72 クラリッタと真衣香 前編
「スフィダンテにも……! 装備出来るの? 」
航空自衛隊 岐阜基地に係留されている巡空艦『神州』の格納庫に、智也の素っ頓狂な叫び声が轟いた。
今日は十二月二十四日、いつの間にか日本中の若い男女が愛を確かめ合うになってしまった日だが、別名クリスマスイブとも呼ばれている日。
この日智也とクラリッタは、リバティ・ギア・スフィダンテとブリタニアのコクピット改装作業に参加しており、リトルナガサキの中央広場で行われたクリスマスイベントには参加していない。
元々イベントに参加する積もりも無く、年末年始の賑やかなイベントとは一線を引いて、ひっそりと静かに過ごす予定でいた智也。だがこの神州の格納庫において、思いがけないクリスマスプレゼントを手にしたのである。
智也の驚きの叫び声は、その時の嬉しい悲鳴であったのだ。
智也へのクリスマスプレゼントは、峯岸三等空佐からリバティ・ギアの専用武器として贈られた。
峯岸三等空佐とは、東京都府中市にある航空開発実験集団から直々に派遣された研究者である。スフィダンテの防衛装備品を研究開発するため、巡空艦神州が岐阜基地にやって来て早々に基地に派遣され、スフィダンテの武器について研究を重ねて来た人物だ。
クールで理知的な峯岸三佐が笑顔で格納庫に搬入したのは、スフィダンテ専用の外部装着型防衛装備。アメリカ軍御用達の軍用兵器開発会社、シグニス・ブラザーズ社製の連発式電磁投射砲。つまり電磁投射ライフル……レイルガンである。
ーーリバティ・ギア・ブリタニアと契約したクラリッタは、いまだにアメリカ国籍で米軍所属である。日本に貸与されている形となっている彼女とブリタニアは、今現在武装化が成されておらず完全な丸腰の状態であり、武装化させる事が喫緊の課題となっていた。
急場しのぎで魔装徹甲弾のプレイヤー・ウィールをラーニングさせて、スフィダンテのように“炎の自壊パンチ”を繰り出せるようにはなったが、それだけでは戦略や戦術に組み込めるだけの火力がまるで無かったのだ。
当初から計画していたスフィダンテの武装化、更にはブリタニアの武装化。これらを満足させるためには、日本国内の防衛装備品メーカーだけでは足りないと判断し。「ブリタニアのために」と言うセリフをお題目に、米軍と交渉を繰り返したのである。
スフィダンテには「アレスの雷」と「ヘラの重力制御」があるが、ブリタニアには何も無い。もし異世界ソ連軍が第三次日本侵攻を開始したら、丸腰のブリタニアは戦地へ投入されず、まともなデータ収集すらままならないが、どうする?
ーー峯岸のこの言葉は効いた。三週間と経たずに米軍から公表もされていない最新兵器が送られて来た。
それが電磁投射ライフル、『SBMLー08』二丁。
智也とクラリッタは、大砲並みの口径を持つリバティ・ギア専用の電磁投射ライフルを手に入れたのだ。
本日はその電磁投射ライフルとリバティ・ギアを繋ぎ、コックピットに射撃管制システムを取り付ける作業を行なっていたのである。
50口径の魔装徹甲弾をテラジュール単位の電位磁場から発射するのだが、その初速は何と戦車砲の約五倍。速さ9キロメートル毎秒で射出された砲弾は最大射程二十八キロメートルにも達する。
水平射撃でも射程二十キロメートルを誇る事から、地平線の向こう……又は水平線の向こうにいる見えない敵すらも攻撃出来るのだ。
リバティ・ギアと精神感応状態となり、リバティ・ギアの痛覚を受け止めるパイロットにとっては、痛みを恐れる事の無い遠距離攻撃武器は諸手を上げて喜ぶ武器なのだ。
航空開発実験団の技術者と、今後作戦中にメンテナンスを任せる巡空艦『神州』の整備員たちが作業を行う中、智也とクラリッタは峯岸から運用について説明を受ける。
・スフィダンテの背中に装着型バックパックを取り付ける。そのバックパックには電磁投射ライフルと繋ぐケーブルの装着口がついている
・スフィダンテが発電し、二丁のライフル射撃を可能にさせるのだが、一丁をセカンダリーウェポン (予備武器)として温存しない
・一丁はスフィダンテが装備し、もう一丁はブリタニアが装備する
・ブリタニア射撃時は、スフィダンテに接近して電力供給を受ける
ブリタニアのための武器として米軍から貸与を受けたのだが、一丁を予備として置いておくほどに戦力・防衛力が確保出来ている訳ではない。
いずれにしてもブリタニアはスフィダンテから電力供給を受けるため、「ニコイチ」となって行動するのであれば、総合火力を考えてスフィダンテにも装備させるべきと峯岸は判断したのだ。
「装弾数五発、二丁で合計十発。電磁投射ライフルの遠距離攻撃で勝敗が決まれば良いけど、その後接近戦に以降した際に、ブリタニアに予備のライフルは必要なのか? って話だよね」
「確かにそうですね。ドッグファイト状態になったら、ブリタニアと行動合わせるのは無理ですからね」
「あら、そんな事無いわよ。私は智也の動きに合わせられるわよ」
「いや、そんなムキになる話じゃなくてだね、ケーブル絡まっちゃうでしょうが」
夫婦漫才のようなやりとりを眺めながら、峯岸は苦笑している。
接近戦になった際は、個々に優位なポジションを取って戦う事から、電磁投射ライフルは先に撃ち尽くすべきと主張する智也。
接近戦になっても、互いに息を合わせたフォーメーションで敵を撹乱し、電磁投射ライフルの射撃も視野に入れるべきと主張するクラリッタ。
こうなって来ると、運用よりももっと内容に切り込んだ「戦術」分野の討論となっているため、峯岸は楽しそうに二人を見詰めるだけ。ーー戦術方針に口を挟むのは越権行為になり得るのだ。
だが、表面的には笑顔を浮かべていても、必ず一定の距離を保っていた二人が、いつの間にか十年来の親友のように語り合っている事から、頼もしげに見詰めていた事もある。
「僚機と息を合わせて行動するのは、攻撃の時だけだろ? ドッグファイトにライフルは必要無いよ」
「要撃や迎撃でも僚機と行動するわ。敵のロックオンを散らしてくれるのは、後続の僚機なのよ」
「いやいや、その段階になればライフルじゃなくて自殺パンチの方が有効だよ。痛いのイヤだけど確実だよ」
「その痛いのを和らげたいの。もしかしたらドッグファイト中にライフルを充電するタイミングも考えられるし、フォーメーションの練習はしておくべきよ」
「ドッグファイト中に充電? 無茶だよ。失敗したらケーブルが切れて壊れるぞ」
「私と智也なら出来る! 」
「クラリッタ……顔が近いよ……」
「智也はそうやってすぐ逃げる。私は真剣に話してるのよ」
うむうむ、若いねえ……と、峯岸三佐は腕を組みながら二人を見詰めながら、甘酸っぱい青春時代を思い出している。
だが、智也とクラリッタの熱い議論を峯岸以外に見詰める瞳があった。
それは今も作業を行なっている整備員たちの中に潜み、嫌悪とも嫉妬とも言えない複雑な色を放っていた。
ーー依田真衣香が見ていたのだーー




