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遭難後日談

無事に救助されたりんと牧村。

物語はおしまいですが、その後日談にちょっと触れてみたいと思います。

 生還した二人は、県立病院で治療を受けたあと、それぞれの関係者と再会を果たした。二人の知らないところで大ごとになっていたらしく、各地でニュースにもなったほどだ。


 遭難翌日には東京に戻る予定だったメンバー四人は真奈美に直訴して、撮影隊だけ帰してペルヘ・シテートに残った。翌日以降は客室のひとつを借りつつ、りんと徹の無事を祈りながら、徹が欠けて四苦八苦していた宿泊客対応を手伝ってくれた。


「オーナーなら、時間がかかってもきっと帰ってくるわよ。」


 梨奈はそう言って宿泊客を予定通りに受け入れたのだ。その代わりに右往左往していた修一を見かねて、メンバー達は給仕や清掃など、自分達でできることを手伝ってくれたのだ。この時期の宿泊客はスキー目当ての若い客層が多い。ニジマスメンバーを見て驚いている人達もいた。


 二人が救助された連絡を受け、梨奈は受付を修一に任せるとメンバーと共に病院へ向かった。左腕を吊って病院から出てきた徹の姿と笑顔を見て、ため息を吐きながらあきれ顔で苦笑したという。



 スケジュールの遅れを取り戻すため、翌朝にはニジマスメンバーは東京へ帰っていった。りんは徹の言いつけを守り、しばらくダンスレッスンには参加せず、左足首の捻挫を完治させることに専念した。若い回復力は素晴らしいもので、一ヵ月もしないうちに医者からレッスン再開の太鼓判をもらった。


 その後行われた全国ツアーは大盛況の成功を収めたが、徹は招待されたにもかかわらず、ペンション経営が忙しすぎて行くことができなかった。アイドルが遭難した時に宿泊したペンションということもあって、口コミやマスコミが取り上げたことも影響し、普段は閑散期になるような初秋のこの時期にも満室が途絶えなかったのだ。


 しかし、問題も発生した。宿泊客が増える一方、ゴシップ紙の記者達が二人の遭難を面白おかしく書き立てたのだ。


「まったく、頭来ちゃうわ!」


 梨奈はそう言いながら受話器を置いた。芸能人の不祥事や不倫を取り扱うのが好きな芸能週刊誌が、二人の遭難を面白おかしく書き立てたのだ。


「ペンションオーナーとアイドルの密室の五日間。もう、タイトルがいやらしい!」

「オーナー。俺のせいですんません・・・。」

「なに、気にすることはない。真実は変わらないんだから。」


 先般の宿泊客の中に、この記事の記者がいたのだ。記者の話術は巧みで、徹達を気遣うように当時のことを聞き出し、修一がその応対にあたっていたのだ。記事の内容は修一の説明したようなものではなく、歳の差の男女が密室で過ごした濃厚な五日間と言うもので、いかにもゴシップ紙好きが食いつきそうな書き方をしていた。


「むしろ光栄だね。こんな田舎オヤジとアイドルが雪山でロマンスなんて。B級映画にもならんよ。」


 徹はそう言って笑って見せたが、りん達のファンや道徳を重んじるという「自称正義の味方」達からお叱りの電話が相次いでいるのだ。客足が伸びた一方で、こういった弊害が出ていた。その一方的な攻撃は、三人の心を疲弊させていった。


 今日何度目かの電話が鳴ったので、今度は修一が電話に出た。


「はい。ペンション、ペルヘ・シテートでございます。」


 修一は電話で何度か会話をした後、


「わかりました。オーナーに伝えるっす。ありがとうございました。」


 そう言って電話を切った。


「誰からだい?」

「ニジマスのマネージャーの橋口さんからっす。二一時から記者会見をするので見てほしいって。」

「記者会見?」


 二一時にもなれば、夕食も終わり業務も一段落する。徹達は協力して仕事を終わらせると、地下のシアタールームでニュース番組を映した。



 どの局も、ニュース番組をこの時間に行う局は冒頭で記者会見の様子を取り上げていた。都内のホテルのホールで、ニジマスのメンバー五人が真奈美と一緒に並んで座っていた。


「お集まりいただきありがとうございます。本日は、私どものプロダクションに所属する26時のマスケラータのメンバー、栗栖りんが白雪山で遭難したことについて、一部の週刊誌で誤解を招くような報道がなされたために、本日の場を設けさせていただきました。」


 真奈美はそう言うと、綾恵梨に進行を任せた。綾恵梨からどういった趣旨でペルヘ・シテートに宿泊したのか、りんが遭難するきっかけになったスケジュール変更の概要説明をした後、りんからは五日間の遭難中の出来事が細かく説明された。そして、質疑応答の時間になった。会場には芸能週刊誌の記者も来ているようだった。


