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8.取り戻すべき未来

皆様のおかげで、すてらは今日も頑張ることができています!

ありがとうございます!!




     //////////


 七月十四日、木曜日。

 クレア・アメストリアの死亡が報道されて一週間のこの日、ロシュヴァーン帝国の王都中央広場では、彼女の追悼式典が行われていた。


 贅沢を好まなかったクレアの肖像画は、家族と並んで描かれたものならば幾つもあるものの、個人が描かれたものは一枚も無かった。

 それを知った国中の画家達はこぞって手を上げた。共同制作により僅か五日で彼女の肖像画が描きあげられ、寄贈されたそれが式典の壇の中央に飾られている。


 広場を埋め尽くさんばかりの国民達が詰め寄り、そんな中での開式二分前。

 クレアの婚約者だったヴィンセントは拳を固く握りしめる。式典の挨拶は自分にさせてほしいと、ヴィンセント自らが皇帝に申し出たからだ。

 そんな中……


「ヴィンセント様っ!!」

 兵士の一人が、ヴィンセントの元へと駆けてくる。尋常ではない様子で兵士が手渡したのは、隣国であるリンドオール王国の朝刊だった。


「これは……くくっ……何やってんだあいつは」


 近くで控えていたプリメラやレイロランド、ガイルへと新聞を手渡す。三人はまるで死人にでも会ったように驚き、それから安堵と喜びの表情を各々浮かべた。


 新聞の見出しにはこう書いてあったのだ。

『侍女クレア、王前の決闘で王位継承権を第一王子から勝ち取る』と。


 クレア・アメストリアという同姓同名はいるかもしれない。

 けれど、こんなブッ飛んだことをするのは、あのクレア以外にありえない!


「レイロランド宰相。父上を呼んできてください。ガイル、式典の開始を待たせてくれ。国民達に良い発表ができるかもしれない」

 レイロランドとガイルが駆けだし、新聞を手にその場に残ったプリメラがヴィンセントに聞く。


「ヴィンセント様。クレアさんがリンドオールにいるということは……」

「ああ、襲撃犯を追ったんだろう。おそらく襲撃を指示したのは王家の誰かだ」

「でもクレアさんが、どうして王位継承権を? 何をしようとしているのでしょう?」


 首を傾げるプリメラに、ヴィンセントは言う。


「貴族達のクーデターだ。国王を玉座から引きずり下ろす……いや、もはやあの国には居られなくするつもりだろう。この国(ロシュヴァーン)でクレアが未然に防いだそれを、今度はリンドオールで彼女が起こそうとしているんだよ」



     //////////



 時は遡って真夜中。リンドオール王国にて。


「驚きましたわ……本当に反撃しなかったのですね」


 王城の城壁の外。人目に付かない場所を選び、クレアは抱えていた元第一王子を地面に降ろす。


「まぁ……な。おかげで君に褒めてもらった顔がこのざまだ。腫れが痛くてしょうがない」

「五体満足で目玉も抉られていない。爪を剥がされて骨を折られた程度が何だと言うのです。わたしとしてはこの程度では少々温いと感じてしまうほどです。

 ともかく、今があなたの人生の区切りです。王都の外までは馬車でお送りします。これからはリンドオール王族でもない、ただのブレイズとして生きてください」


 ブレイズが馬車に乗るのを手伝い、松葉杖と数日分の食料、着替え一式、魔石、一振りの剣、小金貨十枚の詰まった麻袋を席に置く。

それでも生きていくために本当に必要なことを彼は、十数年遅れでこれから学んでいかなくてはいけないのだ。


「君に出会えたことに感謝を」

「旅立つあなたに良き人生を」




 そして翌日。


「クレア、本気なの? 兄さんにその……幽閉されていた彼女らを、あなたの侍女にするというのは」

「はい、ウィンディア様。ほとぼりが冷めるまで、わたし付きの侍女にします。すでに十二名とも、それぞれの家からは了承いただいております。わたしもウィンディア殿下の侍女ですので、表向きには殿下の侍女として振る舞わせるつもりです」

「クレアがそう言うのならば構わないわ。忙しくなりそうだったから、ちょうど人手が欲しかったところよ」


「「誠心誠意、働かせていただきます!」」


 元々侍女だった者や貴族令嬢や商人の娘――出自の異なる十二人の女達が、見事に揃った礼をする。

 同じ苦境を経験した仲間として、彼女らにもはや上下関係は無かった。というか、そんな雰囲気は芽が出る前にクレアが潰した。昨夜の二時間に及ぶ『教育』は効果覿面である。


「まずは侍女としての仕事を覚えてもらいます。最優先は挨拶、接待、立ち振る舞い、紅茶の淹れ方です。三日で外面(そとづら)を完璧にしなさい。経験者が二人もいるのだから可能なはずよね?」

「「――イエス・マム!!」」


 侍女の経験がある二人を三日間限定でリーダーに指名し、「どんな理不尽な指示だろうが、上官(リーダー)には絶対服従。それができない奴は要らないわ。服剥いて手足縛って、貧民街(スラム)の真ん中に捨てるから」と残りのメンバーに釘を刺す。

「「………………」」

 何よ、その『この女なら本気でやる……』みたいな目は?

