3/8 音声記録②
《部屋の壁に何かが衝突する音、邸が軋む音、苦痛の滲む掠れた呻き声。》
『……どこで気付いた?』
《数回の咳。》
『くっ、くくく、別に気付いてたわけじゃない。前に父さんから、昔のおじいちゃんは最近と違ってプライドの高い人だったって聞いたことがあって、もし俺なんかに図星を突かれたら、取り乱すんじゃないかって思っただけ……』
『…………』
『まさか、そこまで衝動的に激昂するとは思ってなかったけどな、くくく――ぐぁ……!』
《壁が僅かに軋む音、小さい嘆息。》
『……それで? 私の正体を暴いて、挑発して、何が目的だ? まさか、ただ本当のことを知りたかっただけなどとは抜かすまいな?』
《数秒の沈黙、解放された呼吸音。》
『……それも、あるけどな。でも、どっちかって言うと、俺が知りたかったのは、おじいちゃんが俺の日記をどのくらい鵜呑みにしてるかの方だよ』
『……鵜呑み?』
『まさかだけど、日記に書かれてる内容が全部真実だなんて、そんな絵本を信じる子供みたいなこと思ってたわけじゃ、ないよな?』
《小さく息を吞む音、鼻で笑う音。》
『それこそ、馬鹿正直に侍女として仕事してるのが、仇になったな。お前の予定を把握するのも、その裏で動いて、日記に嘘書くのも、全部簡単で、拍子抜けだったよ』
『…………』
『まあ、昨日の日記をいつ読むかはわからなかったし、実際、日記を手に持ってる現場を押さえられるかは賭けみたいなものだったから、綱渡りな計画だったのは違いないけどな……』
《数秒の沈黙、考え込むような雰囲気。》
『……どれが嘘だ? それこそ、私には判断のしようがない。ドロア嬢に声を掛けられたところまでは真実だろう?』
『惜しい、もうちょい先だ。俺がペンを壊したところまでは本当だよ。壊れたペンを見た時に、ふと思ったんだ。もし誰かが俺の日記を読んでたら、辻褄が合うなって。父さんを誘拐したのは、ドロア嬢が俺に接触しようとしたからだろ?』
『…………』
『アッセクア家が兄貴の話を知っていることを、あの段階で父さんに知られると何かがまずかった。その何かが何なのか、具体的に知る由は俺に無いけど、概ね、『深刻社』に関わる何かってところか。勘だけど、俺の勘もなかなかどうして、馬鹿にしたもんじゃないらしいし』
『…………』
『残念だったな。父さんはあの時、問題が起こったって報告しに来たのがお前だってはっきり覚えてたよ。日記には、書かなかったけどな。ははっ――うげっ……』
《壁が僅かに軋む音、歯噛みする音。》
『……俺が日記に、『深刻社』からの連絡は本当は無かったって書いたのは、そうすれば犯人が何かしら、焦って雑な動きをするんじゃないかって期待してたからだ。随分雑に、父さんの記憶を弄ったみたいだな』
『……ストールアは、憶えていたのか?』
『断片的に、だけどな。退院した記憶と、いつの間にか家にいたって記憶が混在して、父さん自身混乱してたよ。父さんが連絡を受けた記憶と、お前から聞いた記憶が混在しているのと同じように』
『……ちっ、金で雇うような奴はこれだから……』
《呆れたような嘆息、数秒の沈黙。》
『……だから俺は、あんたが望んでるんだろう報告の中に、一つだけ真実を混ぜた。まあ、それに関しては、空振りだったみたいだけどな……』
『…………』
『……二月末に父さんを解放したのは、兄貴の謹慎を解かせるためか?』
《数秒の沈黙、覚悟を決めたように息を吸う音。》
『兄貴が当主になれば、婚約破棄の件で強請れる、からか?』
《小さい舌打ちの音。》




