14.プリメラ・リンドオール(表)
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プリメラ・リンドオール。
隣国であるリンドオール王国の第三王女であり、セントアンジュマリア学園に留学してきた二階生。
ロシュヴァーン帝国の皇太子ヴィンセントとの恋仲が噂されるも、婚約破棄騒動で皇太子共々、プリメラは帝国内での立場を失っていった。
クレアは今、ヴィンセントのエスコートで舞踏会館のダンスホールへと入った。クレアとヴィンセントの婚約が継続していることと、何より二人の仲が良いと社交界にアピールして貴族達を牽制するためである。
しかしそうなると、非難の目はプリメラ一人に向いてしまう。
だからクレアは、この夜会で何としてもプリメラとも仲が良いと貴族達に印象付け……
「ク・レ・ア・さーーーーーーんっ!」
「――ぎゃふんっ!!」
帝国の誇る第一騎士団が誰一人傷つけることのできなかったクレアが、一人の少女の飛びつきで吹っ飛んでいく。
ふんわりとしたブロンドヘアを風に靡かせ、翡翠色の瞳を輝かせて、クレアの腰に猛ダッシュしたのち抱きついてそのまま二人分の身体を滞空させ、2メートル先にタッチダウンを決めた小柄な少女の名は、プリメラ・リンドオール。
ちょっと抜けてるけどおしとやかで優しいと噂されていたはずの、隣国の王女殿下である。
「クレアさん、お久しぶりです♪ お元気でしたか?」
(こいつ……殺す!!!!!!)
「まぁ、いきなり飛びついてくるなんて、驚いてしまいましたわ。プリメラ様、お怪我はありませんか?」
「はい、大丈夫です! クレアさんがしっかり抱き留めてくれましたので」
(チッ……ってか抱きとめてねぇよ! ガチで反応できなかったし、あんたが刺客だったらわたし死んでたよ畜生っ!!)
「クレア、大丈夫かい?」
そう言って駆け寄ってきたのは、アメストリア家の長兄アベル、次兄カイン、そしてアベルの嫁のヘレンだった。クレアが「大丈夫です」と頷くと、カインが「うちの令嬢は頑丈だからな!」と自慢げに笑った。クレアは心の中でツッコむ、令嬢に対して『頑丈』は褒め言葉じゃねぇからな?と。
「それにしても、こんなところで同志に出会えるとは……」
(いや、アベル兄さん。わたしに抱きついたからって、簡単に同志認定しないで! 相手は一応、隣国王位継承権第五位の王女殿下だから!!)
「素晴らしいタックルだった……嫁に欲しい」
(カイン兄さん、理想の女性の判断基準ってそこでいいの!? ってか、だから相手は王女殿下なんだって!!)
「まぁ、義妹が増えて更に楽しくなりそうですね」
(ヘレンさん、既に義妹になった前提で話を進めないで!! ってか死ぬから! これ以上タックルしてくる人が増えたらわたし死んじゃうから!!)
どうやらプリメラはクレアの家族に一瞬で気に入られたようだった。
馬車に撥ねられたような気持ちでいたクレアは「うぅ……解せぬ」と呟く。
「クレアさんのご家族の方ですか? わたしはクレアさんの学友のプリメラと申します」
わたしに抱きついたまま、プリメラは顔を上げて微笑む。「いい加減離れなさい……」「あとちょっとだけ……」と、プリメラはクレアの腰に回した手を放そうとしない。
「クレア、いいお友達だね」
「良いお嬢さんじゃないか」
「まぁ、素敵な義妹ですわ」
おい、兄姉一同。挨拶するときに立ち上がりもしない女に対する評価がそれでいいのか!?
クレアは王女殿下の脇腹をつつくと、プリメラが「ひゃうっ!」と驚いている隙にクレアは跳ね起きる。
プリメラは「えへへ……」と小さく笑うと、立ち上がってドレスの裾を上品に直した。
クレアは舌打ちする。このスイッチの切り替わり方は、クレアの家族にそっくりだったからだ。クソっ!
「クレア……これ、プリメラへのフォロー要るか?(小声)」
「いらない。というか必要ない。狙ってやったのだったらとんでもない策士だし、何も考えずにやったのならとんでもないド天然だわ(小声)」
ヴィンセントと溜息が重なる。
『心配して損した』と、互いが互いの心の声を聞いた瞬間だった。
「ヴィンセント様とも仲直りをされたのですね。一時はどうなることかと思ってしまいました」
「ええ、プリメラ様のお蔭ですわ。そのことについてだけは感謝しています」
「いえいえ。やっぱりみんな仲良しがいいですものね」
(だぁぁぁクソっ、嫌味が全く通じない!! この女、本気でやりづれぇ!!)
「済みません、クレア嬢! 俺がちょっと目を離した隙に……」
「あら、ガイル様。ごきげんよう」
ヴィンセントの親友のガイルが、ばつの悪そうに謝ってくる。プリメラのエスコート役だからと言って、別にガイルが悪いわけではないのに……
「……早速、ご苦労なさっているみたいですわね。大丈夫ですか?」
「挨拶回りをすると縦横無尽に駆け回って、料理に舌鼓を打てば大声で喜んで……正直言って疲れました。俺の役目は終わったみたいですし、帰ってもよろしいですか、割と本気で」
溜息を吐くガイルが、愚王の機嫌取りで辟易する宰相閣下の面影と重なって見えた。苦労人の家系なんだろうか。
「まったく、親子揃って苦労人のようだね。そういう家系なのかい?」
クレアが振り返ると、そこには学園の生徒会長であるフォルクスが立っていた。
というか誰でも思うよね……そっくりだもん、この親子。
「フォルクス会長……ごきげんよう」
「ああ、ごきげんよう。どうやらこの国の危機は脱したようで何よりだよ。てっきりクレア嬢は皇族連中なんか見限るつもりだと思っていたから、少し意外だったよ」
「ギリギリ救いようがありましたので。ヴィンセント様と宰相閣下のおかげですわ。その質問をされるということは……フォルクス様はどこまでご存じですの?」
「あ、ううん、全然。カマかけるだけならタダでしょ?」
「………………」
食えない奴がここにもいたか……
まぁでも、これだけの人数が集まっているのはいい機会だ。
クレアは皆を部屋の外へ連れ出すと、「兄様達は気付いていらっしゃるかもしれませんが」と前置いて、伝える。
根拠があるわけでもない。ただ感じた雰囲気と勘でしかない。
それでも最悪を想定して、その上で予想外の事にも対処できる余裕が必要だった。
「パーティの後半で襲撃を受ける可能性があります。その際、皆様には御身に危険のない範囲で、避難の誘導をお願いしたいのです」
本当に、常識は無い癖に他人の感情には敏感と言うか……
ヴィンセントやフォルクス達が驚いている隣で、ただ一人真剣な顔をしたのは、まさかのプリメラ・リンドオールだった。
【作者からのお願い】
皆様、ここまでお読みいただきありがとうございます。あと2話で第1章完結となります。
ついでに書き溜めたストックが尽きるので、不定期更新に移行します。
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今後も『悪「役」令嬢なんて生ぬるい! ~婚約破棄を宣言された辺境伯令嬢は、ナメた婚約者に落とし前を付けにいくことにしました~』をよろしくお願いします。






