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朝議

同年2月、董卓が太師たいしに就任した。

皇帝代理ともいえる太師となると司徒、司空、大尉の三公さんこうはもちろん、諸王、諸侯より上位の権限を持つ。董卓の権力は空前絶後のものとなったと言えよう。


俺は太師就任のお祝いに南宮に向かった。

文武百官が祝辞を述べる中、幼い皇帝に大げさに感謝の念を述べると董卓は得意満面の表情で、このように切り出した。

「諸君。さっそくだが、わしは政治、軍事の最高責任者として、また帝の安全を守る為にも長安への遷都を提案したい。

去年賊軍を粉砕したとはいえ、孫堅は離散した兵を集め、再度、荊州にて出陣しようとしておる。そして冀州の袁紹、南陽の袁術、曹操、劉表など洛陽は四方を敵に囲まれ守り難し。長安であれば四方は山に囲まれ守り易く、隣接する西涼にはワシの精鋭4万が控えて居る。防衛するに万全の地勢である。誰ぞ反対の意見はあるか?」


董卓派の面々が「異議なし!」「まさに名案!!」などと賛同の意を過剰に表明する中、数百年続く都を移転するという案には文武百官の動揺の色は隠せなかった。

董卓は目ざとく反対派を見つけると

張温ちょうおんどの、そちはどう思う?」と反対派の領袖に水を向けた。

霊帝の下で司空を務めた張温は元々は董卓の上官筋に当たり、黄巾族の乱鎮圧の命を受け、車騎しゃき将軍として董卓を顎で使っていた時期もあったのだ。

張温はかすかに震える声で言った。「・・董太師。250年続く都を、軽々と移し替えることは得策とは思えません。どうか今一度お考え直し頂きたく・・」

「“軽々に”とはなんという言い草だ!」董卓は掌で机を大きく叩きながら叫んだ。

「わしは軽々しく遷都などという大事を語っているのではない、戦略として必要だと申しているのだ!」

「失礼ながら、閣下。」皇甫嵩将軍も沈黙を破り声を発した。

「洛陽が防衛にかなわぬということはありますまい。虎牢関に三千の精鋭もあれば、何人たりとも通ることはできませぬ。命あらばそれがしが自ら、喜んで防衛の任に当たります。」

漢軍第一とも言われる皇甫嵩将軍である。しかしだからこそ董卓がこの名将に用兵の権を与えることはあり得ない、それを分かった上で皇甫嵩は董卓の長安遷都をけん制しているのである。

董卓の顔色は怒りで真っ赤になっていた。

すると軍師で博士でもある李儒が絶妙のタイミングで口を開いた。

「お待ちください。実はそれがし天文を観ますと、今年は丁度、太歳たいさいの軌道が鶉首じゅんかにかかっております。これはまさに天が遷都を望んでいる事を意味しておりまする」

天文の事を持ち出されると、武官は何の反論も出来なくなる。皇甫嵩将軍も黙ってしまった。

董太師はここぞとばかり「何!?李儒よ、まことか!!これはまさに天命である。この遷都に反対するものは天に歯向かう賊であるがゆえ、わしが成敗してくれようぞ!」と言い、スラリと長剣を抜いた。

もはや反対意見は出ることも無く、朝議は終了したのだった。


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