 恩を仇で返そうとする奴を地獄のドン底に叩き落すのなんて、当たり前でしょ? あらかじめ伝えてあげていることの優しさに気付いてほしいものだ。


「クレア、あなた鬼ね……」

「ウィンディア様。わたしは彼女らにチャンスをあげているだけですわ。ところであなたたち……返事は?」

「「――――イエス・マム!!」」


 侍女達が急いで部屋から出て行くと、クレアはウィンディアの机に二人分の紅茶を用意し、ウィンディアの椅子の横に自分の椅子を並べる。

「……クレア?」

「この国を立て直すのでしょう? わたしもお手伝いします。政治と経済については一通り修めているので、力になれますわ」

「そう、心強いわね。始めるわ」


 まず見直すのは税制。とにかく秋の収穫期までに改正を間に合わせなくてはいけない。それと併せて、早急に救済措置が必要だ。

 けれど民草の事ばかりを考えてはいられない。貴族や王族にとって不利益のある法律は、国王の(ぬえ)の一声(断じて鶴ではない)で潰されるからだ。


 クレアが案を話せば、ウィンディアが「ならこれはどう?」と法律としての体裁を整える。ウィンディアがアイデアを考えれば、クレアが「では国王にはこう話しましょう」と悪知恵を働かせる。

 机上での計画はトントン拍子で進んでいき、昼頃までにはおおよその段取りが出来上がっていた。


「収穫量の何割という形ではなく、基準となる金額を算出する形にしたいですわね」

「可能よ。十五年前まではそうしていたから、過去に使っていた数式の資料が残っているわ。倍率だけ適正に弄れば何とかなるはずよ」

「それと、アクエリア様がもっとお金が欲しいと仰っていたので、造幣をしましょう。この国に出回るお金の量を倍にしますわよ」

「……それは危険よ。貨幣の価値が落ちるわ」

「ええ。ですからそれに合わせてお金を配り、王都を始めとしたすべての街の商業ギルドに話を通しましょう。ジルド宰相に相談すれば、渡りをつけてくれるはずです。

 施行日は九月一日。その日に『労働賃金』と『全ての物価』を倍にすると告知を出しておけば、嗅覚のある商人達があとは上手く遣り繰りしますわよ」

「なるほど……あとは、『不作の年にも有無を言わさず納税させるために、土地ごとに納税額を算出する』『貨幣を製造して国庫に加える』『経済を活性化させるために、作った貨幣の一部は国民へ横流しする』、そう言って父に首を縦に振らせればいいのね。それぞれを話すタイミングが重要だけど、いけると思うわ」

「そうですね……ですが、民草が健康で文化的な最低限度の生活を送れるようになってこその国家ですから。

 当面の救済措置は任せてください。困窮者に配るお金には当てがありますので」


 クレアがしれっと言った言葉を、ウィンディアは聞き逃さない。


「……クレア。それは不正なお金ではないわよね?」

 ウィンディアの『足は付かないのよね?』という問いに、


「ふふっ。では、善意の寄付ということで用意しましょう」

 クレアは『あいつらが表沙汰にできるわけがない』と答える。


 ひとしきり笑い合ったのち、クレア達は席を立った。

 そろそろお昼時。市場の活気が気に入った王女殿下のために、クレアは馬車の手配をするのだった。






ちょと色々詰め合わせた回でした。

サブタイトルは、4つ分の『取り戻すべき未来』です。


・ロシュヴァーン帝国の皆にとっての、クレアのいる日常

・ブレイズ元王子にとっての、新たな人生

・幽閉されていた女性達の、これからの生活

そして、

・リンドオール王国のこれからについて

です。




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女子高生異世界コメディ書いています。
異世界転生した瞬間、目の前に魔王がいるんですけど、それってちょっとヒドくないですか?

コメディ多め、ちょびっとシリアス。勇者な少女の武勇伝です。
良かったらこちらもお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 軍隊式メイド教育法? 1年もクレアのメイドしてれば暗殺者くらい平気で殺せるメイドになるんじゃ ?
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