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不幸のお便り

作者: 縞々杜々


――クイックのコーキくんが、供楽(くらく)のイグサさんがパーソナリティを務める「クラクラ」にゲスト出演! イグサさんがリスナーに呪われる!?――


コーキ:

 あ、これ僕が読むんですか?

 「イグサさん、コーキくん、こんにちは!」

イグサ:

 こんにちは!

コーキ:

 「私はイグサさんとエムラさんが”楽々”だった頃からの大ファンです!」

イグサ:

 あら、うれしい。

コーキ:

 「最近はテレビでのご活躍も増えてうれしいです。

  先日のサメ一本釣りも拝見しました。

  二人が同じポーズ同じタイミングですっころぶところが最高でした」

イグサ:

 そこ? あえてのそこ?

コーキ:

 「今期のドラマも毎週楽しみにしています!」

 30代会社員、エムラさん大好きさんからでした。

イグサ:

 俺のファンじゃねーじゃん!

コーキ:

 ざーんねーんっ。

イグサ:

 あいつ俺の倍はファンレターもらってるんだよ?

 何でこっちにも送ってくるの?

 はいはい禁止。「クラクラ」にエムラレターはもう禁止。


コーキ:

 それにしても、エムラさん今めっちゃドラマ出てますよね。

イグサ:

 そう。あいつ刑事役やってたの2つあるじゃん?

 どっちがどっちだかすぐ分かんなくなる。

コーキ:

 今やってる探偵物いいですよ。僕も毎週見てます。

イグサ:

 相変わらずモブだけどねー。

 でも見てくれてるんだ? エムラ喜ぶよー。

コーキ:

 主題歌がね、素晴らしいんですよ。

イグサ:

 いや、それ歌ってるの君らだよね。

コーキ:

 入りのね、吐息がね、セクシーで良いです。

イグサ:

 自画自賛。

コーキ:

 あれはタキくんです。

イグサ:

 お前じゃねーのかよ。それは失礼しました。


イグサ:

 じゃ、次のお葉書いきまーす。

コーキ:

 あ。ほんとに葉書だ。

イグサ:

 20代学生、ノートさんから。

 「イグサさん、こんにちは」

 はい、こんにちは。

 「イグサさんは”そめえひそぬも”を御存じですか?」

 いや知りませんねぇ。コーキくんは?

コーキ:

 僕も初めて聞きました。

イグサ:

 そっかー。

 「これは声に出して読むと不幸になる、呪いの言葉です」

 ……はぁあ!? え? ちょっと待って!?

コーキ:

 これはひどい。

イグサ:

 完全にトラップじゃん!

 ちょっとぉスタッフ!? ギリギリで渡してきたと思ったら何これ!?

コーキ:

 はーい、イグサさんが呪われたところで一曲目いきまーす。


(クイックの「Detective」が流れる)


イグサ:

 勝手に自分の曲かけるなって。

コーキ:

 ほら吐息、吐息に集中してください!

イグサ:

