一か月後、ついに三鬼現る
一か月後、ついに三鬼現わる
如月が修業を始めてから一か月がたった日の朝、如月家の家族全員がリビングに集まった。
神田じじが謎のアイテム『打出の小槌』とやらをみんなに見せるというのだ。
神田じじによると、そのアイテムは鬼の出現を探知するレーダーのようなものらしい。なにかわけのわからない道具のようだが、物珍しさもあり、特に子供たちが興味を持った。
神田じじは『打出の小槌』なるものを両手で持ち、何かわけのわからない呪文を唱えながら、それを左右に大きく振った。
神田じじ「ついに二〇二三年九月X日がやってきた。悪の波動が強くなっている。三鬼が近づいてる証拠だ」
如月誠「悪の波動が強くなるとどうなるんだ」
神田じじ「わしが人間の姿でいるのが見えない人、つまり悪の心を持った人に三鬼の力は強く作用する」
如月誠「サッチィンがいってた間黒さんや骨董屋の宗谷さん、
ひったくり犯、自分の欲のために人を利用する輩、俗にいう
悪人が凶暴化するということか。
この日は日本中で狂ったやつらが大騒動を起して大変だな」
神田じじ「……」
神田じじはリビングにいる全員に、いよいよ鬼を倒す作戦について話しはじめた。
如月誠「ところでじいさん、三鬼を倒すための具体的な策は考えているのか?」
神田じじ「大丈夫だ。十分策は練ってある」
如月誠「そうか、じゃあ聞かせてくれ」
神田じじ「具体的作戦を伝える。三鬼は、普通の人間が束になってかかってもいっぺんに蹴散らされてしまうくらい強い。奴らは最初に結界を破ろうとしてくるだろう。もし結界が破られれば磁場のゆがみを攻撃してくるにちがいない。そこから凶悪な鬼がでる。鬼の数は計り知れないだろう。だからその前に三鬼を倒したい」
如月誠「今、現場はどうなっているんだ」
神田じじ「もうすでに神通力で大鹿村の住民は避難させている。
伊勢の神と出雲の神が磁場の近くで待機して、酒樽を用意した。鬼が酒を飲んで酔った所を攻撃する」
如月誠「けっこう古典的な作戦だな」
神田じじ「鬼は酒好きだ。そして如月に授けた神田明神の神通力は、
『自分で思った武器が作れる能力』だ。
力を最大限発揮すれば必ず鬼退治はできる」
如月誠「わかった。まあ、俗にいう、ご都合主義の剣だけどな。
三鬼の具体的な特徴はどうなんだ?」
神田じじ「赤い顔の鬼は大地を地獄の炎で全てを燃やしつくす。
青い顔の鬼は人間の心や宇宙の隕石までもコントロールする。
黄色い顔の鬼は毒をまきちらして、大地や川を汚し、水の生き物 死に至らしめる」
リビングにいる如月家の全員が、厳しい顔つきになった。
如月誠「ひどすぎるな。今までにない恐怖だ。どう戦うか?」
愛ちゃん「じじ、こわい」
純ちゃん「じいちゃん、何を準備したらいい?」
神田じじ「じじがあげたミニスマホのできる鉛筆を持っていることじゃ。
お守りにもなるしな」
純ちゃん「うん、わかった」
サッチィン「私は水晶のペンダントがお守りだからね」
そのとき鬼探知道具、『打出の小槌』がビービーと音を立てだした。
神田じじ「如月、どうやら三鬼が日本の上空に近づいてきたようだ」
如月誠「じいさん、車だな。準備しよう」
神田じじ、サッチィン、愛ちゃん、純ちゃんの順に車に乗り込み、それを確認したのち、如月は車を走らせた。
神田じじ「雲行きが変わってきた。急いだ方がいいな。
それから如月に言っておく」
如月誠「なんだ、じいさん」
神田じじ「おまえの本当の力は家族を守るんだという強い意志がその源だ。
だからママさんや子供たちも連れて行くんだ」
如月誠「じいさん、本気か?家族を巻き添えかよ」
如月の心は家族を守りたい思いでいっぱいだ。だからできれば戦いの場に臨むのは自分だけにしたい。
如月の思いを察知したのかじいさんは神妙な面持ちで言った。
神田じじ「だが、日本に危機が迫っている事実を知るのは、われと如月たちだけだ。ここでくい止めなければ、世界中どこに逃げても同じだ」
如月誠「地下シェルター作っときゃよかったな」
如月は本音とも冗談とも受け取れるような言葉をつぶやいた。