迫りくる危機について話し合う
迫りくる危機について話し合う
そんな状況の中、畳の部屋では神田明神が仕切る形で、話し合いが始まった。
神田明神「お集まりありがたい。時間がないのでこれより、
頂上会談を始めます」
如月誠「ここで、そんな大事なこと決めちゃうの。勘弁してよ。
おれ、目のやりどころにこまるな。これはつらいぞ」
伊勢、出雲の神「よろしくお願いします」
神田じじが如月と二人の神を前にして、話を始めた。
その内容は恐ろしい三匹の怪物が日本に迫ってきているということであった。
神田じじ「うむ。時間が迫っているので進めるが、二〇二三年九月X日に
日本を攻撃しに来るのは『三鬼』とわかった」
如月誠「突然、真面目な話になったな。その三鬼とはなんだ」
神田じじ「三つの魔物でな。数千年も前から存在する鬼のようなものだ」
如月誠「昔から鬼はいると言い伝えられていたが、今がなぜ危ないんだ」
神田じじ「古代より神々が結界日本全体にはっていたが、
最近になって、三鬼に結界が破られるかもしれないという危機が迫ってきているのだ」
神田じじの話を聞き、如月は真剣な顔つきになった。二人の神も身を乗り出して話を聞いている。
如月誠「日本が危ない…。日本を守っている結界とはなんだ」
その問いかけにこたえる形で、神田明神は話をつづけた。
伊勢の神「出雲大社と伊勢神宮と神田明神で日本の上空全体に、人には見えないシールドを張って、敵の攻撃に備えてますの」
如月誠「日本の上空に結界か…。ところで今ここにいて大丈夫なのか?」
すかさず出雲の神が口を開いた。
出雲の神「神通力です。ご心配にはおよびませんことよ」
如月誠「心配ないって…、知っている人の姿で答えられてもなんだか信じられないな。だが世界にはもっと大変なところがたくさんあるぞ。
なぜ日本なんだ」
神田じじ「それは、日本の断層は特別でな、あの磁場ゼロを破れば
闇の世界からもっと凶悪なものを呼べるからだ」
そんな大それた、しかも日本の重大な危機に関する秘密を、一般人に過ぎない自分が果たして聞いてもいいものなのか戸惑っていた。如月の心の中には、今までにいろいろな昔話に出てきたような鬼の姿が浮かんできた。
そして背筋がぞくぞくするのを感じていた。
如月誠「その凶悪なものは、おれたちの『幸福の夢』を壊しに来るのか…」
神田じじ「その通りだ」
如月誠「鬼と戦う事になるのか?
そんなこと人間のおれがやれるのか。でも、じいさんがこの話をおれにしているっていうことは、戦うしかないっていううことなのか」
神田じじ「では皆様方、手はず通りにお願いします」
出雲、伊勢の神「では、ごきげんよう」
如月誠「ああ、はー、よろしく。と言っても準備期間は一か月しかないがな。
『おれたちの夢を守る戦い』はきっと厳しいものになるだろう。
それには夏休みが終わる前に、必殺技を完成しておかないとまともには戦えない」
多摩川の河原で一か月の剣道の特訓
翌日から、如月は朝日が昇るより早起きをして多摩川の河原で竹刀をふるう日課になった。如月はサッチィンにはすべて話をし、特訓を行う了承をもらっていた。
夏の朝、セミが鳴く前に起床した如月は普段とは比べ物にならないくらい真剣であった。
神田じじ「さすが、無駄な力が入ってない。如月は熱心だ。
いつものユニシロのジャージでなく袴姿がいい」
如月誠「あっ、神田明神か。見ての通り今日から修業を始めることにした。一か月後といっても実際には戦いが突然に始まるかもしれないからな。それに備えるための特訓さ」
神田じじ「その通り…。ところで、わしの呼び方はいつものようにじいさんでいいよ」
如月誠「わかった、じいさん。
『これ剣を磨く、持てる力は正しい事に使え』
最大の力を出すには、守りたい人の為を考えるしかないからな」
神田じじ「ごもっとも」
如月はしばらく河原での剣の修行を行い、一休みした。
