次の日、土曜日の朝
次の日、土曜日の朝
如月は昨日のことが気になって眠れなかった。昨日偶然に神田じじに会って以来、子供たちがすっかりなついてしまっていること、サッチィンも抵抗なく受け入れていることなど考えると、どうしても腑に落ちないのだ。
『あの爺さん果たして信用できるのだろうか。それに、まだ警察にも連絡していない。俺の得意とする剣道なら相手の動きをとらえて攻めることができる、でもあの爺さんはそれこそつかみどころがない。だからどうやって接したらよいのか見当がつかないな』
彼は朝までリビングのソファーにもたれかかりながら、パソコンを開きっぱなしにしていた。
如月はまんじりともせず、ついに夜が明けてしまったのだった。
サッチィンは如月のそばにやってきた。
如月誠「あー、寝不足。パソコンで調べものしていたら朝になった」
サッチィン「マーチャン、おはよう。昨日は大変だったわね」
如月誠「そうなんだ。これが夢なら覚めてほしい。
じいさんはどうしてるかな?」
サッチィン「はい、目覚めの食事もコーヒーも用意しましたよ。
神田さん、早起きね。お日様に向かって何かゴチャゴチャ叫んでたわよ」
如月誠「叫んでた?なんか、やっぱりますます怪しい。いや、ヤバイかも」
この日は土曜日なので、いつもなら如月家のみんなは少し寝坊するのだが、神田じじが早く起きて何かぶつぶつ言う声が聞こえてきたので、みんなその声で起きてしまったのだった。
純ちゃん「パパ、ママおはよう」
如月誠「おはよう。純ちゃんも愛ちゃんも今日は早いな。
自分でしっかり起きるなんて、元気で偉いぞ」
愛ちゃん「神田じじが、『朝のお日様にあいさつすると良いこと起きるじゃて』といったよ」
如月誠「そういうことか。おかげでみんな起きちゃったな。でもけっこうまともな事というじゃん。
まあ、いいか。それより、朝食を済ませたら、一応警察にいってくるよ」
サッチィン「マーチャン、よろしくね。さあ食事にしましょう」
サッチィンは子供たちにパンとオレンジジュース、そしてサラダを用意した。神田じじには和食のほうが喜ばれると思い、みそ汁、納豆、たくあん、アジの開きを出した。
子供たちの勧めに従って神田じじは食卓に着いた。
サッチィン「神田さん、朝ご飯ですよ」
神田じじ「おー、すまないね。今日はいい天気で、ありがたい」
愛ちゃん「神田じじ、愛ちゃんといっしょに多摩川に行くんだよ」
神田じじ「多摩川には何があるのかのう」
純ちやん「月に一回、みんなでボランティアをやってるんだ」
神田じじ「それは偉いの。いっしょに行くわい」
サッチィン「朝の洗濯と掃除してから、支度しますね」
神田じじ「ママさんは働きものじゃ。あーママさん!話がー」
サッチィン「ドリャー!」
神田じじは何を思ったか、サッチンに話しかけようとして背後に回った。
とたんに神田じじはサッチンに投げ飛ばされてしまったのであった。
神田じじ「わー、どうなってるんだ。投げ飛ばされた」
サッチィン「まー、神田さん。ごめんなさい。後ろを取られると投げてしまうものだから…」
純ちゃん「神田じいちゃん、いってなかったけど、ママは合気道三段なんだ。急に後ろに行くと投げられるよ」
神田じじ「そうか、すまなんだ。でもこのわしを投げ倒すとはさすがにすごいのう」
愛ちゃん「パパもよく、ママに投げ飛ばされているよ。パパも剣道やって強いのにね」
神田じじ「そうか、剣道をやってるのか」
サッチィンは神田じじに子供見てもらっている間に、食事の後片付けや外出の準備などを済ませていた。
サッチィン「支度ができましたよ。行きましょうか」
神田じじ「わしも一緒に行くかいの」