
「……はい。」
「会計が六百五十円になります」
「丁度ですね。ありがとうございます。」
今の客、なに言ってるか分かりにくい。今日はただでさえ混んでるから辞めてほしい。と思ったりしながらレジ打ちをしていると、小一時間ぐらいたっていて、時計が一八時を回ろうとしていた頃、いつもこの時間になると、やってくる厄介な奴がくる。
「いらっしゃいませ……。」
「おっ! 神木くんじゃん!」
「ご注文は何に致しますか。」
「えっとー、スマイルとポテトSとケチャップで。はい。百五十円」
「丁度お預かりします! ありがとうございました!」
そう。矢本が来るのだ。しかも俺がバイトして一時間がたった時に。まるでシフト表を全部確認しているかのように。
「じゃあ俺上がります。」
「おつかれー。」と同じ職場の人に言われ、着替えのためにバックヤードに入っていく。だが俺はこのバックヤードで着替える時間が本当に嫌いだ。なぜならこの後、着替えがおわり、出てくるとまた矢本がいるのだ。
「バイトお疲れ! はい、笑顔になれる魔法。キラキラ〜。」
「駅のホームとはえらい変わりようだな。」
「は? 聞いてたわけ?」
「えっ? あ、うん。聞こえてきたからさ。」
「うわ。女子の会話盗み聞きするとか男子としてどうかと思う。それを聞いてニヤニヤしていたとかキモすぎ。」
「いや、ちがうんだ。その、俺に見せる顔と友達に見せる顔が違いすぎて困惑してただけで……」
ほーーんとに、めんどくさい。いくらなんでも変わりすぎだ。こんなこと言ってるのに腕は血液が止まるぐらい強くハグされてるのに、言葉だけは結構俺に刺さる。
「何ぼーっと立ってるの? さっさと帰るぞ。」
「……早く家の鍵開けないの?」
「いや、なんでお前が俺の家についてきて、普通に入ろうとしてるわけ?」
「別にいいじゃーん。だからそうやって誰からも話されないんだよ。」
「はいはい。」
「で?開けてくれないの?」
「うん。」
「じゃあいいや。ガチャ。」
「?」というのが頭によぎった。本当に意味がわからない。なぜ部屋を開ける鍵を持っているんだ。えっ、いや合鍵なんて渡す相手いないから作ってないはずだし、え?
「ほら。開きましたよ。寒いんで早く部屋に上がりましょ。」
「いや、え?いや、なんで部屋の鍵持ってるんだ?」
「そんなこと気にしないではやくはやく。」
本当に戸惑いが隠せない。周りから見たら同居に見えなくもないが、今までで一度も家に呼んだこともないし、いつもなら駅で別れるのになぜだ。今日がなんかの記念日だとでもいうのか。今日は十月二十一日、心当たりが無さすぎる。
「ばっさ。」と前が見えなくなった。きっと目を覆われたのだろうか。
「今日はなんの日でしょうか?」
俺って天才か。と思うぐらい当たった。もう一度言うが今日は十月二十一日、特になんもない。誕生日?いや記憶が間違ってなければ一月だったと思う。
「はやく答えてください。」
「えっと、なんかの期日?」
「はい。残念。不正解。こんなのもわからないなんて彼氏失格ね。」
「で、正解は?」
「なんもないでした。不正解だからうちのお願い一つ聞いてね。」
「は、はぁ。」
「じゃあうちがいまからご飯つくるから、食べてね。」
「なんでもない」だと?確かになんでもないかもだけど、ないならだすなよな。女子が作った手料理を食べれるのは普通に嬉しい。お願いされなくても作ってくれたら食べるのに。
「できたよー。」
「おう。」
いや、なんで俺の部屋に女子がいるんだ。しかも料理まで作ってもらっちゃって。ポジティブに捉えたら配達デリバリーで頼まなくて良かったから健康的?ではある。
「オムライスか。めっちゃ美味しそうじゃん。」
「でしょ?これで少しはうちのこと認めてくれる?」
「問題は味だけどな。」
「そんな世知辛いこと言わないでさ!」
「あ、普通に美味いわ。」
「良かった!でさ、隠し味に何入ってると思う?」
「えー。オムライスの隠し味。隠し味。かくし……」
「バタ。」と椅子から転げ落ちた。体が動かない。頭もばんやりしている。なんか言われてる気がするが、何言ってるかはわからない。人ってすごいもので、こうゆう状況になると何事もなんとなくわかるようになるのだ。いわゆる「ゾーン」って言う奴。何が言いたいかと言うと、クスリを盛られたって言うことだ。
次、目が覚めた時には場所が変わっていた。ここは自分の家ではないと肌で感じる。そして下の方が痛い。見ない方が幸せな気がするが見られずにはいない。
「ゔぅ。(えっ。)」
「よーやくおきましたね。本当に寝過ぎです。」
そこには足首に無造作に巻かれた縄のせいで血が止まっているではないか。そして上から下まで服が無い。しかも口をガムテープかなんかで止められてる。
「んゔんーんゔぅゔんゔーうん。(これどーなってるの。)」
「応える義理はありません。」
殴りたかった。蹴りたかった。けれども、手にも足にもガッチガチに人で固められてる。おまけに手はベットに繋がれてる。
「逃げれると思わない方が幸せですよ?どうせ外からは見えないですし、この部屋防音ですし。喋らないのはつまらないんで、ガムテープだけ剥がしますよ。」
「お前、何をする。」
「別に。それよりも早くヤリましょ?うち、あなたと子供作りたいです!断ったらどうなるか分かってます?」
背後に何か反射して光ってるものが見えた。つまり断れば死を意味する。ある意味そっちの方が幸せまであるが、僅かな希望がまだあるのであればそれに賭けたくなるのが人っていうものだ。そして彼女はもう準備できている。半裸ではあるが、左腕の惨状といえば、悲惨なものがあるからある意味でありがたい。
「あと、あなたが気絶している間、ずーぅと我慢してたんですよ。偉いですよね。無理にやらないとか。」
「そうだね。」
「けど安心してください。うちこう見えて医師なんで。気絶したり、頭痛がきたりしても治せるんで。」
そっから何時間経ったかわからない。もしかしたら何日も経ってるからもしれない。何回させられたか、わからない。途中途中で何か食べさせられた気がするがその後強烈な吐き気で覚えていない。
「お前も大変なんだな。」
「まぁーね。」
あの事件から何年経っただろう。今あいつは生きてるのだろうか。あの日のことはもう思い出したく無い。
「で肝心のなんで逃げられたかだ。」
いい感じに酒がまわってる。
「彼女、自分からやるとか言ってるのに彼女自身は結構弱くて。クスリでやるぐらいにはさ。だからそれに便乗して、俺も何度もやりたいなっていうのを伝えて何度もやって気絶させたわけだ。」
「で、その隙に逃げたと。」
「そうゆうことになるな。」
「けどさ、もし本当に子供できてたらその子が一番可哀想だな。」
「俺はなんなことの子供なんてごめんだけどな。」
「神木さーん!お酒ですか?横失礼しまーす!」
「ん?」
「えっ?」
「ひひ。来ちゃいました。これからもよろしくです!」
最後までお読みいただきましたありがとうございます。初めて書いたので至らない点は多いですが、これからも頑張っていきますのでお願いします。もし何かあればコメントしていただけると幸いです。