川の岸辺の岩に座りながら鬼との戦いのことを考えていたが、思いを巡らすにつれて不安が大きくなっていった。
果たして鬼と戦う有効な作戦はあるのだろうか。
そもそも鬼とはどんな奴でどんな能力を持っているのか、さっぱりわからない。そこで如月はじいさんに質問をした。
如月誠「ところで、戦うにはまず、敵を知らなければならない。
じいさん、三鬼とはどういうヤツだ。
たとえば、名前とか攻撃の特徴とか、何かないのか?」
じいちゃん「りゅうおう、シドー、ゾーマ…」
如月誠「どこの、ドラ○○だよ。鬼なんだろう」
じいちゃん「赤鬼、青鬼、黄鬼…」
如月誠「じいさん、名前知らないのか?」
神田じじ「知らない。だが、特徴はある。
三鬼の力をスカウターで計ると五十三万…」
如月誠「今度はどこぞの宇宙の帝王かよ。おい、じいさん真面目に答えろよ」
神田じじ「知れば、無事ですまないことになるぞ。それでもいいのか」
如月誠「わかってるよ。乗りかけた船だ。じいさん、勝機はあるのか?」
神田じじ「神田明神の名に懸けて!」
如月誠「なあ、じいさん、鬼との戦いが終わったら、
みんなと多摩川の河原でバーベキューパーティでもするか?
それとも神社のイベントで忙しいかな…」
じいちゃん「バーベキューは名案だ」
如月誠「一つ疑問がある。なぜ、神田明神はおれを選んだんだ。
おれなんかより、もっと強いヤツは他にたくさんいるぞ」
神田じじ「ああ、日本の危機を感じて東京の上空を辿って眺めていたら、
如月のいるこの河原に飛んでた」
如月誠「お導きってやつか。そういえば、家族にプレゼントしてくれたが、
おれにも渡すものがあるとか…。今回のこの戦いに関係するアイテムか?」
以前から如月には渡しておきたいのもがあったようで
急に神田じじの顔つきが真剣になった。
そして、何かアイテムを出すときの例のポーズをとった。
神田じじ「その通りだ。われの神通力を渡したい」
如月誠「神田明神の力なら、人間冥利につきるな」
如月は神妙な面持ちで神田じじの前に立った。
神田じじ「これから渡すぞ。はーー。よー、ぽん」
神田誠「なんか威厳ないな。どうなったんだ。なにも変化ないんですけど…」
神田じじ「おまえの胸にわれの印を刻んだ」
如月誠「剣道着の上を開いて胸を見るか。うあー、と…、あった。
神田明神の丸い巴マークがついてるだけじゃないか。
なんかこう、スーパーマンみたいな、かっこいいのがいいいな。
せめて逆三角の中にKとか…。これはシャレてないな…」
如月は不満そうにしていた。ぶつぶつ文句を言っているので、神田じじは如月のそばに寄ってきて、肩を軽くたたきながら話した。
神田じじ「そういうとこ気にするタイプだったか。でも、神通力はすごいぞ。試してみるがいい。
まず力を竹刀の先に集中するんだ。自分の持つ力を剣先に溜めるといういう意識を持て。
そしてたまった力をコントロールするんだ。難しいように聞こえるが、やってみろ。きっとできるはずだ」
如月は竹刀を握りしめ、剣先を正眼の位置に構えた。剣道の試合の時に相手の面を打ちに行く如月の最も得意とする構えである。
如月誠「わかった。やってみるよ。力を溜めるんだな…。
はーー、はーー、すごいぞ!
確かにパワーがこの竹刀の先までくる手ごたえがはっきりわかる」
如月は、神田じじから授かったばかりの神通力の威力を肌で感じ取った。
あとはこの力を自分のものとして自在に操れるようになることが残された課題となる。
そのために毎日厳しい訓練を続ければならないことは、如月自身がよくわかっていた。
如月の様子を確認して安心したのか、じいちゃんが家に向かって歩き出した。
神田じじ「わしゃ、先に帰るぞ。飯があるからの」
如月誠「ああ、おれはまだしばらくここに残る。決めた時間までは頑張りたいからな」
じいちゃんに返事を返したあとも如月はしばらくの間、黙々と竹刀を振り続けた。
こうして如月は毎日欠かさず朝の修練を続けた。