 メンバー大好きかよ。


 ***


 某所テレビ局、控え室前の廊下に男が二人立っている。背の高い方が目の前のドアを3回ノックした。中から返事があり、ドアが開いた。二人は中に進み入って頭を下げる。


「供楽のイグサとエムラです。今日はよろしくお願いします」

「おー、イグサ。昨日のやつ聞いたぞー」


 部屋の中には男が三人いた。それぞれテーブルの側と化粧台の前に座っている二人は同じ事務所の先輩で、今ドアを開けてくれたもう一人がそのマネージャーである。

 テーブルの席に着いていた先輩に促されて、後輩二人は残っていた椅子に腰かけた。先輩はにこにこと話を続ける。


「お前、コーキくんがゲストだとホント楽しそうだよな」

「えー? そうですか? あの子が来るとスタッフも悪ノリ始めるし、番組乗っ取られそうで恐ろしいです」


 背の低い方の後輩、イグサが苦笑混じりに応えると、化粧台前にいた先輩がこちらを振り返った。


「あれ、あの呪いの手紙ひどくないか? 普通、弾くもんだろ。悪ノリが過ぎる」

「そうだよなぁ。真偽はともかく、それだけで気分悪いし」

「大丈夫ですよー。俺全然気にしてませんからー」


 心配する声に、先に話していた先輩もうんうんとうなずく。イグサはひらひらと手を振って笑った。隣に座っていた相方、エムラが大きな体を縮める。


「でも、リスナーは気分良くないよ。それに、お前あの後、水を引っ被ったって」

「あー。車に水はねられたやつな」

「それ、不幸というよりは不運では?」

「あ。俺ロシアンルーレットできるガム持ってるぞ。はい」

「何で持ってるんですか。わーやめてください。俺酸っぱいの苦手なんですー!」


 差し出されるガムから身を引いて逃げる。マネージャーから時間を告げられたので、イグサとエムラは連れだって部屋を出た。暗い顔をするエムラの背をイグサがたたく。


「ほら、仕事仕事! そんな顔すんなって!」


 ***


――お笑いコンビ供楽のイグサが負傷! 「アニマルIネット」収録中セットが一部倒壊!――


 ***


「あー……。一人だけ逃げ遅れて転ぶとかダサすぎだろ」


 走行中のワゴン車の中、一番後ろの座席に一人で陣取ったイグサは座面に身を投げ出してうなった。その左足首にはぐるりと包帯が巻かれている。渋面のままスマホの画面をたたく。


「おーっと飛ばし記事はっけーん。骨折だとよ。捻挫だっつーの」

「ダメダメ、エゴサしないでください」


 運転中のマネージャーが注意を飛ばす。イグサは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「してませーん。トップで出てきたんですー。……あ。あー、呪いの仕業だとか言われてるわ。アホらしい」


 車内真ん中の席に座っていたエムラが、不安そうにこちらを振り返る。


「なあ、本当にあの手紙、関係ないのか?」

「あるわけないだろ。お前は気にしすぎ。気にするからそんな気になるんだよ」

「でも、今までこんなケガしたことなかったのに……」


 エムラがしょんぼりと肩を落とす。イグサはため息をついて後ろから座席を強くたたいた。


 ***


 イグサがラジオ局に着くと、みんなから心配の声をかけられた。仕事に支障はないと笑って応える。しばらくテレビ収録がないことは不幸中の幸いだった。

 暗い顔をしたディレクターにもそのことを伝えたが、彼の顔は晴れなかった。何があったのか尋ねると、ためらった後に視線を横に逃がした。


「スポンサー契約が切られるかもしれないんだ」

「え?」

「もちろん、そうならないように最善は尽くしている。でも……」


 言いよどんでそのまま押し黙ってしまう。旗色が悪いことは明白だった。

 イグサは努めて笑った。


「今、番組切られたら、それも呪いのせいにされそうですねぇ」


 口にしてから、まさか、が頭をよぎる。

 そんなことはありえないだろう、と理性で思う。

 不安な気持ちを押し込めて、イグサは考えたことを払い落とした。


 ***


 仕事がない。エムラばかり呼ばれていく。

 確かに漫才をやることは減っていて、トークと演技で二人の主戦場は分かれていたけれど、コンビとしての仕事がなくなったわけではなかったのに。どうして急にひとりぼっちになってしまったのだろう。

