ランチタイムは大騒動
ランチタイムは大騒動
店員 A「お客様顔色が優れませんが、お体は大丈夫ですか?」
宗谷「いや、ぐわー、なんでもないです」
宗谷は店員に返事をしようとしたがおかしな叫び声を発してしまった。
店員 B「お客様、お会計はこちらです」
宗谷は会計を済ませて、後ろを振り返ることなく店の外に出て行った。
サッチィン「なんかあるのかしら、間黒先生といい、宗谷さんといい…。変ですよね」
神田じじ「ほ、ほ、おもしろくなりましたね」
サッチィン「神田さん。何かマジックでも使いましたの?」
神田じじ「はーい、マジックです」
神田じじはこの場をごまかそうと話をそらした。その時サッチンの持っている水晶ペンダントに異変が起きた。
サッチィン「神田さん、またジョークですか?それより私、さっきから信じられないほどの『何かわからない力』が体中にみなぎってきたんですけど…。
それに、このペンダント、神田さんにいただいた時よりやけに光
ってませんか…」
神田じじ「いやいや、今回もきてますな。あー、どうやら、
外で何か起こっているようですじゃ」
宗谷が立ち去った後、店の外が騒がしくなっている。
店にいるお客さんも異変に気付いたようだ。
その時、店員の持っているケイタイの音が鳴り響いた。
プルルルー
店員 B「店員Cからメールです。この近くでひったくりがあったそうです。お気をつけください」
このお店から少し離れた商店街はパニックになっていた。
ひったくり犯はたまたまこのお店の近くまで逃げてきた。神田じじとサッチィン、子供たちが店から出るところだったが、まさに店の前を駆け抜けようとするところに遭遇してしまった。
ひったくり犯「さすが、世田谷夫人、金がたっぷりの財布だ。
まあ、おめえらが、ぼけーとしているのが悪いんだ。
このやろーざまあみろだ。カッカッカー。走って逃れるぞ」
神田じじ「さあ、外にでましょうかのう」
サッチィン「あっ、神田さん。窓の外に怪しい人影が…、今外に出るとあぶないですよ」
サッチィンの忠告にもかかわらず神田じじは店の外に出てしまった。
ズドーン、と大きな音がした。
ひったくり犯は何かわからない見えないものににぶつかって、サイフを落としてしまった。
神田じじはなんともなかったが、ひったくり犯のほうは大パニックだ。何しろ突然何かにぶつかったような衝撃を受けるし、ひったくったばかりの財布は落としてしまうし、大変なうろたえようである。
ひったくり犯「いて、このやろう、わー、サイフはどこだ…」
神田じじ「……」
サッチィン「神田さん大丈夫ですか。ひっったくり犯?こんなところまで来ていたんですね。とにかく合気道で捕まえちゃいますよ」
サッチィンは慣れた手つきでひったくり犯を投げ飛ばした。
サッチン「ウリャー、トゥー!」
サッチンの切れ味鋭い技の前に、ひったくり犯はなすすべもなく地面にたたきつけられてしまった。
ひったくり犯「なんだ、いきなり、どうなってんだ。もう捕まってる…」
愛ちゃん「あの犯人のおじさん、ママにやられて、明日はないね」
純ちゃん「ママ、以前も強盗を投げて捕まえてたしね」
神田じじ「ほ、ほー。やりますな」
サッチィン「以前より力が入ったみたい。あー、店員さん、警察お願いします」
店員 A「わかりました」
ひったくり犯「このまま、逃げられると思ったのに…。何もない所で転んだ。ちきしょう」
サッチィン「ああ、今の出来事で謎が解けた。神田さんの姿を、見ることが
で きる人とできない人がいますね。それも、悪人には神田さんは見えないようです。これはどういうことでしょうね…」
サッチィンは水晶のペンダントを受け取ってから、かつてない「力」がわいてきたことを不思議に思っていた。
しかし神田じじは本当のことを何も言わない。
サッチィンは神田じじに対して警戒感を持ち始めていた。
そのときけたたましいサイレンの音が聞こえてきた。
パトカーが店の前に来て止まった。道路に倒れて動けなくなっているひったくり犯は、駆け付けた警官によって取り押さえられた。
サッチィンはさらに興奮している。
いまにも暴走しそうな危険な雰囲気だ。
さすがに、神田じじはサッチィンの行動が気になった。
神田じじ「ママさん。冷静に…。あ、警察とマーチャンですじゃ」
如月誠「みんな、大丈夫か。こっちにひったくり犯が来たと言ってたが…。このへんはいつも行ってるレストランがあるから心配して来たんだ。でも、大丈夫みたいだね。いや、サッチィン、大丈夫でなさそうだ…。じいさん、またなんかやったか?雷?宇宙人?怖いぞ!
