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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 巡空艦『あさま』の反乱 編
71/72

71 九条の戸惑い 濡れ衣への不信感



 ウィーン プシュン! ウィーン プシュン!

 巡空艦あさまのドック内に響く、小型作業機械のモーターの駆動音。

 あさまの整備員たちが見詰める中、あさまの格納庫へと列を成して進んで行く人型機械。

 機械化装甲歩兵用の最新型パワードスーツ、『イジェフスク izh979-ギロイ(勇者)』が四機搬入されたのだ。


「なるほどこれが……」

「いよいよ実戦配備か」


 あさまの整備員たちがため息を吐きながら真新しい人型機械の行進を見詰める。

 一昨年にソ連軍がこの最新型パワードスーツを実戦に投入したのだが、いよいよ日本自治州軍にも最新型が配備され始め、今日はその搬入日。

 年明けに行う訓練航海に合わせて、あさまの格納庫に収まったのである。


 ーー払い下げ兵器の自治州軍ーー

 そう揶揄されるのは仕方がない


 元々、第二次大戦後のソ連占領により東日本は自治権を失い、日本自治州と言う共産圏の衛星国家となった。

 日本人による自治政府と言う形だけの「御神輿(おみこし)」はあるものの、あくまでもそれは飾りに過ぎず、実質的にはソビエト共産党の完全なる支配下に置かれている。

 第一次産業も第二次産業もソビエト共産党の管理下による計画生産に統制され、独自の産業も地産地消も許されなくなった自治州は、生活必需品から軍事装備のその全てを、ソ連の払い下げと言う形でまかなわなくてはならなくなったのだ。


 つまり、日本自治州軍の装備全てがソ連軍のおさがりで時代遅れのポンコツ。

 パワードスーツも十七年前に装備された物が全く切り替えられないままだったのだが、ここに来てようやく最新型と入れ替えの運びになったのだ。


 多分、一度ソ連軍で使用された中古品なのであろうが、自治州軍の兵士たちが最新型のその眩いフォルムに、目が釘付けとなってもおかしくないシチュエーションであったのだ。


 小型大出力のプレイヤー・ウィール実装による駆動力の大幅な上昇を実現した事で、高い機動性と携帯装備の更なる重量化を実現。

 人間並みの動作の滑らかさと素早さを得ながらも、武装ヘリコプター並みの火力を維持出来る『izh979-ギロイ』は、それだけで整備員や乗組員たちの 垂涎(すいぜん)の的になった訳ではない。

 動く鎧としての能力しか持ち得なかった第一第二世代の旧型とは全くコンセプトを変えて、第三世代としての機能を遺憾無く発揮した、新しい時代のパワードスーツであったのだ。


 主導力用プレイヤー・ウィールの小型化に成功した事で、複数のプレイヤー・ウィールを搭載する事が可能となったizh979-ギロイは、他に三つのプレイヤー・ウィールを搭載。

 それらは駆動力に魔力を供給するのが目的ではなく、自立思考のAI回路とリンクして三つの頭脳として稼働。

 ライフルやミサイルなど、外部接続兵器の射撃管制制御や、パワードスーツ部隊同士での戦術データリンク、更にはAIによる自動索敵と迎撃応射、環境変化対応ホログラム迷彩と、多彩な機能を発揮する……言わば未来の革命戦士なのである。


「見ろよ、格納庫に入った途端、ボデーの色が暗くなったぞ! 」

「すげえな。ほとんど音声入力で手動操作がいらないそうだぞ」

「網膜操作ってのもあるそうだ。目ん玉をカメラがトレスして判断するんだってさ」


 ため息に混ざりながら行き交うのは整備員たちが誰かから聞いた話、それが確かなのかどうかは分からないが、関係者や“その筋”の者から聞いた話として、自慢げに語られている。