 もし、あのラジオ番組もなくなったら、自分は何にもなくなってしまうのではないだろうか。

 ソファベッドに転がったまま、イグサはスマホに指を滑らせた。

 自分の名前を検索欄に入力すると、すぐに”呪い”の二文字が候補に出てくる。


「呪いって何だよ……。不幸って何なんだよ……」


 スマホをぽいと足下に放り出す。狭い中で自転するように寝返りを打った。

 扇風機の羽根が回る音だけが部屋に響く。普段は気にならないのに、今日はやけに大きく聞こえて眠りへ入れない。

 イグサは身を起こすと端末を拾った。カツカツと文字を打つ。あの忌ま忌ましい文字列を。


 検索ボタンを押すと、”そめえひそぬも”ではないかと訂正を求められた。一体何のことかと不思議に思うが、間をあけて気がつく。

 リスナーは音で聞いたから、多くの人があの言葉の正しい表記を知らないのだ。


 画面から目を離さないまま、再びソファに力なく転がる。検索結果の上方はイグサのことばかりだった。

 彼を襲った不幸について。ラジオの件の回の文字起こし。この言葉について毒にも薬にもならない考察。あの葉書に対するSNSでの反応。

 探していたものは、それら情報の海に沈んでいた。もう何年も放置されているようで、ページの上部に広告がへばりつき、他のページへのリンクがことごとく死んでいる。

 それは怪談のまとめサイトの一部だった。


――そめゑひそぬも

 決して口にしてはいけない呪いの言葉。口にすれば不幸になる。

 最初は小さな不幸から始まって、どんどん大きくなっていく。

 この言葉を自分の手で書き、他の者に読ませると呪いを解くことが出来る。――


「解くことが出来る……? 解けるのか!」


 最後の文言に希望を見いだして、イグサはがばりと身を起こした。しかし、はっと我に返る。


「いや、でもこれ、他人に読ませるってことは、その人が呪われるんだよな」


 呪いなんて、もちろん信じていない。

 だけど、こんな寝覚めの悪い方法じゃ、やっただけ余計気分が重くなる。

 イグサはまたスマホを放ると、ソファから立ち上がって食事の準備を始めた。


 ***


「え? 最後のゲスト、アサイなんですか?」

「最後って不吉な言い方しないでくれよ。ただ夏休み入るだけだろ。ほら、トオアサの冠番組始まるから、それの宣伝」

「なるほど」


 渡された資料に目を通しながら、内心舌打ちする。

 イグサは同期であるこの男が苦手だ。というか嫌いだ。

 自分達同期をもれなく下に見ているし、後輩達に対しては威張り散らしている。オフで口を開けば、自身の自慢と他人の悪口しか出て来ないようなやつだ。


「トオノは来ないんですか?」


 あれと組んでいるという点では謎しかないが、相方のトオノは穏やかで人当たりの良い人物である。話も面白い。いっそ彼だけで良い。


「トオノさんはスケジュールの都合がつかなくて」

「マジですか」


 これも一種の不幸と言えるだろうか。そう考えて、あるひらめきがイグサの脳裏をよぎった。

 あいつなら、良いんじゃないか?


 ***


――ラジオ番組「クラクラ」にて、供楽のイグサが、トオアサのアサイを呪いに巻き込もうとして失敗!――


イグサ:

 そういえばさー、トオノのケガはもういいの?

アサイ:

 おう。もうばっちり。

イグサ:

 良かった良かった。放送日も決まって、めでたいねー。

アサイ:

 お前、絶対見ろよ。どうせヒマしてるんだし。

イグサ:

 ごめーん。俺、たまってる刑事ドラマ消化しないといけないんだよねー。

アサイ:

 エムラが出てるやつ? あいつ最早俳優じゃね?

イグサ:

 ホントね。

 でもさぁ、あいつが巡査なのか警部なのか、すーぐごっちゃになるんだよな。

アサイ:

 二つのドラマを交互に見るのをやめろ。


イグサ:

 じゃあ、この辺でゲストにも一通読んでもらおうか。ほい。

アサイ:

 おう。えーと、”そめえひ”ってあぶねぇっ! これ例の呪詛じゃねぇか!

イグサ:

 あらー、バレちゃったぜ。

アサイ:

 ふざけんな! はぁ、もうあぶねぇ。

イグサ:

