13.ブッ飛んだ人選をしたのは父です
皆様にとって、素敵な1年でありますように。
今年もすてらをよろしくお願いします^^
「これが言っていた薬草畑……見事なものですわ。ここで働いている子達が、ラビティオ殿下が貧しい村から集めた子供達と言うわけですね。確かにこれは、人身売買で集めた子供を魔術の実験のために使っていますわね」
「人聞きの悪い言い方はやめてほしいね。少なくとも村に居たときよりはマシな生活をさせているし、働いてくれた分の給金も帳簿につけてある。買ったときと同じ金額になったら、少し手土産を持たせて村に帰すようにしているよ」
「はぁ……警戒して損しましたわ。拍子抜けの人畜無害っぷりですわね」
「褒め言葉として受け取っておくよ。ところでクレア嬢、プリメラにヴィンセント殿下を……」
「譲りません! しつこいですよ、今日だけでもう何回目ですか!?」
「七回目だね。ちなみに通算ちょうど二十回目の打診だ。そろそろ気持ちが変わってくれたりは……」
「しませんっ! 人の婚約を何だと思ってるんですか!?」
王城でのパーティの三日後。クレアは王都の西側に秘密裏に作られた、ラビティオの魔術研究所へ案内されていた。
設備もさることながら、手作りと思われる、見たことも無い道具が部屋のあちこちに置いてある。裏手には薬草の畑が広がっており、子供達がせっせとその世話をしている。
その中には、クレアを攫った『影』と『幻』の魔術適正を持つ子供――クロエとミストもいる。
そんな子供達が、手や頬を泥で汚しながら生き生きと仕事に励んでいる様子に、自然とクレアの頬も緩んだ。ひどい扱いを受けている様子はない。それどころか、ラビティオは子供達に慕われているようだった。
というか、泥団子投げつけられてるし…… 子供達はラビティオのことを『デンカ』と呼んでいるけど、本当に意味を分かっているのだろうか。
「ラビティオ・リンドオール、か……」
正直言って、穏やかな笑顔の下で何を考えているのか分からない。
パーティの夜にクレアを攫ったのも、『アクエリアの差し向けた追っ手を振り切るため』と言っていたが、それを鵜呑みにするつもりもない。
それでもクレアは、ある程度は信頼してもいいのではないかと思い始めていた。王都で会った男の子が本当にプリメラの保護していた子供達の一人なら、その保護はラビティオに任せていいのかもしれないと思うほどには。
「ラビティオ殿下。実はわたし、ウィンディア様とひとつ企んでいることがありまして……」
クレアが計画を話すと、ラビティオは笑って答えた。
「それはいい。是非俺にも手伝わせてもらいたいね」と。
そして一通り研究所を見終わると、クレアは市場で調達したばかりのベイクドチーズケーキの箱を抱えて、内心かなりご機嫌で王城に戻る。
しかし、報告がてらにウィンディアとティータイムをしているところで、コンコンと音が響く。執務室の扉が叩かれたのだ。
「失礼します。クレア殿下、謁見の間にて陛下がお呼びです」
「あら。食べ始めたばかりでしたのに……あと十分だけ待っていただくことはできませんか?」
「それが、至急とのことでして……」
「そう……それでは仕方ありませんわね」
そう言いながらクレアは、「ようやく来たようですわ」と小声でウィンディアに言う。
三年前の不自然な停戦。
まるで弱みを握られ、軍事力では圧倒していたはずの帝国が、当たり障りのない形で条約を結ばされたようにしかクレアには見えなかった。
この国に来た時点で、それを知っている可能性があり、かつクレアの味方をしてくれる可能性のある人物は、プリメラ・リンドオールだけだった。
だからクレアは偽名を使わなかった。
最初は分の悪い賭けだったが、あの部屋を見た瞬間に確信に変わった。
そしてクレアがリンドオールの国内である程度自由に行動できるようになったなら、その情報を何らかの方法でクレアに伝えに来るだろうということも。
だけど、それでも……
クレアは謁見の間の扉を開いて、絶句する。
「久しぶりだね、クレア」
「ヴィンセント様……どうして?」
「婚約者がこちらでお世話になっているからね、一度挨拶に伺わせてもらったんだ」
このブッ飛んだ人選をしやがった奴は誰だ!?
一国の皇子をパシリにして、敵国に正面から堂々と訪問させるなんて、何考えてんのっ!?
