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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ スフィダンテ・マークⅡ その名は 編
63/72

63 その名はブリタニア 前編


 カツカツと硬いブーツがアスファルトの道路を鳴らし、ハアハアと荒い息が山道を駆け下りて行く。

 その数は二人分。二人分ではあるが、がっちりと肩を組んだその影は一つの生き物として月明かりに照らされている。


 市街地に向け必死になって山道を下るのは智也とクラリッタの二人。

 夜明けまでに岐阜基地にたどり着けなければペナルティが課され、更なる体力トレーニングが追加されてしまうのだが、既に疲労困憊となっている二人に追加トレーニングをこなせる自信は無い。

 体力的にはこの深夜行軍がラストチャンス。そしてそれすら出来ずに基地でペナルティを課されるのは二人のプライドが許さない……

 「気力の限りを尽くして、この夜間行軍をもって全ての訓練を終了させる! 」 二人の意気込みはぴったりと噛み合い、二人三脚のようなその足取りに迷いは無かったのである。



「クラリッタ、大丈夫か? 少し休憩するか? 」

「私は大丈夫、まだ行ける。むしろ智也が心配よ」


 口数は少ないものの、時折お互いに気を(つか)う様を見れば、男女としての仲ではなく、仲間として戦士としての共通認識を(いだ)いているのは間違いない。

 そしてこの時、一心不乱となって基地に向かう二人の中でクラリッタだけが、もう一つの感情を胸に秘めながら駆けていた。


 “リバティ・ギアと契約した後、私はどう生きるんだろう! ”


 クラリッタが怪我をした際、リタイアするかどうかで揉めたのだが、涙ながらに心情を吐露(とろ)したクラリッタを智也は見捨てなかった。

 そしてクラリッタに肩を貸して再び歩き出した時、智也が彼女に投げ掛けた言葉が胸の奥に深々と突き刺さっていたのである。

 

 クラリッタは岐阜基地にやって来る前に、犀潟智也の身上書に目を通した。「機密 閲覧のみ」とファイルの表紙に表記されたそれは、リバティ・ギア契約者の生い立ちから今に至るまでが事細かに記載されていた。


 ごく普通の中流家庭に生まれた智也は、今年の春先に幼馴染みの死に遭遇した。体力的には貧弱であったが成績は優秀、しかし幼馴染みの死を機に完全な抜け殻になってしまった。

 しかし、異世界ソ連軍の第一次侵攻の際に現れた異世界依田真衣香の手引きにより、智也は究極の二択を迫られる。

 リバティ・ギアと契約してスフィダンテのパイロットになるか、リバティ・ギアとの契約を拒否するかーー

 異世界ソ連軍がスフィダンテに迫っていたため、智也がもし契約を拒否すれば、スフィダンテは自壊モードを発動させて日本列島中部地区一円が火の玉になる。


 【犀潟智也はリバティ・ギアと契約せざるを得なかった】


 そしてその後の彼の行動……つまりクラリッタにぶつけた「リバティ・ギアと契約するのが君のゴールじゃない。リバティ・ギアと契約した後、どう生きるかが大切なんだ」と言う言葉。


 殺人の罪の意識に囚われ、PTSDを発症している可能性もファイルには記述されていた。

 リバティ・ギア・ヘラ戦後に彼は敵のヘラ契約者の死体を抱えて神州に戻り、血まみれの姿で葬儀をすべきだと頑なに主張して実行させた。


 犀潟智也はスフィダンテと契約したのちに、どう生きているのかーー

 クラリッタには彼の心情など皆目見当がつかないのだが、敵を殺して心を傷ませる少年、そして敵であっても尊敬する者には敬意を抱く少年である事は分かる。


 犀潟智也もやはり自分と同じで、友達や青春や勉学などの普通の生活に飢えているはず。

 思春期に殺し殺されの殺伐とした世界に身を置くのは心から苦しいはず。だけど彼はポキンと心が折れずに、今も痩せ我慢でしっかりと立っている。


“彼は強い。契約の事しか頭に無かった私なんかよりも遥かに強い”

“私は、智也と一緒にいたい”

“智也の悲しみや苦しさを全て背負う事は出来ないけど”

“智也の隣に立って彼の苦しさを共有出来れば”

“リバティ・ギアと契約したら、私は、私は……”


「……契約したら、私はあなたを守るの。あなたを苦しめる全ての事から……」


 クラリッタは荒い息に紛れながら、ぽつりと呟いた。

 もちろん、その呟きは智也の耳には届かなかったのだが、その時にとったクラリッタの行動が衝撃的であった。


 何と彼女は、智也に肩を借りているクラリッタは、空いている右手をも智也の身体に回し、彼の頬にキスしたのである。


「うわっ! 何だっ! 」


 いきなり頬に感じた他人の肌、それと一緒に感じる熱い吐息。クラリッタがバランスを崩した事も相まって、智也も足が絡みつき、二人して盛大に転んでしまったのだ。


「だ、大丈夫かクラリッタ? 」


 怪我をしている彼女を庇うように、身体をひねって自分が下になる。背中のリュックが地面との衝突を緩和してくれたおかげで、転んでも自分の尻が多少ヒリヒリする程度だ。


「ごめん、ごめんね智也。私自分の都合ばっかりだった」


 智也の首に両手で抱きついたような姿勢となったクラリッタは、転んでも手を離さずにギュッと抱きしめたまま。

 彼女の胸に埋まる形となった智也は足をジタバタさせながら困惑するのだが、やめろ! 離れろ! とは叫ばない。

 左目の視界にチラリと入った彼女の左手を見て、腰が抜けたかのように驚愕しながら別の言葉をもって叫んだのだ。


「おい、おいおいおい! クラリッタ、自分の左手を見ろ。輝いてる……輝いてるぞ! 」


 智也に促されて上半身を起こしたクラリッタ。言われた通り自分の左手を見てみると、まるで大きなホタルのような、柔らかな光に包まれているではないか。


「こ、これは……もしかして! 」


 左手を丸々包んでいた光はやがて先鋭化し、彼女の左手の甲に集約される。智也のそれと同じく、梵字(ぼんじ)のような記号に彩られたサークルにだ。

 ーーそしてついに、クラリッタの左手が話し始めたのである。


『ポータルより告げる、ポータルより告げる! クラリッタ・アディントンの宣言をもって、スフィダンテの系譜を紡ぐ新たな挑戦者である事を認定した。当ポータルはこれより完全起動シークエンスを経て、クラリッタ・アディントン専用リバティ・ギアを現出させる! 』


「クラリッタ、やった、やったな! 」

「ああ、あああ……」


 感動に打ち震えるクラリッタ。それを我が事のように喜ぶ智也。その二人を前にして、クラリッタのポータルはこう叫んだのである。


『クラリッタ・アディントン専用リバティ・ギア現出開始! プレイヤー・ウィール名はスフィダンテ・マークII、機体名称は 女神 ブリタニア! 』



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