 ーー今年夏に行われた侵攻作戦後、整備に時間を費やした結果の年の瀬。それも作業のほとんどが終了した暇な時期の重大ニュースーー

 整備員、乗組員だけでなく、ドックの職員や軍港関係者までもが人だかりを作り、“最新型”の匂いを楽しんでいる。

 だが、『あさま』のドックの片隅では新型パワードスーツの姿に目もくれず、何やら小声で話し合う者たちの姿が見える。


 ドックの通路で身を隠しながら会話するのは二人の男女。女性側はあさまの艦長である九条沙苗なのだが、もう一人は九条より階級は劣るが、少佐の襟章を付けた男性将校だ。


「久しぶりに会いたいと連絡が来たから、喜び勇んで来てみれば、だな」

「ぬかせ。妻子ある身でよくもまあぬけぬけと」

「士官学校首席卒業で才色兼備の美女とくれば、野郎どもが夢を見る権利くらいあっても良いはずだよ」


 男性は上官であるはずの九条に対して、必要以上に気さくに語りかけており、その様は気さくを通り越して馴れ馴れしくもある。

 だが、九条がそれを受け入れて笑みを漏らしている事と、第三者の視界から隠れて会話を重ねている事で、コミュニケーションは普通に成立していた。


 この男性、自由主義者によるテロやスパイ活動を取り締まる情報機関に所属している。日本自治州軍 参謀本部情報総局 中部地区担当の情報将校、徳茂少佐だったのだ。

 この徳茂と言う人物はどうやら、九条艦長の士官学校時代の友人のようだ。


「積もる話はまたあらためてにしよう。今日は貴様に聞きたい事があって呼んだのだ」

「そうだな、どうやら君の環境は慌ただしく変わっているようだ。君のお手製キシュカでストリチアナを飲むのは、またにしよう」


 キシュカとはロシア料理でソーセージを意味しており、ストリチアナは20世紀初頭からモスクワで生産されている代表的なウォッカである。

 手料理を食べさせろと紳士的かつ猛烈なアタックを繰り出した徳茂であったが、彼の真意はセリフの前段にある。

 どうやら、徳茂は九条の身の回りに起きている静かな異変に、気付いているような口ぶりなのだ。


「ふむ、州都釜石に足を運んだ際も、艦隊司令部で警告された。カーゲーベーは何を企んでいる? 」

「理由は正直分からない。だけどね、(うごめ)いてる事は間違いない」


 ーーどうやら、日本自治州には一切内緒のまま、今年の秋口に軍事作戦を行ったらしいんだーー


 徳茂は情報部だけが持つ秘匿(ひとく)事項を惜しげも無く晒し出す。それだけ九条に信用を置いている証拠でもあるのだが、その内容のあまりにも衝撃的な内容に、九条も思わず鼻白む。


 第一次異世界日本侵攻は、巡空艦『あさま』も参加してのソ連=自治州軍合同の作戦となった。結果は九条も知っての通りの内容で、リバティ・ギア・アレスタイプが撃破されてしまった。

 そして第二次異世界日本侵攻はソ連軍単独で行われたのだが、それはもう惨憺たる結果で、投入されたリバティ・ギア・ヘラタイプは撃破され、レニングラード軍管区の約一万人の将兵が、全員捕虜になったそうなのだ。


「新型リバティ・ギアの性能、旧共和国軍の残党、そして現地軍……。これらの連携が上手く行ったのか、それともそれ以上にソ連軍が下手を打ったか」


 そこまで詳しくは情報が入って来ていない。

 ただ、敗戦の責任者を晒し上げてネガティブなキャンペーンを行う事も無く、完全に沈黙して黒歴史化しようとしている事から、この話は闇が深いと、徳茂は眼を輝かせる。


「ヘラが撃破された事で、その半年後に予定されていた大軍の派遣計画も頓挫したんだが……。俺が思うに、まだその計画が生きているのではないかと考えてる」

「根拠はあるのか? 」

「正直なところ根拠は無い。だが昨今の自治州の様子を見ていると、本国が何かしらの秘密行動を取っているように思えてね」


 例えば、東日本と西日本が祖国統一となってから今の今まで、ずっとカーゲーベーは闇で自由主義者狩りを行って来た。まさしく弾圧だ。

 だが、ヘラが撃破された頃から弾圧が全く無くなったように感じるんだ。行方不明者……暗殺される者がいなくなったんだよ。

 カーゲーベーが手抜きをする事はあり得ないし、思想犯に温情な措置を取る事は無い。だけど取り締まりの手を緩めて、自由主義者たちを野放しにしている。


「それとね、ヘラが撃破されたあとぐらいから、カーゲーベーの暗号通信の量が飛躍的に増えた。本国と頻繁に交信を繰り返しているのだが、それは今なお続いている」

「カーゲーベーの単なる方針転換じゃないのか? それだけの理由で第三次異世界日本侵攻に話を繋げるには強引過ぎるぞ」

「自治州の各地で、既に暴動やデモも起きてる。第三次異世界日本侵攻作戦とは、純粋な軍事侵攻ではなく、秘密工作作戦だとは考えられないか? 」

「それがたとえ秘密工作だったとしてもだ……。話が飛躍し過ぎて私には理解出来ん。何故自治州で内乱が起きている事が、次の侵攻作戦に繋がるんだ?」


 ーーこの地を通じて、()の地で何をするのだ?ーー


 正統派の海軍軍人としての道を歩み続けて来た九条にとって、カーゲーベーだの弾圧だの内乱などと言う話題は全くの畑違い。理解はしようと苦心するのだが一向に話が見えて来ない。

 だが、徳茂のこの一言が九条を崖っぷちに立たせる事になる。徳茂も旧友を前にあまり言いたくなかったのか、ひどくバツの悪い表情なのだが、それでもやはり彼女には言っておいた方が良いと決心し、彼女の両の瞳を真正面で見つめた。


「九条、聞いてくれ。カーゲーベーが本国に送信している暗号文。断片的ではあるが我々で盗聴して解析した。暗号文には君の名前が頻繁に出て来ており、そして自由主義者の指導者的地位にあると報告されていたんだ」

「わ、私が? 何を馬鹿な事を言っている! 私は自治州軍の軍旗に誓った人間だぞ! 」

「分かってる、分かってるよ。君の聡明さは俺たちが良く知っている。だが、君を利用しようとする動きがあるのは確かなんだ」


 ーーだから今は自重してくれよーー


 徳茂少佐は懇願するように九条に言いながら、新たな情報が入ったら回すからと、背を向け歩き出した。

 巡空艦の艦長と情報部の将校が密会していると言う構図は、あまり本人たちにしても望ましいものではないのか、九条もそれを引き留めようとはせずに「頼む」と腹から絞り出した声を、徳茂の背中に投げ掛けた。


 カーゲーベーや秘密警察に目を付けられると言う事は、共産主義世界の住人にとっては将来を絶たれる絶望的な状況である。

 自分がどんなに清廉潔白であると主張しても、彼らはそれを一切許さない。良くて政治犯用強制収容所送りが待っているか、悪くて行方不明……つまりは人知れず暗殺されてしまうのだ。


 何故自分が目を付けられたのかが全く理解出来ないまま、九条沙苗はやがて年末を迎える事になる。




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