次の日、日曜日のリビング
次の日、日曜日のリビング
如月は、昨日の事件が、あたかも夢の中で起こった出来事のように感じていた。夕方近くになってようやくサッチィンがふらふらしながら、リビングに出てきた。
サッチィン「みんな、ここにいたの?」
如月誠「サッチィン、良かった。目が覚めたんだね。まる一日寝てたから心配したよ」
サッチィンはまだ放心状態ではあったが、意識だけはしっかりしていて、眠っている間に見た夢について語り始めた。
サッチィン「あー、でもなんか夢を見てた。このペンダントが
光り出してだんだん力が出てきたら、まわりにいた
三つの悪の黒い影をこの光で倒したという夢」
神田じじ「夢?……」
如月誠「サッチィンはあまり夢なんか見たことないのにな」
神田じじ「ママさん、心配かけてすまんのう」
サッチィン「なんか、私、またやってしまいましたー?」
神田じじ「覚えておらんのか?」
元気を取り戻したサッチィンは子供たちのところに行って二人を抱きしめた。
サッチィン「みんな、無事?ママは迷惑かけてない。愛ちゃん大丈夫?」
愛ちゃん「愛ちゃんのママだー」
サッチィン「純ちゃん、ママなんか変だった?」
純ちゃん「心配ないよ。ママ」
サッチィン「みんな、だきしめちゃうー」
神田じじ「ほんに、みんないい子だなー」
如月はサッチィンの無事な様子を見てほっとした表情を見せた。
これからどうなるのか、じいちゃんがまだ何者かわからないままだ。
だが、如月の中にはもっと何か特別なことがあるようい感じていた。
如月誠「じいさん、しばらく、みんなのじいちゃんで居ていいぞ」
神田じじ「マーチャン、すまんな」
サッチィンが元気を取り戻したので子供たちも安心してじいちゃんと話しをし始めた。
純ちゃん「じいちゃん、イナバの白兎やアマテラスとアマのイワドの話をしてよ」
神田じじ「よく覚えとったな。よしよし」
愛ちゃん「じじ、愛ちゃんにはこれを教えてー」
愛ちゃんはお手玉を持ってきて神田じいちゃんに見せた。
神田じじ「おー、おて玉じゃな。いいぞ」
サッチィン「マーチャン。心配かけてごめんなさい」
如月誠「サッチィンは悪くないよ。じいさんのいたずらだ」
サッチィン「……。」
如月が神妙にサッチィンに話しかけた。
サッチィンにだけは自分の率直な気持ちを伝えておきたかったからだ。
如月誠「サッチィン、『捜索願』が神田大の名で出てないかと、
警察を訪ねてみたがすぐわからなかった。
もうすこし様子を見るよ。
それに、なんか他人事でない気がしてきたしな」
サッチィン「マーチャンがいいなら、私は大丈夫よ」
如月誠「迷惑かけるな」
三か月後のゴールデンウィーク
神田じじが如月の家に来て三か月が過ぎた。ゴールデンウィークのの時期が間近に迫っていた。
みんなリビング集まり、連休をどのようにして過ごそうか相談した。
如月家では毎年、ゴールデンウィークには出かけていた。この時期にしか旅行や遠出ができないからだ。だから、みんなの希望を入れながら予定を決めるのである。
しかし、今年はちょっと違っていた。神田じじがいるので、連休をどのように過ごしたらいいのか決めにくいのである。
如月誠「連休だ。みんなでどこか行こうか?」
愛ちゃん「パパ、愛ちゃんの行きたいとこね」
如月誠「ネズミーランドは今年も人がたくさん出るぞ」
純ちゃん「学校で、社会見学の作文書くんだよ」
如月誠「そうか、どこがいいかなー」
神田じじ「マーチャンや、家族サービスか」
如月誠「今年はじいさんの行きたいとこも行くぞ」
如月はみんなの意見を聞きながら、パソコンで旅行に関する情報を調べていた。
神田じじ「いや、若いのに偉いのう。ほんとはもっと違うところも
行きたいだろうに…。ゆっくりしていたら良いのにのー」
如月誠「そうなんだよ。スナックみどりのママにもいわれたんだ。
『マーチャン、ゆっくりしていってねって…』
じいさん、なにいわせんだよ。スナックのママは以前、
困っている所を助けただけの仲だからな。でも着物が似合う
年齢不詳で、流し目が魅力的なんだよね。もういいだろう」
神田じじ「ワーハッハ、すまんすまん。余計なことを聞いてしまったようじゃな」
如月誠「スケベじいさんめ。でも、マジでどこか行きたいとこあるんだろう」
じいちゃんの行きたいところ
如月は神田じじがどうしても行かなければならないところがあるのではないかと感じ取っていた。
そこに行ってなにかやらなければならないことがあるので、如月家にやってきたような気がしていたのだ。
如月はそれを確かめたくて、率直に神田じじに聞いてみることにした。
如月誠「ところでじいさん。連休中行きたいところはないか」
神田じじ「あーすまぬ。わしの希望するところかの。磁場ゼロ地点。国道一二五号線の分抗峠じゃ」
如月誠「ずいぶん特殊なところだな。気の波動エネルギーが強いといわれるあのパワースポットか。『気場』が感じられるといわれてるところだよな」
そのとき隣で子供たちと話しをしていたサッチィンが、口をはさんだ。
サッチィン「えー、あそこは私、ちょっと苦手かも」
神田じじ「ママさんは敏感体質だからのう」
サッチィン「スケベじいちゃん、なんで私の体質のことまでわかるの。もしかしてお風呂ひそかに覗いてるんじゃないでしょうね」
神田じじ「ママさん、天地がひっくり返ってもそれはありませんぞ」
サッチィン「ならいいけどね」
神田じじ「またあのパワーで投げられたら、命がいくつあっても
たりないですじゃ」
如月誠「じいさん、悟りが早いな」
神田じじ「死にたくないからの。
それより、ママさんとはどこで出会ったのじゃ」
ちょっと戸惑って、如月がしんみりとした顔つきになった。
実はサッチィンとのことは、だれもにも話したことがなかった。
しかし如月は神田じいちゃんに心を許したのか、それとも過去の出来事を聞いてもらいたかったのか、長い間話していなかったことについて語り始めた。
如月誠「そうだな、昔話でもするか。
高校生の時、幼なじみをからかう三人組の同級生がいたんだ。
彼女はツインテールが似合う少女だった。小柄のわりに胸がデカくそれでもって、おせっかいヤキだからいじめを受けやすかったんだ。その日もいつも通り彼女をからかっていた三人組を、得意の剣道で懲らしめて追い払った。
しかしその時おれの心の中に隙が生じていた。三人組の後ろにもう一人、飛び切り強いやつが控えていた。
高校の剣道大会でも上位に入るような強豪だった。一瞬でやられたよ」
神田じじ「それから、どうしたんだ」
如月誠「学校では弱虫野郎とかチキンの如月とかいわれた。
悔しくて多摩川の河原で毎日剣道をみがいたよ。
でも一度敗れると、なかなか立ち上がれない。
挫折して沈んでいたら、
『合気道をやっています。お手合わせ願いませんか』
そういってくれた娘がいた」
じいちゃん「今のママさんだな」
如月誠「そんな、こんなで、結局…。昔話はもういいか。とにかく、
明日はバーベキュー道具を準備して、じいちゃんの
行きたいところに行ってみよう」