1.マッチ1本分のお返しを
皆様お久しぶりです。お待たせしてしまいすみませんでした。
悪「役」令嬢2章、開幕です!!
「はぁ……」
七月の蒸し暑い夜。
リンドオール王国の第二王子、ラビティオ・リンドオールは紅茶を傾けながら深い溜息を吐く。
リンドオール王国の学問では、魔術には十六の属性がある。
四大魔術と呼ばれる、『火』『水』『風』『土』。
劣化魔術、混濁魔術などと呼ばれる、『雷』『氷』『木』『鋼』。
発現が少数で、希少魔術と呼ばれる、『光』『闇』『現』『虚』。
そして更に珍しく、異端魔術と呼ばれる、『朽』『萌』『影』『幻』。
『火』『水』『風』『土』の四大魔術は、適した魔力を発現する者も多く、それ故に魔術師達によって最も研鑽を重ねられてきた。
それ故に最強の魔術として扱われ、現にその活躍は他の魔術とは一線を画している。
魔術の才能は受け継がれる傾向にあるため、王族や貴族達がこぞって四大属性の魔力を求めて婚姻を組んできたことにも、そのことは大きく関係しているだろう。
またその他に、研鑽がほとんどされていない属性が四つある。
魔法と呼ばれる『音』と『刻』。
呪詛と呼ばれる『鎖』と『断』。
それらの適性を持った子供は凶兆の前触れとして、かつては生まれてすぐに殺された。現在もその制度は法律に明記されているが、ここ三十年、その四つの属性を持った子供の出生は確認されていない。
一言で言えば、絶滅したのだ。
それを嘆くべきか、これ以上死者が出ないと安堵すべきか……
「どちらにせよ悪習だな……魔術が何だって言うんだ」
ラビティオは虚空に呟く。それは魔術至上主義のリンドオール王国において、現在の体制を否定する言葉だ。誰かに聞かれようものなら、王子といえど立場が悪くなるような発言だった。
「君は元気にしているかい、プリメラ……」
ラビティオは、机の引き出しから取り出した末の妹の写真を眺めて言う。
三年前まで敵国だった地へ、たった一人で赴かされた少女。
僅か十五歳の末の妹を思い、ラビティオは悔しさに拳を机へと振り下ろした。
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「はぁ……時化てますわね」
「貴様、何者だ……」
『ダルク』と偽名を名乗ったリンドオール王国の宰相は、地面に伏せながら黒ローブ姿のクレアを見上げて言う。周囲には五十人ほどの兵士が倒れていた。
「あら、答える義理がありまして?」と、腹に一撃、クレアはジルド・グスタークに蹴りを入れて黙らせた。
破落戸達に人数分の剣とローブを渡したのはこのケチ臭い宰相様だろう。一人頭金貨十枚という、命を懸けるには安すぎる報酬さえ渡す気は無かったようで、奪い取った革袋の中には約束の報酬の四分の一さえ入っていない。袋の上の方には金貨が見えているものの、その下には最も価値の低い不銹貨が詰められていたのだ。
「女っ、何をした!? こんな魔術は知らんぞ!!」
「あら。魔術の王国と言われたリンドオールも、大したことありませんのね」
「一度に五十人の兵士を昏倒させるなど……まさか貴様、呪詛使いか!?」
「うふふ……ハズレですわ。あなた方が劣っていると決めつけて侮っていた、『木』の魔術ですわよ?」
「何だと!? そんなものに、四大魔術をすべてを極めた私が……ぐふっ!」
「話の長い男は嫌われますわよ? 夜なのですから、静かにするのがマナーですわ」
クレアは再び足蹴にした宰相を、破ったローブの布で縛り、身動きをとれなくする。いまだ目覚めない兵士達をクレアは軽々担ぎ上げ、次々と小屋の中へと積んでいく。
最後に宰相を小屋に運ぶと、小屋の中に油を撒く。そこでようやく何をするつもりなのか気付いた宰相は、一気に顔を青ざめさせた。
「ダンスホールに火を放ったのは、あなたたちですわよね? 襲撃の証拠を消すために動くのは、あなた達しかおりませんもの。ですからマッチ一本分、ささやかですがお返しさせていただきますわ」
「ま、待て! やめろっ!!」
「あら、どうして?」
纏ったローブを床に捨てる。
にっこりとクレアが微笑んでみれば、宰相ジルドは更に顔をひきつらせた。
「わたしを殺そうとした人を、どうしてわたしが殺してはいけないのですか?」
「貴様……クレア・アメストリアっ!!」
叫ぶと同時、ジルドが右手に魔術を構えるが、
「あっ、動かないでくださいね? うっかりマッチ落としちゃうじゃないですか」
そう言いながらクレアがマッチを擦ると、ジルドは再び言葉を失う。
「とりあえず……そうですね。五十人ほどいる兵士達全員の名前を、こちらの紙にフルネームで書いていただけますか?」
「は? どうしてそんなことを」
「宰相閣下ともあろう方が鈍いですね。そうしないと、皆さんを殺すしかなくなってしまうからですわ。あなたは襲撃を指示した人。そちらの五十人はあなたの指示があれば人を殺す人。放っておけるわけないじゃない?」
「ぐっ……ぐぬぬ……」
名前が書くのが嫌と言うよりは、身分が下の少女に良いようにされていることが気に入らないのだろうと、クレアは当たりをつける。
プライドが高い男って生きづらそうだなぁ……なんてことを思いながら、ジルドの腕の拘束を解くと、マッチの火を消し、代わりに短刀をジルドの首筋に触れさせた。何だかんだで、この宰相に魔術を使わせるのが拙いことを、クレアは理解していたからだ。
全員の名前を書いた紙を受け取ると、ジルドに兵士達全員を起こさせる。
ちょうど五十人分の名前を読み上げ、それから綺麗に笑みを作り、クレアは言った。
「わたしに逆らったら、皆様の家族と恋人を皆殺しにします」
クレアは笑顔のまま、「はぁ!? 何だテメ……がっ!!」突然立ち上がった兵士の顔を蹴り、「ふざけげふっ!!」口を開いた兵士の腹に拳を叩き込み、「そんなばっ!!」反抗的な目をした兵士を転ばせて踏んづける。
倒れた兵士の腰から剣を抜き取ると、クレアに逆らう者はもうそこにはいなかった。
「この三人の名前を教えてくださるかしら?」
「「………………」」
「では五十人全員が反逆者と言うことでよろしいですか?」
「「リーヴェとディッヒとイッヒです!!」」
簡単に仲間を売ったこいつらを腹立たしく思うが、それはそれ。必死に頭を下げる三人に「次は無ぇからな?」と言えば、三人は更に怯えた顔で頷いた。
馬鹿な奴らだ。全員でクレアの隙を作ったところにジルドが魔術を放つか、ジルドが兵士達のために隙を作りさえすれば、クレアに勝ち目はなかったというのに。
「さぁ行くわよ。王都まで案内してくださいな、わたしの騎士様達!」
兵士達の乗ってきた馬のうち一頭にクレアは跨る。
ぴらりと名前のメモを見せながら、「付いてこれない人はわたしの味方失格ですわよ?」とクレアが言うと、ジルド達は大慌てでクレアの馬を追いかけた。
リンドオール王国編です。
クレアさん、隣の国なんですから、もうちょっと大人しくしましょうね?
クレア「ええ。最大限努力させていただきますわ」
(要はバレるなてことだろ? 面倒臭ぇ……いや、誰にも文句言わせなきゃいいんだったら、いくらでもやりようが……よしっ!)
そんな感じで、大人しくとはいかないのがクレアです。
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