2/11
昔から俺のことをお兄さんと呼んでくるヘルデちゃんが突然押し掛けてきた。姉が迷惑をお掛けして申し訳ないと出会い頭に謝ってきたが、気にしないでいいから顔を上げてくれ、と言えなかった俺は器が小さい。迷惑は確かに掛けられたしな、と思ってしまった。
ヘルデちゃんの話によると、アップリテル家は現在冷え切っているそうだ。原因は当然ヒルドで、俺を婿に迎えて跡を継ぐはずだったのに、逆にテアマット家に嫁入りすることになったことで計画は全てご破算。
そうなるとヘルデちゃんが後を継ぐことになるので、その辺りでかなり揉めているとのこと。
その話を現当主である父親から聞かされたのが昨日の夜で、謝りに来るのが遅れて申し訳ないと重ねて謝られた。干渉のしようも対策のしようもない妹が謝る理由も本来ないので、そこでようやく、気にしないでいいと言えた。
そも、姉の浮気の責任など、まだ十四歳の少女にあるわけがないのだ。
会うのが久しぶりだったこともあって、結局五時間ほど話し込んでしまった。お互いに婚約者のいない身の上だが、大目に見てほしい。
兄貴がアップリテル家の親族からもかなり恨まれてるらしいとか、俺に新しい婚約者を紹介しようと企んでる人がいるらしいとか、ヒルドの肩身が本当に狭いらしいとか、聞いてるだけで胃もたれしそうな話題が多かったが、俺は最後までへらへらして、本当に言わなければならないことを言えなかった。
俺はもう、ヘルデちゃんのお兄さんにはなれないのだと言えなかった。
笑顔で帰りの車に乗り込むヘルデちゃんをただ見送った。