 あははは。はい、これ本物のメール。


 ***


 収録の後、アサイはすごく怒っていた。

 いつまでも怒鳴り散らしていたので、最終的にはマネージャー同士が間に入って何とか収束した。マネージャーには悪いことをした。


 元々、成功するとは思っていなかったけれど。

 あんな奴でも呪いが怖いのか、と何だか感慨深く思った。

 そうだよな、誰だって嫌に決まっている。

 イグサはメモを折りたたんで、ベストのポケットに押し込んだ。


 これは呪いじゃない。呪いなんてない。

 ただちょっと、悪い波が来てるだけ。

 だけど、一体いつまで続くんだろう。


 ***


 バイトと自宅だけ行き来して、いつまでもこもっているから暗い気持ちになるんだ。久しぶりに遠出しよう。


 買い物に出掛けて、特に目新しいものは買わなかった帰り道、駅の改札と外をつなぐ階段を上っていると、上からガタンッと不穏な音がした。

 段ボールの山と台車が宙に投げ出されていた。落ちてくる。ゆっくり、迫ってくる。

 身を引こうとした。治ったはずの左足が痛んで、動きが鈍くなる。

 ドサドサと降り注いできた重みに突き出されて、自分も宙に浮く。世界が回転した。


 ***


 今度は本当に骨折してしまった。

 病室のベッドでろくに身動きも出来ず、ため息をつく。左腕にギプスがはめられ、首からつるされていた。他に目立ったケガはないが、全身打撲のうえ頭を打ったので、検査をして様子を見ることになってしまった。


 あの台車は駅の2階でエレベーターを待っていた男性のものだ。よそ見をしていた他の男性がぶつかって転がり出し、あの騒ぎになったらしい。揺れる場所でも急斜面でもなかったから、台車のストッパーを作動させていなかったわけだ。


 今頃また、呪いだ何だとネットで騒ぎになっているだろうか。

 スマホはベッドに備え付けの机に伏せて置いてある。メッセージが送られているようで、時々ブゥーブゥーと振動する。目の前にあるが、取る気力はない。

 先程電源を切ろうとしたら、看護師から「うちの病院は携帯を使っても大丈夫ですよ」と言われてしまった。

 そういうつもりじゃなかったんだけどな。


 イグサはふと、あの紙はどこに行ったのだろうと思った。アサイに読ませようとしたあのメモだ。中には呪いの言葉が書いてある。

 全ては本当に、あれのせいなのだろうか。

 もし、仮に、本当にそうだとして。


 次に来る不幸は何だ?

 捻挫に骨折と来て、次は何が来る?

 左足に左腕、次に来るのは利き手か? それとも両脚? もっと別の所?


 指先に力は入らないのに、膝の上で右手が震える。


 もし次が、もっと致命的なものだったら?


「イグサ!」


 まるで耳元で叫ばれたように感じて大げさに体がはねた。

 顔を上げると、息を切らしたエムラが病室の入り口に立っていた。イグサははぁ、とため息をつく。


「うるせー。病院だぞここ」

「わ、わるい。びっくりして」

「来てくれてありがと。でもほら、見ての通りピンピンしてるから。検査入院でーす」


 イグサは右手をひらひら振ってみせる。しかし、エムラは表情を曇らせた。


「でも、腕折れてるんだろ?」

「幸い利き手じゃないし、スケジュールもスカスカだし、何とかなるよ。ああー、ただ、マネージャーが飯とか家事とかみてくれるって言ってたから、仕事増やしちゃうな。その点ではお前に迷惑かけるかも」


