Blank from
誰にも望まれず、
誰にも願われず、
神さえも想うことなく、……
少女は、生まれてきてしまったーーーーーー
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時は中世、所は天森国でのこと。
国は皇帝である柳橋家が治める帝国であった。
政治も経済も安定、気候も穏やかで、比較的皆が幸福に暮らしている国、世界ではそう思われていた。
あの子が産まれるまでは……
皆が祝福の時を待つ中、黒雲が近づき、雷鳴が轟き始めていた。
こんな嵐の夜は、今まで誰もが経験したことのない、何か超自然的なものを感じさせるものである。
神への祈りを捧げ、鎮めようとするも、嵐は刻一刻と強まっていくばかり。
両親も、皇族もみな、何か不吉なものを感じ始めていた。
そして、赤子が今まさに母の腹から出んとするとき……
その赤子目掛けて、天井をも突き抜けて、
雷が落ちた。
誰もが、母とその赤子の安否を真っ先に確認しようとした。
だが彼らがそこに見たのは……
母の死、そして死よりもさらにおぞましいものだった。
その赤子は、
生を疑わせる純白の髪、
死を思わせる冷酷な青い瞳
を持っていた。
生まれてきたばかりの赤子なのに、虚無を思わせる、そうとしか言いようがないほどに。
さらに大人たちを驚愕させたもの、それは赤子の首に青白く光る、鎖の刻印。
見るだけで縛られそうになる刻印であった。
天森国はもともと鎖されている国。
それゆえに、迷信というものが深く根付いていた。
そんな国で、まさに破天荒と言える中生まれ、怪物のような姿の赤子が、誰かに受け入れられるはずもない。
それが災いして、少女は、愛してくれるはずの、自分を望んでくれるはずの、両親にも忌み嫌われる存在になってしまった……
悲しむ彼らを気にすることもなく、空は雲ひとつない快晴へと豹変。
空を憎いほどに明るく照らす満月が、満点の星の光をかき消していた……