4/3 音声記録
《扉の開く音、閉まる音、机にカップが置かれる音。》
『はじめまして。私がミル・ベリヤフラム。えっと確か、トータス・アイアンヘッドくんだったっけ?』
『……トーマ・テアマットです。今日はお時間いただきありがとうございます』
『友達の教え子が困ってるって言われちゃうとね。それでホーガンくんは私に何を聞きたいのかな?』
『わざとですよね?』
『何が?』
『……いえ、なんでも』
《細かい笑い声、カップと皿が擦れる音。》
『えっと、ここでのことは他言無用にしていただきたいんですが』
『夫には話していい?』
『黙っていられるなら』
『じゃあ大丈夫だね。先に言っておくけど、私は別に魔法の専門家ってわけじゃない。学園で詳しく学んだ過去があるわけでもない。むしろ学生時代はとんだ問題児で、周りを散々困らせたもんだよ』
『はあ……』
『でも、君が相談する相手は私で正解だと思う。君の中に感じるその魔力――じゃない、魔法かな? 学園の教師に聞いたって何もわからないのはこの距離でもわかるからね』
『……何が見えてるんですか?』
『君の物じゃない魔力の塊。言うならば、魔法の貸与、ってところかな? 理解はできるけど解説はできない。理屈がわかっても再現ができないように』
《数秒の沈黙。》
『……今は行方不明の祖父が、いなくなる直前に俺に預けた魔法――便宜上、俺はそれを「仮眠」と呼んでいます――が、俺にどういう影響を齎しているのかを知りたいんです。わかりますか?』
『わかる――』
《息を呑む音。》
『――ところとわからないところがある』
《肩を落とす音。》
『いい反応してくれるね。夫はもうこういうの慣れちゃってさ、最近淡白気味なんだよね』
『……日常的に、こういう感じなんですね』
『まあね。仲いいから。でまあ、わかるところなんだけど、その「仮眠」は君のおじいちゃんが作った魔法じゃないね。なんて言うんだろう、魔力の質が、君と似てなさすぎる。正式な保有者と君の間に血縁関係があったらこうはならない』
『……質、ですか』
『性質かもね。まあこれはあくまでも、君とおじいちゃんに確実な血縁関係があるのを前提に話してるから、そこが引っ繰り返った場合の補償は出来ない。悪い言い方をすると、君が不義の子だったりすると、今の話はてんで的外れってことになるね』
『不義……』
『そこまでドロドロしてるとは私も思いたくないけど。君の事情も概ね聞いてるし』
《十数秒の沈黙。》
『……わかるところっていうのは以上ですか?』
『ううん、もう一つ。魔法そのものじゃなくて、貸与された時かな、染みついてる魔力の残滓が見える。多分これがあると、少しだけ魔法に不備が生じると思う。不具合とも言えるかな』
『……例えば、寝てるのに身体が勝手に動いたりとか』
『起こり得るかもね。君のおじいちゃんが強く考えてたこととか、そういうのが君に反映されて表出する可能性は十二分にある。それとも、そこも含めて「仮眠」って言うべきなのかな』
『わからないところっていうのは?』
『取り除き方。そもそも魔法の貸与ってなんだよって話だし。君の中に外部から注入された謎の魔力があるのはわかるけど、君がそれを魔法として出力できる原理も、君のおじいちゃんがそれを他者の中に埋め込めた理屈も、全然わっかんない』
《カップと皿が擦れる音、十数秒の沈黙。》
『つまり、俺が夜中に「仮眠」の影響を受けることはあり得るかも知れないが、理屈がわからないから断言はできない、と』
『そうなるね。具体的には何に困ってるの?』
『……色々と秘密を書いてある日記を、夜中のうちに倉庫まで運んでたらしくて。誰かに中を見られると、結構困ることが書いてある、というか』
『おじいちゃんが倉庫まで君の日記を運びたがってた、のかな? 細かいところまで問い詰めるつもりはないけど。うーん……、じゃあまあ、対症療法ってことで。手出して。右手ね』
《魔力の揺らぎによるノイズ。》
『これでまあ、夜中に勝手に身体が動くってことはない、はず。うん。何分、ちょっと未知過ぎるし、断言が出来ないのはご愛嬌、この顔の愛嬌に免じて許してほしいな。……この歳でこれは流石にきついか?』
『……ありがとうございます』
『もう帰る?』
『……そうですね。できることは、もう全部してもらった感じがしますから』
『そっか。じゃあ、その前にちょっと待って』
《立ち上がる音、驚いた雰囲気、ソファが軋む音。》
『え、え、なんですか? ちょっと?』
《触れる音、取り出される音、表面が指先で撫でられる音。》
『傍目からじゃただの石に見えるけど、これは流石に放置したままさよならはできないかな』
『それ、なんです? いつの間に服に……?』
『これねえ……、盗聴器だね……』
《登録されていない魔力が流れ機能停止、再生終了。》