神田じじ「こういう時はどうするんじゃ」
如月誠「逃げるんだよー」
如月は愛ちゃんをだっこして走る。純くんも走らせた。
神田じじもとにかく走る。
みんな、フルスピードで駐車場まで駆けて行った。
サッチィン「店員さん、お会計ここに置きます…。逃がさないわよ」
店員A 「もう犯人は捕まっています。先ほどはすごいご活躍でしたね。ありがとうございました。お子様は大丈夫ですか。お気をつけてお帰り下さい」
純ちゃん「今日のママはとんでもなく、怖いかも…。ぼくも走るしかない」
愛ちゃん「パパ、車で帰れるよね。愛ちゃんだっこがいい」
如月誠「はい、はい、だっこの愛ちゃんはパパが守るよー」
サッチィン「神田さん、マーチャン!待ちなさーい。どういうことか、後でゆっくり聞かせてー、もらいまー、しょうか…。あー、なんかわからないけど、急に力が出なくなって…」
サッチィンが倒れる
ひったくり騒動に巻き込まれてからそれほど時間は過ぎていない。
如月家のみんなは、事件にこれ以上かかわりたくない一心で、駐車場に向かって一目散に走り続けていた。
駐車場まであと三○○メートルというところまで来て、サッチィンは急に力が出なくなり、歩道に倒れてしまった。
純ちゃん「ママが倒れた。パパ、なんとかしてよ」
如月誠「わかってる。純ちゃん、あの角の駐車場に車があるから、
そこで待ってるんだ」
純ちゃん「うん、わかった。ママを助けて」
愛ちゃん「ママは大丈夫?愛ちゃんも待ってるよ」
如月誠「いいこだ。助けるから、じいさんも手伝ってくれ」
如月はサッチィンが倒れたところに急いで戻った。
如月誠「サッチィン、大丈夫かー」
サッチィンは完全に気を失っているようだ。
如月は神田じじの手を借りて、車のあるところまでサッチィンを連れて行った。
神田じじ「倒れてしまった原因がわかった。パワーを使いすぎたようじゃな」
如月誠「じいさん、どういうことだよ。サッチィンに何があったんだ」
神田じじ「とにかく、車に乗せて帰るしかないの。ママさんは軽い脳震盪を起こしたようじゃなちょっとマジックを使うぞ」
如月誠「こんな時、マジックって、じいさん!手を使わずにサッチィンが
浮いてるんですけど…。やはり、じいさんただ者でないな」
これにはさすがに如月は驚いてしまった。だがすぐに気を取り直し、家族の無事を確認した。
如月誠「みんな車に乗ったようだな。どうなるかと思った。家はすぐだけど、それよりひどい目にあったもんだ。皆ぐったりだな」
如月は即座に車を発進させた。
神田じじ「すまなんだ。迷惑をかけ過ぎだな。だが、もうしばらくわしを置いてほしい」
如月誠「そんなにおれ達のところにいる理由はなんだ。重要なことなのか?」
神田じじ「その通りじゃ。まだ、理由は聞かないでほしい。すまんがのう」
如月は他人事のように思えなくなっていた。ほんの数日前に多摩川の河原で出会ったじいさんが、まるで自分たちの親であるかのように感じられてきたのだった。
如月は西の空の夕日に目を向けた。じいさんに会った時から間もないのに不思議なことばかり起きている。いいろいろ聞きたいことはあったが、如月は一つだけじいさんに質問した。
如月誠「わかった。約束だ。だが、これだけは聞きたい。
じいさん、夢はないのか。」
神田じじ「ある。夢はありすぎで、いつ叶うか、わからんがの」
如月誠「身近な夢でいいんだぜ。じいさん」
神田じじ「それなら、親になりたかった。親子はいいのう。
あの大地震で大変な姿を見て、胸が痛かったのじゃ。
だから、『親子の絆』を取り戻したい」
如月誠「親子の絆を選んだのか」
神田じじ「……。」
その後何事もなく車は家に到着した。
如月誠「家についたぞ。サッチィンをベッドへ連れて行く。
純ちゃんは大丈夫か?みんなを頼む」
純ちゃん「パパ、任せて」
愛ちゃん「パパ、愛ちゃん元気だよ」
如月誠「愛ちゃん。怪我なくてよかったー」
サッチィンはしばらくして、気を取り戻した。
サッチィン「マーチャン、ここはどこ?まだ頭が痛い」
如月誠「気がついたか?今、家に着いた。君のベッドだ。
もう安心だよ」
如月はサッチィンの様子を確認し、まだ顔色が優れないのをみて、しばらく休むよう言った。
サッチィン「ありがとう」