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3/8 音声記録

《扉が開かれる音。》


『やっぱり、お前だったか』


《数秒の沈黙、扉が閉じられる音。》


『迂闊だったな、エフィ』


《溜め息が一つ、本が机に置かれる音。》


『……なぜ、私だと?』


『そこには大した理由はないな。もし誰かが俺の日記を読んでると仮定した場合、俺の部屋に入る頻度が一番高いお前が一番疑わしかったってだけだ』


『……日記は、きちんと元の場所に戻していたはずだったんですけどねえ』


《髪が揺れる音、衣擦れの音。》


『アッセクア家に情報を流して、その対価は金か? 『深刻社』さえ乗っ取れれば、お前に渡す金なんて端金みたいなもんだろうしな』


『端金とは言っても、私からすれば十分な大金ですよ。ここでこれから先も働き続けるよりも、余程割のいい仕事でした。しかも一回で済むって言うんですから、嫌な笑いも止まりませんよ』


『……給料に不満があったなら言ってほしかったな』


『給料に不満はありませんでしたよ。ただ、もっと欲しかった。それだけです』


《小さい笑い声、深い溜め息が一つ。》


『……一応、お前のことを怪しいと思うに至った理由はいくつかある』


『ふむ……、話し足りないのならお聞きしますが、時間稼ぎのつもりならば無駄ですよ?』


『どうかな。……日頃から気遣いの利くお前が、俺にヒルドの好きだった銘柄の紅茶を出しただろ? うっかりとして納得してたけど、あれは俺にストレスを与えるためだったんじゃないのか?』


『……何故そんなことをする必要が?』


《嘲笑を含む軽い嘆息。》


『俺を家族から隔絶するためだろ。具体的に言うなら、兄貴と母さんからだ』


『…………』


『侍従の皆を、励ますという名目で俺の部屋に集まるよう仕向けたのもお前だし、皆が兄貴の陰口を言っていないこともない、とか俺に吹き込んだのもお前だ。そうやってお前は、俺を兄貴から確実に着実に隔絶していった。兄貴の敵である侍従の皆が俺の味方である、ということを刷り込む形で』


『なるほど、確かにそうも取れますね』


『俺が登校を拒否しているって父さんに報告したのもお前だろ? 父さんを俺の味方に付けて、テアマット家を二分した。そうすれば母さんが実家に戻り、お前が今以上に自由に動きやすくなるのがわかってたからだ』


《納得するかのような吐息、軽く歯噛みする音。》


『母さんが実家に戻ったとき、真っ先に俺に報告しに来たのも、父さんがいなくなった時、俺が当主の代行なんじゃないかって言ってきたのも、両方ともお前だ。お前は俺の精神を安定させないために、言い換えれば、日記を書かせるために色々と工作してたわけだ』


『そしてその日記を私が見る。なんとも綺麗な循環ですね。見事に一周していて完結している』


『完結してないだろ。お前はその情報をアッセクア家に持ち込み、対価を得ていた。行き止まりで得をするのはどこまでもお前らだし、損をするのはうちで不変だ。ふざけんな』


《床を踏みしめる音。》


『「日記こそが毎日の出来事を忘れないようにする一番の方法」、そう言って俺に日記を書かせるよう誘導したのは、始めから金を得るためか? それとも途中から気遣いが金遣いに変わったのか?』


『…………』


『忘れさせないために、俺を精神的に追い詰めるために、優しい振りしてたのか? そういえば、ヒルドが俺のことを好きだったとか、そういういらない報告もされたな』


《数秒の沈黙、余裕のある雰囲気が消失する。》


『――憶えてるよな、おじいちゃん』

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