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『Another・Arcadia・Online』


 略してAAO、アナカジとも呼ばれるVR専用MMORPG。


 キャッチコピーは『幻想は、現実に。』


 世界観は剣と魔法、そして失われた超古代文明が入り交じる世界。主人公であるプレイヤーたちは《アナザーアルカディア》と呼ばれる世界を探検する至ってスタンダードなファンタジーRPGである。


 AAOのオープンベータテスト世界総参加プレイヤーは三千万人を突破し、オンラインゲーム史上でも稀に見るヒットを記録。その後も世界オンラインゲーム月間同時接続数一位を記録し、国産MMOとしては快挙とも言えるほど様々な記録を更新した。


 AAO最大の特徴として『プレイヤー全員で攻略するグランドクエストによる世界の変動』と『高度なAIによるNPCの行動の多彩さ』というものが挙げられる。本物の人間と遜色無いNPCの言動や、個人の行動によって世界の行く末が左右されるリアリティは世界中を熱狂させた。


 ゲーム内で何かが起こる度にそれはAAOの正史としてホームページに記載され、特に大きな活躍を見せたプレイヤーは歴史年表に名を連ねる事も許された。


 だが、その凄まじいリアリティ相応に、難易度は従来のゲームと比較しても想像を絶する物となっていた。


 雑魚モンスター一体を取っても、プレイヤーに対して行う行動は完全ランダム。レベルやステータス、装備などで力押し出来る相手ならまだしも、高難易度のダンジョンやボスは鬼畜という言葉では生温い程の難易度を誇った。


 故に最前線で攻略を進めるプレイヤーたちは英雄視され、また化け物と称されている。


 そして伊藤春樹、26歳サラリーマン、独身童貞――――以下略、もまたこのAAOに魅了された男の一人だ。


 先天性の疾患から学校に上手く馴染めず、一度人生を諦めて引き篭もった春樹にとってゲームとは救いだった。"もう一つの世界"であるAAOと出会ったのも必然と言える。ここでの経験を糧に再び社会復帰を果たした事もあり、彼にとってAAOとはただのゲームではなかった。


 リリース当初から八年間プレイし続け、イベントがあれば走り、出た課金アイテムは全て買った。PvPのランキングでは最高4位という成績を示し、界隈ではかなり有名なプレイヤーとして認知されている。


 プレイヤーネームは"フランチェスカ"、フレンドやギルドメンバーからは"フラン"と呼ばれていた。


 種族は[吸血鬼(ヴァンパイア)]で、アバターは『春樹の性癖を存分に盛り込んだ最高の美少女』をテーマに作られている。腰まで届く――――月の光にも似た月白色の髪と紅色の瞳が特徴の可憐な少女だが、中の人である春樹は男であり、世間一般で言うれっきとしたネカマである。


 メインクラスは[夜叉剣豪]。


 初期クラスの[剣士]を雛形とした、第七段大型アップデートで追加されたクラスだ。


 クラス覚醒システム――――既存のクラスを進化させる――――によって【絶・覚醒】というインフレも甚だしい名前で五段階目の覚醒を果たした二刀流、そして当時トップのDPSを誇ったクラスである。


 初期クラスが[剣士]なだけあってSTR(筋力)の補正が高く、習得出来るアビリティの殆どが攻撃力上昇の代わりにHPや防御を犠牲にするものが多い。性能としてはそれなりにピーキーで、プレイヤースキルが伴わないと扱いきれないクラスでもあった。


 それでも春樹は[夜叉剣豪]に拘った。二刀流がかっこいいと言うのもあるが、何よりその守りを捨てて攻撃に特化した潔さが好きだったのだ。


 半年程上手い運用方法を考え続けた結果、HPが上がりやすい[吸血鬼]で、防御を捨てたAGI(敏捷性)特化キャラビルドを構築するという結論が出た。


 HP減少に伴ってステータスが上昇するスキルと、致死ダメージをHP1で耐える食いしばり系スキルも活用した《背水鬼夜叉》ビルドは恐らく春樹以外に使用者がいない。誰もそんなリスクを負わずとも、程々の火力で敵は倒せるのだ。


 それでも春樹のような尖ったプレイヤーたちは似たような物を日夜生み出していたし、その自由度の高さも相まって現実と遜色ない世界がAAOに構築されていった。


 とにかくAAOにはなんでもあったし、プレイヤーたちはなんでもやった。正しく"もう一つの世界"として、AAOは沢山のプレイヤーに愛され続けたのだ。


 春樹もギルドに所属して領地を持ち、数多の有力プレイヤーと交流を行っていた。プレイヤー間の戦争に手を貸す傭兵として名を馳せ、時に悪役として、ときに正義の味方として多数のプレイヤーと敵対したりもした。







 ――――そんな春樹がいつものようにAAOへとログインするため、自室のベッドに寝転がってヘッドマウントディスプレイを装着した時のこと。予定にないアップデートが始まり、視界に進捗を示すバーが表示された。


 先日にログインした際はそのような告知はされていなかったはずではある。何か不具合修正でもあったのかと訝しんでいると、アップデートの数値が20%を超えた辺りで段々と眠気の波が襲い来た。


 微睡む頭の中で「アプデしてる間に飯でも食うか」と考えるが、何故か起き上がる事も寝返りをうつことも出来ない。


 そして数十分後、アップデートの完了を告げるアラートと共に、意識は急激に深く沈み込みこんでいく。抗いようのないそれに春樹は身を委ね、直後に視界が暗転した。







【TIPS】


[クラス]


ゲームにおいて何が出来るか、どういった役割なのかを示す言葉。職業とも呼ばれ、[剣士]や[魔道士]などの分類分けに使われる。

ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。はじめだけご挨拶代わりに、当作品が面白い、続きが読みたいと思った方はブックマーク、評価(下の☆マーク)を押していただけると幸いです。

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