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目が覚めた時には全てが終わっていた、と書くと、何だかまるで物語の急展開のようだが、これは現実の話であり、目覚めた俺が実際に抱いた感覚、あるいは感慨以外の何物でもない。
そもそもが時間の問題だった破綻が訪れたという、ただそれだけの話。
三年生の卒業式はとっくに終わっていたし、邸からエフィはいなくなっていたし、おじいちゃんは音信不通になっていたし、兄貴の不祥事は明るみになっていたし。
挙句、テアマット家の次期当主が俺になったというのだから、寝耳に水どころの話ではない。
目覚めて早々そんな話を聞かされた俺の混乱ぶりは、こんな風に文章に残さなくても忘れようが無いだろうに、何で俺は未だに日記なんて律儀に書いているんだか。
もう、これを読む奴なんて俺だけなのに。
いや、日記ってそういうものなんだけど。
兄貴の処分は保留、というより、どうも俺預かりの状態になっているらしい。被害者に処遇を委ねるというのは理に適っていなくもないけども。それ以外に選択肢がなかったと、見るべきだろう。
まさに針の筵というべき状態に陥った兄貴をどうするかに、終ぞ父さんが答えを出せなかったわけだ。別にそれ自体を責める気はないが、正直遅かれ早かれ兄貴のやらかしは発覚していただろうと考えると、甘いと判断するほかない。
卒業式の翌日、どこからかいつの間にか、兄貴とヒルドの不祥事がリークされ、兄貴を正式に後継者として指名する直前だったテアマット家は、その行動を取りやめざるを得なくなった。
俺が眠っていた五日の間、方々で行われた話し合いの結果として、俺が後継者になってしまった、と書くと、何だか簡単な話のように見えるから怖いものだ。
実際はアップリテル家とか『深刻社』とか、そっちとの話し合いは泥沼になり、結果として今後の責任を俺に丸投げしたという方が現実に即している。笑えない責任転嫁だ。
不祥事を隠蔽しようとしたわけだから、『深刻社』から両家に抗議があって当然なのだけれども。繋がりを深くするための契約結婚が、知らない間におじゃんになってたわけだからな。
兄貴とヒルドの婚約話も一旦白紙。そもそもあの二人が結婚してどうなるという段階は疾うに通り過ぎた。
おじいちゃんの最後の復讐、なのだろうか。
不義理をした孫への、それを許容した息子への、協力したアップリテル家への、復讐。
あるいは、俺への謝罪。
あの日、俺の部屋で何があったかを俺は死ぬまで隠すつもりだ。魔法を使おうとして暴発しただの、卒業式に参加したくなかったから自分でやっただの、言い訳はいくらでも利く。
この日記を、俺以外の誰かが開くことは、もう無いだろう。
書き続けるかどうかは、明日にでも決めよう。




