閑話:ヒメゴト
直接的な描写は無いですが、一応R15回かもしれないです。作者の趣味の蛇足回なので、読まなくても問題ありません。興味の無い方は次章へGO。運営に注意されたら削除するかも。
《封印の大地イルウェト》の一角に座する城塞。
嘗てはその高い壁と堀で外敵を寄せ付け無かったであろう戦場は、嘗ての戦争を生き延びた魔の物の巣窟と化していた。
見据える先、尖塔の一角には棘の鞭を思わせる尾が巻き付き、柱を繋ぐ通路には邪悪さを微塵も隠そうとしない竜の顔がある。その鳥にも似た竜は口の端からは揮発した毒の煙を漏らして、迷い込んだ矮躯の亜人を睥睨していた。
なれど、その肌――濃い毒素を含んだ鱗は数多の傷が付き、そして古傷ではない証明の如く血を滴らせている。そしてその瞳には困惑と怒りの色彩を帯び、僅かな怯えが動作となって端々に表れていた。
「はぁ!」
傍から見れば砦を落とした邪竜とそれを取り返さんと闘う図式の中、私は両の手に剣を握って中庭を疾駆する。地面より上、更に塔へと体を擡げる形で相対する竜に向かい、地面を強く蹴り込んで宙を舞った。
踏み込んだ足はその力を余すこと無く上体へと伝わせ、剣を持つ腕に勢いが乗る。風切りの音が立つ程に鋼は空を裂き、目の前に立つ竜の――その紫色の鱗へと牙を立てた。
「ガアアァッ!!」
左の肩を刺し貫かれた竜は激昂し、咆哮が大気を震わせる。私は素早く剣を抜くと、そのまま体を足場にもう一度跳躍。側転の要領で、頭上を飛び越しざまに右目へと切り込んだ。ぬるりとした切れ味に血飛沫が舞い、竜の口から毒の煙が周囲に放たれる。
直後、無事な方の腕が掴みかかるが、スキルにより宙を蹴った私の体は横へと逸れる。竜の手は空気を掴み、私は尖塔の屋根へと着地。
「うおっ!?」
そこへ続けざまに毒のブレスが放たれ、塔をグズグズと溶かし始めた。慌てて地面に降りた私は、連続して噴射されたブレスを掻い潜り、竜へと距離を詰めた。
光を失った右目の側へと武器を持ち替え、先程と同じく地面を蹴って跳び、空中で二段目を踏む。そこへ毒のブレスを溜めた竜の顎門が迫るが予想通り。
「ゴガッ!?」
私は素早くインベントリから剣を取り出すと、開け放たれたその喉へと投擲した。轟々と唸るその大矢は、薄ら赤い肉肌へと突き刺さる。衝撃に思わず口を閉じた竜は、空気も毒も纏めて嚥下した。
「ガッ……!」
そしてその隙を逃す筈もなく、目を丸くする竜の顎下を直剣でかち上げ――逆鱗ごと骨を叩き砕く。仰のいた体勢になったそこへ、更に右で刀を抜き放って一閃。
削げた鱗の隙間を縫い、肉を割く。骨へと届けばもう一度力を籠め、
「はぁっ!」
「ギッ――――」
頚椎に当たる部分を断ち切った。
後は水が上から下へと流れるが道理、弛緩した竜の体は刀へと凭れ掛かる。その重みも相まって、剣は縦に円を描いて振り抜かれ――断首が成された。
重苦しい音を立てて地面へと落ちる首と、文字通り頭を失って制御が効かなくなった体は最後の足掻きに腕を振るいながら倒れ込む。断面から噴き出す血を浴びないよう気をつけながら、私は小さく息を吐いた。
『以前より余裕があったな』
「ん……まあまあかな、もう少し安全マージンを取っても良い気がした」
この竜――[紫毒鳥竜アクババ]は翼竜に似た外見で、鶏冠と羽毛の生えた両腕が特徴的だが、それだけだ。
平野で出会うと一生空から毒のブレスを吐いてくるのが厄介であるのも、砦で休息しているのを相手取れば地の利は此方にある。力も亜竜にしては然程なく、この土地の中では倒しやすい部類の魔物であろう。ただ、アクババ周辺の空気に微量の毒を含んでいるので、それだけは注意が必要だ。
「ふぅ……」
少しでも吸い込むと体の痺れやめまいが起き、場合によっては昏倒することもある。私は血中の毒素をスキルでどうにか出来るのだが、それでも少し変調を来すほどだ。
『どうした? 顔が赤いぞ、体調が悪いのか?』
