にゃんにゃんにゃん
ブックマークや感想をありがとうございます。
本当は、2月22日に公開しようと思って準備しながら、結局完成せず、今になってもう一度着手したお話です。
それでは、どうぞ!
それは突然だった。イルト様と会うため、お城に向かい、出迎えてくれたイルト様の元へ駆け寄ろうとした時だった。
「みゅー!?」
急に、視界が低くなり、転んだのだと気づく。
「ユミリアじょう!?」
大好きなイルト様の声は、いつになく焦っている様子で、すぐに倒れた私の元までくると、私をそっと抱き上げた。
(みゅ? 抱き上げ、た?)
目の前には、イルト様の心配そうな顔。しかし、その顔はいつもより大きく見える。
「みゅ?」
何でだろうと首をかしげれば、周囲の様子も目に入って、全てのものがいつもより大きいことに気づく。
「みゅっ、みゅーみゅっ!?」
『私、縮んだ!?』と、言いたかったのだが、なぜか、私の口は『みゅーみゅー』としか紡いでくれない。
「ユミリアじょう、だよね?」
「みゅっ!! (そうですっ!!)」
言いたい言葉が、なぜか鳴き声になる。しかも、それはものすごく、馴染みのあるもので、嫌な予感が止まらない。
「ユミリアじょうが、くろねこに……か、かわいい」
ほわぁっと頬を赤く染めるイルト様に、私は聞き捨てならない言葉をそのままスルーしかけて、ハッと気づく。
(くろ、ねこ……黒猫!?)
と、その時、馬車で一緒に来てくれていたメリーがこちらへやってきて、イルト様に発言の許可を求める会話が聞こえてくる。
「お嬢様のこれは、恐らく、獣つきの祝福と呼ばれるものでしょう」
「けものつきの、しゅくふく?」
「みゅ? (祝福?)」
イルト様と、互いに見つめ合う形で、私達は同時に首をかしげる。
「はい。獣つきの中には稀に、本当にその獣の姿になる者が居ます。それはもちろん、一時的なものではありますが、愛情をたっぷり注がれなければ、元に戻れないとか」
「みゅっ!? (戻れない!?)」
「あいじょうなら、ぼく、ユミリアじょうになら、たくさんそそげる。だから、だいじょうぶだよ」
私が『戻れない』という言葉に反応したのに対して、イルト様は、『愛情を注げば戻れる』という内容に反応して、私の頭をそっと撫でてくれる。
(イ、イルト様、優しい……うぅっ、これ以上好きになったら、心臓が持たないよぉ)
「では、イルト殿下。お嬢様をよろしくお願いいたします。私は、旦那様へお伝えして参ります」
「うん、よろしく」
バクバクという心臓を必死になだめようとしていると、いつの間にか、メリーの姿が消えている。
「じゃあ、ユミリアじょう。いっしょに、にわにいこうか」
普段より近くにイルト様が居るという事実に、バクバクと心臓が暴れるのを感じながらも、今の私は従うしかない。
そうして、連れてこられた庭では……。
「ユミリアじょう。かわいい……ぎゅー」
「みにゃにゃにゃにゃっ(ふわわわわっ)」
まだ、お互いに幼いせいで、全身をイルト様に包まれるという経験をしたことのなかった私は、イルト様の温かな体温に、それ以上の熱が顔に集まっている気がするも……恐らく、黒猫なせいで、全く分からない状態だと思われる。
「ちゅっ」
「みにゃあっ!? (ひゃあっ)」
猫の姿だからと、イルト様から贈られた口づけ。ただし、口は不味いと思っているのか、それ以外を……もう、お嫁にいけないというセリフが頭を占めるまで、たくさん、受ける。
「ユミリアじょう。どうしよう。かわいすぎて、ぼく、どうにかなりそう」
どうにかなりそうなのは私の方なのだが、残念なことに、今の私は猫。言葉が通じるはずもなく、耳を甘噛みされ、意識がすぅっと遠退きかける。全身を撫で回され、口づけされ、食まれ、愛を囁かれる。ただの猫なら、微笑ましく見られる……かもしれない光景だが、中身は私だ。まだまだ幼い子供の今、すでに大人の階段を上っているような気分で、しかも、それが全く悪意のない想い人からのものという質の悪さに……私は、とうとう意識を失った。
「っ、はっ!! ……あ、あれ? ここは……家?」
目を覚ますと、そこは、見慣れた部屋だった。
「ユミリアお嬢様? どうなさいましたか?」
「メリー? あれ? 猫、じゃない?」
「猫? 何のことですか?」
近くに待機していたメリーは、訝しげに尋ねてくる。つまりは……。
「夢……」
「さぁ、お嬢様。今日はマナーの授業がありますので、準備を行いましょう」
「あ、うん」
随分と恥ずかしい夢を見てしまったと思っていた私は、メリーに言われて、素直に支度をする。
夢だったのであれば、今日は、イルト様に会える日だということにも思い至ることなく、私は、その日も平穏な一日を過ごす。次に会った時のイルト様が、どこかばつの悪そうな表情だったことにも、私はそのまま、ずっと気づくことはなかったのだった。
いやぁ、本編がシリアスさん無双なので、ちょーっとおふざけと甘さを堪能したかったんです(笑)
それでは、また!