6.ささやかな願いのために
メリークリスマス!! 何度でも言いたいだけです!!
「な……何たることかっ!!」
第一王子ブレイズとクレアの決闘が終わる。
クレアの勝利に、会場全体の声を代弁したのは、特等席でその様子を見ていた国王――グレゴリオ・リンドオールだった。
(こいつが、国王……)
宰相ジルドに舞踏会への襲撃を命じた張本人が、顔を真っ赤にして怒りをあらわにしている。けれど相手を腹立たしく感じているのはこちらも同じだ。クレアはつい睨みそうになる自分を諌めて、笑顔の仮面を貼り付ける。
「ご挨拶が遅くなりました、陛下。クレアと申します。御子息の戦いぶり、お見事でした」
それはクレアの心からの本音だ。
クレアが勝利したものの、ブレイズの実力もまた確かなものだった。魔術の才に恵まれなかったクレアとしては、クズな性格を調教して手駒にしたいぐらいだ。
「白々しい!! 下賤の者が気安く我等王族に話しかけるでない!!」
「失礼いたしました。では後程、改めてご挨拶に伺います」
「どういうことだ……おい貴様!! 持ちものをひとつ貰うと言っていたな。何を要求するつもりだ!?」
国王の目の前で、多くの貴族の目の前で、愛らしくくるりとスカートを翻しながら、クレアは答える。
「王位継承権第一位の座をいただくつもりです、陛下」
「「なっ……」」
会場中が騒然となる。
前代未聞だ、王家への侮辱だと、非難の声が飛び交う中、「決闘前に止めないからこうなるのよ。ね?」とクレアはブレイズへ笑みを向ける。
「こんな決闘は無効だ!!」
「既に終わった決闘ですわ。ジルド様も、多くの貴族の方々も、何より陛下を含めた王族の方々までもがいる中で、誰一人として制止することの無い中で開始され、これほど多くの方々が見守る中で公平に行われた決闘です。たとえ陛下でも無かったことにはできませんわよね? それは横暴と言うものです。
それか……そうですね。継承権の返還をかけて、今度は陛下がわたしと決闘されますか? わたしが勝ったら玉座をいただきますわ」
「たわけたことを!!」
「ですよね。そのように、決闘前にお断りになる必要があったのですわ。ご理解いただけたようで何よりです」
クレアはブレイズの首に剣を添え、王位継承権第一位の座を譲渡することを念書に書かせる。それを粗雑に折り畳んでポケットにしまうと、代わりに金属製の腕輪を取り出して言った。
「これで、解放されましたわね」と。
「えっ……」
目を丸くするブレイズに、クレアは腕輪を嵌める。
「これは魔術封じの腕輪です。誰かに敵意を向けられない限り、人を攻撃できないよう術を組んでもらいました。
これであなたは、権力でも魔力でも、誰かを脅すことはできません。これからあなたは、権力でも魔力でも、誰かに怯えられたり媚を売られたりすることもありません。あなたは今、ただの一人の男になったのです」
「クレア、お前……」
「わたしは婚約者のいる身なので、あなたの妻になることはできません。ですがお気持ちはとても嬉しかったのです。路傍の石で自分をごまかすのではなく、これからは本当の幸せを見つけてください」
「そういうことか……感謝する。ありがとう、クレア」
クレアに対してブレイズが微笑み返したことに、貴族達のいくらかは驚いているようだった。王妃などは、「あの子はそんな悩みを抱えていたのですね……」なんて涙ぐんでいる。王妃様はまともな感性を持っているようで、クレアは少し安心した。まぁその反面、だったら馬鹿息子の暴走をもっと早くに止めてくれとも思ったりしたのだが。
ところで「聖女だ」「天使だ」なんて声が聞こえてくるのは何でだろう? 貴族に対しても横暴だったブレイズを改心させたとでも思われてるのかな? こんなの誘導尋問や洗脳の類でしかないのに。
「あ、そうだ……忘れてましたわ」
「えっ、何を……げふっ!!」
「「えっ……」」
聖女ことクレアは、ブレイズの腹を殴って悶絶させると、そのまま軽々と大の男を肩に担いで歩き出す。
「謝罪タイムよ。地下牢に案内しなさい、落とし前はきっちりつけてもらうわ。ちょっとでも反撃したら殺しますから」
「「………………」」
『クレア聖女説』『クレア天使の如き慈愛説』は、僅か数分で瓦解したのだった。
そして……
「あんたたちが生きてるんだから、殺すのは禁止ね。命を奪わなければ、他は何をやってもいいから」
地下牢から解放した女は全部で十二人。服と食料と道具を与えると、死んだような目をしていた女達の瞳に生気が戻る。やはり怒りの感情とは強大だ。
人が嬲られるのを眺める趣味は無いので、クレアは「六時間後にまた来るわ」と防音扉に鍵を掛ける。
クレアにはまだ、大切な用事が残っているからだ。
「ウィンディア様、ただいま戻りました。ご報告差し上げたい件がございます」
第二王女の執務室へ出勤したクレアは、ウィンディアへと頭を下げる。
「それはクレア、あなたが『断罪者』だの『神罰の代行者』だのと噂され始めたことに関係があるのかしら?」
「もうですか……噂の出回るのは早いですね。全く無関係と言うわけではないのですが……」
書類から顔を上げたウィンディアに、クレアは右手を差し出す。
訝し気に首を傾げる彼女に、クレアは笑って言った。
「第一王子から王位継承権を貰ってきました。これでわたし達、お友達になれますよね?」
「えっ、そのために?」
「ええ。わたしとお友達になってはいただけないでしょうか、殿下」
「えっと、その……よろしく」
ウィンディアが恐る恐る、クレアの手に触れる。
クレアがその指を握り返すと、嬉しそうにウィンディアは笑ったのだった。
下種王子のために3話もつかってしましました。
論破→武力制圧→社会的に潰す の3段論法です。
ウィンディア「ところでクレア。あなたの性格が気の良いヤンキー(笑)みたいで好感が持てると、感想をいただいたそうよ。よかったわね」
ク レ ア 「そ、そうなのですね……応援ありがとうございますっ!」
(よっしゃぁぁぁぁ! 何それ超嬉しいんだけどっ!! マジでありがとうございますっ!!)
ウィンディア「あともうひとつ……フライパンと待針にやられたブレイズ兄さんが立ち直れるのか心配だって」
ク レ ア 「いいえウィンディア様。人は過剰に自分を大きく見せる必要はないと思いますよ。だって疲れてしまうではないですか。あの下種は身の程を知って、地べたを這いずって生きればいいのですわ」
ウィンディア「………………」
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