 言い終える前に、エムラがズカズカとベッド縁まで迫ってきた。ただでさえ体格の良い彼に、この高低差で間近から見下ろされると迫力がある。


「迷惑だとかそんなこと言ってる場合じゃないだろ!」

「だからお前、声でかいって」

「退院したら神社に行こう。寺でも良い」

「あのなぁ、エムラ。そんなのお前の、」

「俺の気にしすぎで良い。俺の気休めでも良いから。なあ、頼むよ」


 エムラが崩れるように椅子に腰を下ろす。うつむいて、弱々しい声でつぶやく。


「どうして急に、こんなことになったんだ……」


 独り言だろうそれに、イグサは応えなかった。


 ***


 腕の骨折以外に異常は見当たらず、直ぐに退院出来た。

 エムラが忙しいのを言い訳に、神社にも寺にも行っていない。

 呪いなんて、あるわけがないけれど。

 もし、はっきり、呪われているなんて言われてしまえば気分は良くないし。

 もし、はっきり、助からないなんて言われてしまえば、どうすればいい。


 アパートの自室でばかり過ごす日々は、骨折前と大きく変わらない。せいぜい食事が、簡単男メシからコンビニ弁当と冷食ばかりになったくらいだ。


 ***


 午前中からひどく蒸し暑かった。窓を全開にしても、扇風機を回しても暑い。ムリせず冷房をつければ良いだけだが、アイスが食べたいと思った。

 別に出歩けないわけではない。下のコンビニに行ってアイスを1つ買ってくる、それだけなら片腕でも問題ないはずだ。

 部屋着から着替えるのは面倒だ。イグサはサマーベストを羽織ると、そのポケットにスマホを押し込んで出掛けた。


 中もチョコ、外もチョコのアイスバーを1本レジに持って行く。スマホをポケットから出した時、”それ”がこぼれ落ちたことにイグサは気がつかなかった。支払いを終えて、シールを貼ってもらったアイスを片手に出入り口に向かう。


「そめゑひ……そぬも?」


 しわがれた、優しい声だった。聞こえた言葉に、思わず足を止めて振り返る。

 チョコレート色をしたナイロンの手提げを提げた女性が、折り目のついた紙片を手にしていた。イグサの祖母と同じくらいの歳に見える。こちらの視線に気がついて顔を上げた。


「これ、あなたの?」


 紙片を差し出される。アイスを持ったままの右手を出して、中指と薬指で挟むように受け取った。

 確かに自分の字だ。あのメモだ。


「変わった言葉ねぇ。何かのおまじない?」

「……はい」


 女性の目がイグサの左腕に向く。一瞬、悲しそうに陰った。


「そうなの。早く良くなると良いねぇ」


 女性はにこりとほほ笑んで、イグサの横を抜けて行った。

 部屋に戻ると、アイスはかなり溶けていた。


 ***


――クイックのコーキくん、イグサさんの「クラクラ」に久しぶりの出演! 喜びすぎて思わずポロッと……?――


コーキ:

 イグサさん! 腕治って良かったです!

イグサ:

 コーキくんもお見舞いありがとーね。

コーキ:

 あの頃、イグサさん不運続きですげー心配でしたよー。

 僕、今度の刑事ドラマにちらっと出させてもらったんですけど、

 現場で会ったエムラさんがそれはまあ顔色悪くて、

 エムラさんの方が今にも倒れちゃいそうでした。

イグサ:

 あいつにも随分と心配かけちゃったからなぁ。ところで、コーキくん。

コーキ:

 はい?

イグサ:

 ドラマに出ること言って良かったの?

 まだ放送してないよね? そっちの宣伝もあるなんて聞いてないけど。

コーキ:

 ああー!? いや、うん、僕、ドラマ名出してないから! セーフ!

イグサ:

 おんやぁ? この刑事ドラマ、主題歌がクイックだぞぉ?


(クイックの「Dragnet」が流れる)


コーキ:

 あー! わー! うぁー!

 この曲とさっきのトークは関係ありませーん!

イグサ:

 コーキくん、うるさーい。


 ***


 裏で重ねられていた交渉の末、スポンサー契約は継続が決まった。

 イグサはラジオ番組を続けられている。

 ケガが治ってからは、エムラと一緒にテレビのクイズ番組にも動物番組にも呼ばれるようになった。以前と同じように。


 呪いなんてなかったと、自分自身に言い聞かせる。

 悪い波が引いただけ。

 あの頃はただ、そういう時期だっただけ。


 でも、アパートの近くで救急車を見ると心臓が絞られる。

 あの、祖母のような女性を思い出す。

 イグサの腕を心配そうに見やった目を、労るような声を思い出す。


 呪いなんてない。

 あんなメモ、何の効力もない。

 あのおばあさんは、今日も笑って暮らしてる。

 そう信じる。


 じゃないと、とてもたえられない。



 END



 ※安全に配慮して、作中の呪いの言葉は意味のない文字列に差し替えてあります。ご了承ください。

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