「山小屋での様子はどうでしたか?」

「オーナーさんは常に紳士的に私に接してくれました。私のケガの手当てをしてくれたり、熱を出した時に献身的に看護してくださいました。」

「見知らぬ男性と同じ空間で過ごすことに抵抗や怖さはなかったんですか?」

「ありません。抵抗を感じたり、怖さを感じるような方ではないんです。それでもオーナーさんは、私に気を使って離れたところで休まれたり、気弱になった私を励ましてくださったり、無事に帰れるようにあらゆることを考えてくださいました。」

「下心があったから親切にしたとは考えられませんか?」


 どうしても面白おかしくしようと、芸能記者が質問をした。その言葉には、メンバーの全員が憤慨したが、一番腹を立てたのはやはりりん本人だった。


「どうして、何を根拠にそんなことが言えるんですか? あなたにオーナーさんの何がわかるんですか? オーナーさんは私を助けるために、野生の熊と戦って助けてくれたほどなんです。この会場にいる方で、熊と遭遇したからって、誰かのために命を懸けて戦うことができる人が何人いるっていうんですか。私の、私を命がけで助けてくれた命の恩人を、何も知らないのに悪く言うことはやめてください!!」


 そこまで言うと、りんはとうとう耐え切れなくなったのか泣き出してしまった。みはるや美優が立ち上がり、りんに歩み寄ってその背中を支えた。


 綾恵梨は徹の行ったことへの感謝の気持ちを伝え、芸能各紙には、一般人である徹に迷惑が掛からないよう配慮することを求めた。また、全国の視聴者へ徹の勇気を伝え、誹謗中傷することを止めるように訴えた。


「オーナー、良かったですね。」

「ああ、そうだな。今度は、彼女達に守られてしまったな。」


 徹は胸がいっぱいだった。この数日の誹謗中傷の電話は、少なからず徹達の心を蝕んでいたのだ。修一なんかは顔をくしゃくしゃにして泣いている。


 この会見以降、ペルヘ・シテートへのいたずら電話は鳴りを潜める。また、りんの涙の訴えは、匿名で誰かを面白おかしく、かつ一方的に攻撃できる今の歪んだ情報社会へ一石を投じた。大手のインターネット会社は、投稿内容の監査を強化し、いわれのない誹謗中傷の取り締まりを徹底することになった。また、SNSなどへの投稿に対して、逮捕者が出るまでになった。少しずつだが、インターネットへのモラルが注目されるようになったのだ。


 徹は自室に引き上げると、ベランダに出て電子タバコを取り出した。りん達の勇気ある行動で、元の穏やかな生活が戻ることだろう。紫煙を吐き出しながら、パスケースを取り出して里美と香穂の写真を見つめた。


「里美、香穂・・・。おれは、少しは役に立てたのかな。生きていても、いいのかな。」


 りんを助けられたことと彼女の言葉で、震災以降、心の奥に突っかかっていたものが、少しだけ解消された気がした。





遭難後日談 その二


 年末が近くなり、世間が師走に追われている頃、ペルヘ・シテートへ一泊二日の団体予約が入った。徹は玄関前の雪をかき分けると、玄関脇に五つの雪だるまを作った。もうすぐクリスマスということもあって、フロント前の談話スペースには大きなクリスマスツリーを飾った。


「ニジマスちゃんですか?」


 梨奈がコーヒーを持って出てきた。


「なんとなく五つにしたんだが、彼女達を雪だるまに例えるのはちょっと申し訳ないなぁ。」


 コーヒーを受け取りながら、徹はそう言って笑った。それもそのはずだ。アイドルとして、歌やダンスだけではなく見た目にも気を遣う彼女達と、ずんぐりむっくりの雪だるまは似ても似つかぬものだ。徹は笑いながら左腕をさすった。左腕のケガは、若干の傷跡こそ残したが、後遺症もなく完治し、すっかり元の生活に戻っている。ただ、事件後、完治するまでは何度もうずき、さすっているうちにクセになってしまったようだ。


 コーヒーを飲みながら一息入れていると、雪煙を巻き上げながらスノーバイクが戻ってきた。遭難の後、回収されたスノーバイクは故障もなくよく働いている。修一がライセンスを取ってからはすっかり彼の移動手段になっていた。


