た~な~ば~た~♪
ブックマークや感想をありがとうございます。
今回は、七夕な番外編が書きたくて……。
それでは、どうぞ!
「七夕っ!」
七月七日。それは、七夕の日。乙女ゲームであるこの世界にも、七夕はあるだろうと考えていたのだが……。
「たなばた、ですか?」
メリーの一言により、現実は無情なのだと知る。
「みゅうぅぅう……」
何も、私だって、七夕が大好きというわけではない。ただ……ちょっとだけ、イルト様との楽しい一時を過ごせないかなぁと思っていただけで、けっして、ワクワクしていたわけではない。
「お嬢様??」
「七夕…………」
ちょっとだけ……本当に、ちょみっとだけ落ち込んでいた私は気づかなかった。メリーが、私の要望を理解できないことにショックを受けていたことを。それによって、巻き起こる騒動の数々を。
「みゅ? メリー?」
いつの間にか、メリーの姿はそこになく、私は一人、部屋の中にポツンと取り残された形となる。
「寝ようっ」
何となく、寝て忘れてしまおうという思考に至った私は、そのまま、全てが終わるまで、何も気づかなかったのだった。
「セイ様、コウ様、ローラン様……お嬢様の言う、『たなばた』について、何か、ご存知じゃありませんか?」
私、メリーは、お嬢様の言う『たなばた』が何か理解できなかったがために、お三方を呼び出して尋も……少しだけ、質問させていただいておりました。
「たなばた? 何それ?」
「食べ物?」
「ユミリア様に聞いたら早いんじゃねぇのか??」
「それができたら、苦労はしていませんっ! お嬢様は、私が『たなばた』を知らないと分かるや、とても落ち込まれてしまって……ですから、何としても、お嬢様が求める『たなばた』を実現させなければならないのです!!」
私が力説すれば、セイ様達は、すぐに、理解を示してくれます。
「ユミリアが落ち込んで……? よしっ、僕、ちょっとそれらしい素材を探してみるよっ!」
「ぼくっ、それっぽい魔物、捕まえる!!」
「俺は……そうだな、そもそも何かのイベントかもしれねぇから、第二王子を捕まえてくるわ」
「では、私は、他にも心当たりがありそうな方に突撃してきますっ」
そんなこんなで、私は屋敷の者へ声をかけまくり、せめて、お嬢様が喜びそうな品を用意するのはしなければならないと、軽くドラゴンを倒して来て帰ると、そこには、様々な物を持った屋敷の者で溢れていました。
「ダインバターって呼ばれてる、ダイン地方のバターを持って来たよ! 響きが似てるから、これかもしれないと思ってね」
「ぼく、タナーバッタを捕まえてきた! タナー地方特有の、おっきいバッタ!」
「おうっ、俺は、心当たりがあんまし思いつかなかったからよ、王子様とユミリア様に当てたクッキーを作ってきたぜっ」
セイ様が持つのは、リーリス国の中でも端の方に位置するダイン地方の特産品である、濃厚バター。それを、一キロはあるのではないかと思える量で持ってきている。コウ様はコウ様で、タナー地方というわりと危険地帯として知られるその場所に住む、凶悪なバッタを氷の檻に入れている。コウ様のお力だからこそ、何ともないが、普通なら、氷の檻くらい、このバッタは壊して攻撃をしかけてくるだろう。
そして、最後にローラン様は、万が一それらが外れたとしても、確実にお嬢様が喜ぶ手段を提示しています。これならば、お嬢様に喜んでもらえることは間違いないでしょう。
「では、決行は、今夜の晩餐の時に」
一時解散した私達は、ユミリアお嬢様のために、準備を整えていった。
「みゅ……」
「お目覚めですか? ユミリアお嬢様?」
「みゅっ!? ごめんなさいっ。寝ちゃってたっ」
「大丈夫でございますよ。それより、準備をして、早く向かいましょう」
「みゅ?」
朝食を食べて、お昼まで食べた記憶はある。その時点で、七夕のことを思い出して、それが存在しないと分かってふて寝をしたのだ。
「もしかして、もう、夜?」
「はい。皆様、お待ちですよ?」
私は、慌てて着替えて、食卓へと向かう。なぜか、メリーがちょっとお洒落に仕立ててくれたのが気になったものの、待たせているという意識の方が強く、質問することはなかった。そして、運命の時……。
「「「たなばた、おめでとうーっ!!」」」
「…………みゅ???」
食堂へ入った瞬間にかけられた、謎の言葉、そして、なぜか、代わる代わる、おかしな贈り物が渡されていく。
「これは、タンナ石と言うもので、バルタ石と呼ばれることもある石でして」
「ユミリア、何を贈れば良いか分からなかったから、この宝石を」
「ユミリアちゃん、私からは、髪飾りですよ」
もう、何が何やら分からず混乱する私に、セイ達までもが贈り物を渡してくれる。しかも、鋼からは、なぜか、バッタ……。
「みゅ? みゅう??」
「あー、ユミリア様? 俺達、『たなばた』が何か分からなくて、な? 間違ってるかもしれねぇが、ユミリア様に喜んでもらいたかったんだ」
「ユミリアじょう。ぼくからも、プレゼント」
イルト様から、手作りクッキーをもらった時点で、私は、もう、何をどう考えてこうなったのか、という経緯については、考えないことにした。ただ、次からは、ちゃんと、七夕が何かを教えておこうと思い、皆の心遣いに胸が温かくなって、とにかく、『ありがとう、ありがとう』とお礼を言い続ける。
「では、食事にしよう!」
知らないイベントのはずなのに、必死に考えて、企画して……色々、かなり間違ってはいたものの、この日は、私にとって、最も忘れられない七夕となる。
「みんなっ、ありがとうっ!!」
扱いに困る贈り物もいくつかあったものの、今日は、本当に、楽しい一日となるのだった。
ユミリアちゃんが思う七夕とはかなり違いましたが、とりあえず、良い思い出?
それでは、また!