「クレア、無事でよかった」
「ヴィンセント様は、少し痩せましたか? どこかお疲れのようですわ」
「ははは……死んだと思っていた婚約者が、隣の国でしっちゃかめっちゃかしているって知ってから、胃薬を手放せなくてね。今も『元気そうで何よりだ』と素直に言えずに困っているよ」
「あら、心配してくれたのですね、嬉しいですわ」
「ああ、心臓がつぶれそうなほどに色々と心配したよ。ところでクレア、君は外交問題と言う言葉を知っているかな?」
「この国で三番目に偉い地位を簒奪しましたの。大抵の方には文句を言わせませんわ。わたし、不敬罪って素晴らしい言葉だと思いますの」
「ホント、いつも以上に元気そうで何よりだよ。クレア……」
それからクレアは国王グレゴリオに、「では積もる話もありますので」と一礼をすると、ヴィンセントの手を取って謁見の間を退室する。
廊下に出て見て驚いたのは、いつの間にか第一騎士団百名がずらりと廊下に並んでいたことだった。
「ヴィンセント様、これは……」
「護衛だよ。俺は小心者なんだ」
「………………」
立派な示威行為だ。たしかにこれではグレゴリオも、丁重な対応をせざるをえない。これは相当、内心ヴィンセントもブチ切れているに違いないとクレアは確信する。
けれど、基本的には温厚なはずのヴィンセントが、それほどまでに怒りを覚えるのを、クレアは理由を聞いて納得する。
「三年前から、母と妹がこの国に囚われている」
「皇后陛下と王女殿下が……ですか?」
「ああ。プリメラがその場所を教えてくれて、クレアが訪問の口実を作ってくれた。この機を逃すわけにはいかないんだ」
そう言ったヴィンセントの目の奥に、確かにクレアは彼の覚悟を見る。
(なんだ……そんな顔もできるんじゃない)
いつも澄ましていたヴィンセントは、誠実で、だけど本当のことを言っていてもどこか作り物のように嘘臭く感じていた。物語に出てくる王子様をメッキのように纏っているような、そんな薄っぺらさを感じていたのだ。
けれど不覚にも、クレアは今、ヴィンセントを初めてかっこいいと感じてしまっていた。
いつも落ち着き払っていた彼にも泥臭い一面があるのを知って、初めて好感が持てたと感じたが、しかしそこでふと思い直す。
(……いや、初めてじゃねぇな。舞踏会館で襲撃を受けたときも、必要も無ぇのにわたしを守ろうとしてくれてたっけか)
あのときはヴィンセントの顔を見ている余裕なんて無かった。もしかして自分のために、今のような顔をしてくれていたのだろうかと思うと、少しだけ嬉しくなる。
どうやら自分は、美形でイケメンの王子様よりも、泥臭さのある熱血人間の方がタイプらしい。まぁ婚約相手も決まっていることだし、今更なことなのだが。
「ふふっ……やっぱりわたしは脳筋のようです」
「どうしたの、いきなり?」
「いえ、何でも無いですわ。さぁ、お城の中を散策して、偶然皇后様達を発見しに行きましょう! いざ外交問題っ!」
「廊下に誰もいないことをいいことに、好き勝手言ってるね……俺は時々、どれが本当の君か分からなくなるよ」
ヴィンセントが溜息を吐くが、それはお互い様だ。
辺りの気配を探りながら、クレアはプリメラからの手紙の封を切る。
「それと、前から思ってたけど、クレアの言う『脳筋』ってたぶん意味違うから」
「えっ……そうなんですの?」
「力押しの単純思考。つまりは馬鹿ってこと。頭の中まで筋肉って意味だよ」
「――んなっ!?」
広い城内を歩き回って二十分。クレア達は手紙に書かれていた、城の端にある部屋の前へと辿り着く。
二人で暮らすにしても十分に広い、綺麗に整った部屋の中にいたのは、ドレスに身を包んだ皇后陛下と王女殿下。二人ともやつれた様子も無く、丁重な扱いを受けていたようだ。
ちなみに家族の感動の再会となるはずの場面で全員が表情を唖然としているのは、鍵のかかっていた扉をクレアが蹴り破ったからである。
「クレア、君ってやっぱり脳筋……」
「えっ……それって褒められてない方のですよね?」
褒め言葉の方の脳筋って何ですか?
そう皇后陛下と王女殿下に首を傾げられ、クレアは咄嗟に目を逸らしたのだった。
お年玉くださいっ!!
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えっ、駄目? 露骨すぎる?
除夜の鐘から半日で既に欲にまみれてる?
人として残念過ぎる? そこまで言わんでも……
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皆様にとって、2021年が素敵なものになりますように。
ほんの僅かではありますが、その一助になれれば幸いです。