「山小屋の点検完了っす。もうすぐ団体さんお越しですよね。」

「ああ、それまでに着替えがてら食事を済ませるといい。」

「了解っす。」


 徹の遭難話を聞いた梨奈の父親は、この夏に再び徹と山小屋へ出向き、使用した保存食や水の補給と、薪の補給、そして、ドラム缶風呂の壁の取り付けや脱衣所の新設、熊対策として熊用撃退スプレーを常備するなど、今回の遭難を教訓に補強を図った。今では、定期的に修一と徹が点検に出向き、清掃や周辺環境を整えに行っている。梨奈の父親は、今度発電機を持ち込もうと計画をしているようだ。熊はあれ以来出ていない。


 また、りんが落下した地点を視察し、組合ではゲレンデコースがもっと明確に分かるようにトラテープを新設したり、携帯が繋がりやすくなるように電話局と話し合ってアンテナを建造することが決定された。



 予定より少し遅れて、団体客を乗せたマイクロバスが駐車場に入ってきた。この冬の雪は例年に比べてまだ少ないため、車の運転もしやすそうだった。いつも通り出迎えに外へ出ると、


「オーナーさん!」


 聞き覚えのある声が聞こえ、りんがバスから飛び出すと、まっすぐ徹達のところへ駆け寄ってきた。


「え、りんちゃん? どうして?」


 驚きを隠せない徹に、梨奈や修一はクスクスと笑っていた。


「オーナー、びっくりさせようと思って黙ってたんですけど、今日の団体様はニジマスメンバーとそのご家族様です。」

「なんだって??」


 驚きと気持ちの整理がつかない徹の前に、バスから降りてきた同年代の男性が歩み寄り、お辞儀をすると握手を求めてきた。


「はじめまして。シルバーリングプロダクションのCEO、沢渡勉です。栗栖の件では大変お世話になりました。」

「思いもかけないことに驚いてしまい失礼しました。ペルヘ・シテートのオーナー、牧村です。遠路ようこそお越しくださいました。」


 腕を組んでくるりんの笑顔に、徹も破顔した。コンサートにも出かけられない徹のために、遭難時の礼を兼ねてメンバーと家族の慰安旅行をしようと企画したのは沢渡だった。真奈美から遭難の報告を受けた沢渡は、その後の全国ツアーでこの件を大いに営業に活用した。今回の遭難の件があって、「26時のマスケラータ」の名前は全国区になったと言っていい。見込んでいた興行収入よりも大幅な売り上げを上げたという。


「オーナーさん。お久しぶりです。」

「あ、雪だるまがある。」

「五体って、私達ですか?」

「酷ーい。こんなにおデブじゃないもん!」


 綾恵梨達が、挨拶がてら雪だるまを見て頬を膨らませた。


「ほら、やっぱり突っ込まれた。」


 梨奈の言葉に、徹は申し訳なさそうに笑った。



 メンバーとその家族は、それぞれの部屋に分かれ、普段はなかなかとることができなかった家族水入らずの時間を過ごせた。りんの両親からは、何度も何度も礼を言われ、徹はずっと恐縮しっぱなしだった。


「オーナー。お夕食は、皆さん一緒でしませんかってCEOがおっしゃってるっす。」

「そうか。そうだな、今日は貸し切り客だし、お言葉に甘えるとするか。梨奈に賄いのメニューを変更させよう。」


 そう言ってキッチンへ入ると、


「オーナーならそう言うと思って、今夜はお客様と同じメニューにしていますよ。」


 梨奈はそう言ってガッツポーズした。


「梨奈さん。お手伝いすることはありますか?」


 綾恵梨と果蓮がキッチンへ顔を出した。二人は梨奈の料理を手伝い、みはるや美優は修一と一緒にダイニングのテーブルセッティングを行った。


「なんか、お客様なのに申し訳ない。」

「いいじゃないですか。もともとそのつもりで来たんです。オーナーさんにはあとでサプライズもありますからね。」

「ええっ?」

「内緒ですけどっ!」


 そう言って笑うりんは、前よりも少し大人っぽくなったような気がした。全国ツアーやメディアへの出演が増え、アイドルとして、芸能人として成長したのだろう。


 夕食は、経営者同士、徹と沢渡はそれぞれの経営について意見交換を行った。アルコールも入ったせいか、二人の野望話は尽きることがなかった。ニジマスを始め、抱えている芸能人メンバーをどう売り出していくか、そのためには今回のようなことも武器として使うことをいとわない沢渡の考えは、いかにも芸能プロダクション経営者として、図太い考え方だ。