「や、別に何でもないというか……」
具体的に言うと、その……変な気分になる。
はっきりとした欲とまでは行かずとも、体温が上がってじんわりと下腹部が疼いて仕方なくなってしまう。はじめのうちはその昂りに任せて戦っていれば良かったが、日に日に強くなるこの……多分、性欲なのか? は際限を知らない。
女性の快感は男のソレより凄いと言うし、この体になってまだ一度も致していない身としては、怖くもある。しかし、衝動に任せてスッキリしたい気持ちも多分にあった。
「んゔ~~……」
ただ、そう思うだけで普段近くに師匠がいるので、結局我慢するしかないのだけども……。
◇
アクババと戦ってから数日、私は荒野を少し覚束ない足取りで歩いていた。
食欲と睡眠欲を失った代わりに残った欲は強いのか、未だ頭は茹だったように言うことを聞かない。それどころか疼きは増すばかりで、何処かで発散しなければ活動に支障が出るやもしれないほどになってしまっている。
正直、そろそろ限界に近い。
「……あ」
『見ろ、水場があるぞ』
しかして、ジクジクと熱を孕んだ下半身が決壊寸前までの秒読みを始めた時、私は遠くに水場を見つけた。この枯れた大地に稀有な、焦土のオアシス。
もしかすると水浴びでもすれば、少しは気が紛れるかもしれない。それにここ数ヶ月雨も降ってないし、体の方も洗っておきたかった。
「師匠」
『なんだ』
「久しぶりに水浴びしたいから、あの岩場の下で待ってて」
『いや、あそこは流石に遠すぎないか?』
私が指したのはオアシスの更に向こう、大きな岩が地面に突き刺さるようにして生えている場所だった。
「なにもないところだと覗かれる危険があるし、そしたら変態って呼ぶけど、いい?」
『……分かった、言う通りにしよう』
「うん」
『別に障害物が無くとも覗き見するような狡い心は持ち合わせとらんのだがな』
そう愚痴をこぼしながらも岩場へと飛んでいく師匠を見送り、私は剣ごと腰に提げたベルトを外す。鈍い音を立てて地面へ落ちたそれを手の届く場所へとやり、次いで篭手や肩当てを外して置いた。
そうして身軽になると、下に着込んでいた鎖帷子と服を脱いでインナー姿に。ゲームならここまでで、温泉やプールなどと言った場所もインナーで入る事になるが――この世界は現実。するりと、パンツとスポーツブラのような形状のそれを脱いで、乱雑に服の上へと投げ捨てた。
「わ、冷たい」
細い足が水へと触れ、その冷たさに少し驚く。次はゆっくりと慣らすように、足から順に体を浸けていった。水の中に座り込むと手で肩や腕を水で撫でるように洗い、髪も根本から毛先に向けて手櫛を通す。
水は火照った体をほどよく冷まし、久方ぶりの休息を与えてくれた。こんな、全身を浸けられる深い湖などはないので、本当に運が良かったといえる。
「んっ……」
しかし、ふと体の敏感な部分に触れた途端、治まっていた熱が再び高まった。
幸いにして人の目は無く、唯一の懸念だった師匠も今は近くにいない。それが私の中の箍を外してしまったのか、手がまるで他人の物のように動き出した。
「ふぅ……うっ……」
鎖骨から胸元まで手が撫ぜ、腹部や脇腹を通って段々下へと向かっていく。水気を孕んだ肌は掌にしっとりと張り付いて、薄っすらと快感を伝える。
拙い拙いと思いつつも、その手は止まらず足の付け根へと伸ばされ――――
「――ふぅ」
時間で言えば恐らくそう長くは無かっただろうが、湖から上がった私は爽やかな心持ちであった。うん、凄かった。具体的に何がどうかは言えないけど――女の子って凄い。
一度昇り詰めても、心地よい倦怠感を伴うだけで萎えないんだもんなあ。そう考えると、女の人で性欲強い人って大変かも知れない。私も恐らく長命種にしては強い部類なんだろうけど、それでも多分人間よりは薄いはず。
……でも、少しだけ癖になりそうで怖いのは確かだった。