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3/17 音声記録

《再生開始、深く息を吸う音、吐く音。》


『……本気か?』


『本気ですよ? 俺がどれだけ本気かは、ここにヘルデちゃんを同席させたのが何よりの証拠になるのでは?』


《紅茶を飲む音。》


『……おに――トーマさんの考えが理解できない、ってわけじゃないんですけど、それでいいんですか? あ、いや、それがいい、んでしょうけど、それにしたって、おに――トーマさんがあまりにも不利益を被り過ぎと言うか……』


『俺としちゃ、このまま唯々諾々とテアマットを継がされる方が不利益なんだよ。それにうちの場合は、ヘルデちゃんと違って、別に親に従う義理も無いし……』


《困惑と否定の滲む唸り。》


『私も別に、唯々諾々と従ってるってわけじゃないんですけど……』


『ああ、ごめん、そういう意味じゃなくてね。従うような、慕うような親じゃないってこと。やらかしの一件から俺の中で父さんの評価は乱高下してて、今はどん底。理由は、今の話と合わせればわかると思うけど』


《気まずい雰囲気、たじろぐ声。》


『……君をその判断に追い込んだ一因であり、また一員でもある私が言えたことではないのはわかっているが、君が今、アップリテル家の現当主と次期当主に了解を得ようとしているそれは、決して正解の決断ではないだろう。それを理解しているからこそ、この場にヘルデが必要だったのもわかるが……』


『――私としては、頷けません。絶対に駄目です』


《左右に揺れる髪が空気を切る音。》


『そんな勢いよく首振らなくても……』


『こうでもしないと、私たちの了解が無いままにおに――トーマさんは強行してしまうでしょう? 私はこの場できちんと否定しました。拒絶しました。おに――トーマさんが今後どんな判断をしようとも、それに私は関わっていません。微塵も。微塵切りです』


『……みじん切りできるようになった?』


『……なーんか薄皮一枚で繋がっちゃうんですよね……』


《軽く笑う声、呆れたような嘆息。》


『二人とも悠長だね。余裕と言うべきか? それとも若さかな? これは結構な大問題だと、私は認識しているんだがね』


『ハドマトさんが正しいと思いますよ。でも、復讐なんてへらへらしてないとやってられないんですよ。こんなの真面目にやってたら、頭がおかしくなる』


《一分ほどの沈黙、紅茶が注がれる音。》


『……ありがと』


『いえいえ――エフィさん、いなくなっちゃったんでしょう?』


『らしいね。俺が寝てる間に消えるとか、従者の風上にも置けない――風上にいれば、いつだって紅茶の良い匂いを運んで来てくれる奴だったのにな……』


《十数秒の沈黙。》


『……エフィさんは、今回の件に関わってないのかい?』


『さあ? どうなんでしょうね』


『君は何を知っていて、何を隠している?』


『何も。何も知らなかったから、今こんなことになってるんですよ。兄貴とほぼ絶縁状態で、婚約話も消滅して、父親すら疎む奴になってる。無知ゆえの悲劇ですよね』


『五日間も寝続けておいて、何も知らないが通ると思っているその胆力は尊敬に値するかもだが……』


『トネリアさんとエフィさんがほぼ同時期に音信不通になって、何の関係もないと判断する方が難しいですよ。……トーマさん、その辺り理解して暈してますよね?』


《軽く息を吐く音、カップが机に置かれる音。》


『……仮に、その二人が今回の件と関係があったとしても、それは今回の話に何の関係も無い。兄貴のやらかしは兄貴の責任で、もしそれを申し訳なく思う気持ちが二人にあるなら、俺の提案を受け入れてほしい』


《一分弱の沈黙。》


『……トーマさんは、今後どうするつもりですか?』


『特に決めてない。探索者になれたら面白そうだなとは思うけど、流石にそこまで行くと無責任が過ぎるし、落ち着くまでは家にいることになるかな。……兄貴へのいいプレッシャーになるんじゃない?』


『……結婚は?』


『する気にならない』


《一分弱の沈黙、大きく深い溜め息。》


『……お父さん、諦めましょう。私は諦めました。多分、このままトーマさんにテアマット家を継がれる方が、最終的な我が家への損害が大きくなりそうです』


『……次期当主の意向に逆らうつもりはないが……。……最後に一つ質問していいかい、トーマくん』


『何でしょうか』


『――ヒルドのことは、好きだったかい?』


《勢いよく首を横に向ける音。》


『お父さん!?』


『…………凄いこと訊きますね。……どっちかと言えば、好きでしたよ――結婚すれば、きっと幸せになれるんじゃないかなんて、思える程度には』


『……そうか。……ヘルデ、後のことは任せる。なるべくうちに厄介事が降りかからないように話を付けておいてくれ』


『……わかりました』


《部屋の扉が開く音、立ち止まる音、十数秒の沈黙。》


『……トーマくん』


『はい?』


『すまなかった。……君に良縁を紹介しよう、なんて考えていたんだが、やめることにするよ。どうも君は、それじゃ幸せになれなさそうだ』


《扉が閉まる音、再生終了。》

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