 それは徹も賛成するところで、修一は今回の遭難を受けて、自慢のHPで大々的に宣伝を行った。【遭難してもオーナーが助けるペンション】と銘打った時には頭を叩いたが。


 夕食もメインメニューが終わり、デザートが出て来る頃になると、


「さてと。それじゃあ、二次会の準備をしますので、よろしくお願いします。」


 真奈美の言葉にメンバー達と梨奈や修一が立ち上がった。話を聞いていない徹はキョトンとしていたが、


「オーナーさんは、ちょっと休憩してきてください。」


 と、りん達に促されて、何が何だかわからないままいったん自室へ引き上げた。電子タバコを取り出すと、ベランダに出て火を点けた。そう言えば、気仙沼からここへきて、こんなに笑って、食べて飲んだのは初めてだったかもしれない。家族を失ったことを思い出さないように仕事に没頭してきた徹にとって、あの遭難事故は生活を見直す一つのきっかけになった。震災以後、一度も行っていなかった家族の墓参りにも行くことができた。壊滅的ダメージを受けていたふるさと気仙沼は、驚くべき復興を遂げていた。日本人の生きる力の強さを見た気がした。


 紫煙が空気中に放たれて消えていった。二月にみんなが来た時よりも、今の方が寒さもまだ優しい。とは言っても、雪の量は十分で、この冬もスキー客が多く来訪することが見込まれていた。思えば徹の人生は災害ばかりだ。阪神淡路大震災を知って、防災の道に興味を持ち、気仙沼で防災強化のために奔走する毎日だった。しかし、それでも東日本大震災に見舞われ、気仙沼から多くの犠牲者を出してしまったことに、自然の力への無力さを痛感した。家族を失い、この世の終わりと思える時間を何度過ごしたことだろう。


 自室に戻ると、写真の中には、里美と香穂が変わらぬ笑顔で徹を見守っていた。娘の遺したシュシュに触れた時、部屋のドアがノックされた。


「オーナーさん。」

「どうぞ。」

「失礼します。」


 扉が開くと、ステージ衣装に身を包んだりんが中に入ってきた。確か今月発表した新曲の衣装だ。ブラウンとピンクを基調として、メンバーそれぞれが少しずつデザインが違うが、調和がとれていてとてもかわいらしかったのを思い出した。


「ふふ、オーナーさんの部屋に初めて入っちゃいました。きれいに片付けられているんですね。オーナーさんらしいです。」

「誰を入れるわけでもないんだけどね。従業員以外では、りんちゃんが初めて入ったかな。」

「光栄です。」


 りんはそう言うと、里美と香穂の写真を見つけて歩み寄り、指輪とシュシュにそっと手を合わせた。


「奥様、香穂ちゃん。少しの間、オーナーさんをお借りしますね。」


 そう言うと、徹の手を取り、


「さぁ、行きましょう。」

「え?」


 キョトンとした徹を連れてダイニングへ戻った。ダイニングに入ると、そこはすっかりステージとしてセッティングが完成しており、メンバーの家族達が席に着いていた。メンバー達はそれぞれの衣装に身を包み、笑顔で出迎え、徹を最前線の真ん中に座らせると、


「さぁ、準備も整ったので始めまーす。ニジマスミニライブ、イン、ペルヘ・シテート! 今年の冬の主役も、ニジマスだぁ!」


 何が起きているのかわかっていない徹に笑顔を向けながら、綾恵梨が宣言し、音楽がかかった。


「慰安旅行を企画したのはCEOですが、ここで歌を披露したいと提案したのは彼女達なんです。」


 隣に座った真奈美が話しかけてきた。


「え?」

「牧村さん、お忙しくてコンサートにお越しになれなかったでしょう? ずっと、彼女達はキチンとしたお礼も伝えられずにいたことを気にしていたんです。今回の旅行が決まってから、梨奈さんや修一さんにお願いして、内緒で計画を立てたんですよ。」


 徹が振り返ると、後ろの座席で梨奈と修一が満面の笑顔でブイサインしてきた。どうやら、このささやかな秘密を知らなかったのは自分だけらしい。徹はやれやれと頭をかいた。聞けば、徹の目を盗んではこのセッティングを調整し、必要な機材や衣装を用意したのだという。梨奈達の企みに全く気が付かなかったのだからたいしたものだ。思い返せばこの数週間、梨奈がシアタールームにこもることが多かったのを思い出した。きっとその時に連絡を取り合っていたのだろう。


 今夜のセットリストは、徹の好きな楽曲ばかりだ。それについても思い当たることがあった。キッチンの片付けを手伝っていた時に、梨奈からどんな曲が好きか聞かれたことがあった。考えてみたら、それもリサーチになっていたのだろう。


