展開。
「…であるからして、今から100年前、我らの偉大なる指導者、レーンは大勢の革命戦士を率いて悪辣なるバチス政権を倒し、国民が平等に暮らせる国を築き上げたのです。」
いつも同じような話ばかりしていて、聞く気の起きないエルバ教授の講義だけれど、今日はもっと頭に入ってこない。
しまった。やらかした。と僕はずっと後悔している。
大学の講義内の中などで国に対して消極的な意見を言うのは問題無い。ここは学問の場であるからよっぽど国の体制にそぐわない意見でない限り教授達も見逃してくれる。
でも、国の大臣に直々に消極的な意見を言うのはまずかった。それも教育局長という教育分野のトップに。
どうしよう、退学かなぁと不安がよぎる。実際、ある日突然退学していった、という学生はいる。その学生は外部に対して国の体制にそぐわないことを話したのではないか、と噂されている。最も、そういう場合は自由主議被れだったからそうなっても仕方ないよね、という感じに半ば嘲笑混じりではあるが。
「ねぇ、あんた顔が真っ青よ。大丈夫?」
「大丈夫だよ…」
僕が抱えている不安など知りもせずにリムがぼそりと話しかけてくる。こんな時に呑気なものだなと思うけれど、話すわけにはいかないので仕方ない。
お昼まで講義を受けて、食堂での昼食の時間になっても不安は尽きなかった。リムは女子の友達と他の席に座った。
「お前大丈夫か?どこか具合でも悪いのか?」
目の前で一緒にご飯を食べている同じ学部のヨウルが心配そうに聞いてきた。でも話したら巻き添えを食らうかもしれないから話せない。
「さてはお前、リムちゃんに振られたな?」
ヨウルが茶化すように聞いてくる。お前のような女たらしとは違うぞと反論したいけれど、そんな元気はない。
「違うよ。そもそも向こうがよく絡んでくるだけで…」
そこまで言いかけた時、学校のベルが鳴った。
「学生番号 1073 キオン・アルバ 至急学生課まで来てください。」
食堂にいる顔見知りの顔が皆こちらを向いた。いよいよ来たか、と覚悟を決めることにする。
「お前、なにやらかしたんだ?」
「なんでもない。今までありがとう。」
ほとんど今生の別れのようなセリフを吐いて、食べかけの昼食のことも忘れて食堂を抜け出す。もう皆に会うのも最後かとしみじみと思う。
学生課にある談話室に案内されて入ると、そこにはエルバ教授が座っていた。
「まぁ、掛けなさい。」
そうやって椅子を勧められたため、返事をして座る。覚悟はできた。
「君にこれを。開けてみなさい。」
教授はそういうと白い封筒を渡してきた。でもどうしよう、退学した後のことなどどうしたらいいか知らない。この国は落伍者に対しての制度など用意していないのだ。
恐る恐る封筒を開けてみると、中には1枚の紙が入っていた。
XXXX年 X月X日
シューグ大学1年 キオン・アルバ 本日より貴官を政治将校付将校に任命し、准尉待遇とする。任地については追って通達する。
リーザ共和国参謀本部
入っていたのは思いもよらぬ知らせだった。大学生を軍人待遇として現地に送り込んで政治将校としての経験を積ませる、という制度が数年前からあるのは知っていたが、まさか自分が選ばれるとは…しかもこの制度によって選ばれる学生の選考基準は全く不明で、成績が学内トップ10に入る学生が選ばれたかと思えば、逆に落第寸前の学生が選ばれることもある。もちろん選考前の面接などなかった。
もしや、これは敵の攻撃に見せかけて僕を殺すためではないか、と思ったけど大掛かりすぎるな、と少し安堵できた。
エルバ教授から説明会の資料を受け取り、部屋を後にした。とても疲れて午後の講義をまともに受けられる気がしなかった。