 楽曲を披露する彼女達は本当に可憐で、素敵で、あどけない表情のメンバー達が、歌っている時は凛々しいプロの顔つきで、そんな姿を守れたことに徹の胸は熱くなった。彼女達の渾身の楽曲は深夜近くまで続き、大いに盛り上がりを見せた。ご家族も、普段はあまり見ることができない我が子の晴れのステージに満足しているようだった。



 翌日、楽しい時間はあっという間の出来事となり、りん達は東京へ戻る時間になった。


「みなさん、この度は楽しい時間をありがとうございました。お身体には十分に気を付けて、これからもますます頑張ってくださいね。」

『はーい。』


 徹は沢渡に握手を求め、この企画の礼を伝えた。


「沢渡さん、いろいろとお気遣いをいただき、心から感謝申し上げます。」

「いえ、どうかお気になさらず。今度はぜひコンサートにもお越しください。」

「はい。ありがとうございます。」


 マイクロバスに乗り込み、メンバーの家族達が座席に着いていった。バスの中からみんなが笑顔で手を振っている。


 りん達は、バスの入り口に並び、家族を車内に案内し終わると次々に乗車をしていった。しかし、りんはバスに乗ろうと足をかけたが立ち止まった。そして、振り返って走り出すと、そのまま徹の胸に飛び込んできた。


「り、りんちゃん?」

「オーナーさん。あの時、命を懸けて守ってくださってありがとうございました。」


 そう言うと、顔を上げて徹をのぞき込み、笑顔を見せた。


「ちゃんと、お礼が言えてなかったから。」

「いいえ。あなたを守れてよかった。心からそう思います。」

「また、会いに来てもいいですか?」

「ええ、いつでもお待ちしてますよ。」


 その言葉に、りんは嬉しそうに微笑んだ。そして、バスに向かって走り出すと、徹達に深々とお辞儀をして中に入っていった。バスが動き出すと、りん達は一番後ろの座席から、お互いの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


「行っちゃいましたね。」

「ああ。君達のおかげで夢のような時間だったよ。たくさんの娘達に囲まれたみたいだ。」


 梨奈に向け、苦笑いをして見せた。


「まぁ。あの調子だとまた会えますよ。今は歳の差なんて関係ない時代ですし。」

「そうっすね。最後のりんちゃんの笑顔、ありゃ間違いない。」

「何の話だ?」

「恋に歳の差は関係ないってことっすよ。」


 そう言う修一の頭を叩くと、


「あほ。だからりんちゃんは、娘、娘みたいなもんだ! バカなこと言ってないで、午後の来客の準備するぞ。ほら、入った入った。」


 そう言って中に入っていく徹の後姿を見ながら、梨奈と修一は笑いながら後に続いた。ペルヘ・シテートのダイニングには、昨日みんなで撮った写真が飾られた。徹はりんと二人で撮った写真を額に入れると、妻と娘の写真の隣に飾った。


 ベランダに出て電子タバコに火を点けると、徹は深く吸い込んで気持ちをリセットし、次の来客に備えた。きっと、気仙沼で受けた心の傷が癒えることはない。それは一生ないことだろう。しかし、りん達のおかげでだいぶ心が軽くなったのは事実だった。一気に吐き出した紫煙は風に乗り、白雪山の上空へ舞い上がって、消えていった。


 それは、雪山に日差しが反射し、人々を明るく照らし出してくれた日の出来事だった。


                                            終


最後までお読みいただきありがとうございます!


この物語を執筆するきっかけになったのは、夢で見た出来事。

雪山で遭難して、

一緒にいた女の子を何とか助けようと必死になっている自分の夢でした。


そこから物語を考え、

主人公には大好きなアイドルグループをイメージして

(すみません。ほとんどそのまんまなんですが、架空のグループ&人物です。)、

作者の願望?も取り入れつつ、一つの物語にしてみました。


また、匿名で一方的に誰かを攻撃できる今の世の中の問題にも少しだけ触れました。

「小説家になろう」の中でも、

好き勝手に一方的に作者を攻撃する方がいます。


嘆かわしいことです。

そういった方が一日でも早くいなくなるように祈ります。


さて、書きあがってみると、

おっさんのあり得ない甘い願望ぎっしりの物語になり、

苦笑いが止まりませんが、温かい目で見守りつつ、

お読みいただけたならうれしいです。

(※ この物語は、以前投稿した作品を分割した物です。)


高評価とブックマークも、

どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)読み応えのあるパニックモノでした。そして牧村とりんちゃんとそれぞれのキャラ立ちもしっかりとしていて、本当に映画かテレビドラマかどっちかで観たいなってなるほどの高いエンタメ性を持った作…
[一言] 2時間ドラマでやっても違和感ない感じの内容で面白かったです。
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