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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ スフィダンテ・マークⅡ その名は 編
62/72

62 痩せ我慢の笑顔


 スフィダンテ墜落時のサバイバル訓練及び、緊急即応班(QRF)のパイロット救出作戦訓練は、無事終了した。

 社会から隔絶された大自然の中に三日間放り出された智也とクラリッタは、同じテントで寝食を共にしながらも何とか訓練を終わらせる。


 野外訓練のカリキュラムの主題は、リバティ・ギアパイロットの救出及び敵地脱出の誘導訓練とあるが、パイロット二人と分隊兵士の訓練はそれだけにとどまっていない。

 身体を酷使させ疲労限界を誘う肉体トレーニングは当たり前。それと同時に食事と水分補給を抑えた飢餓行軍や、夜中に突然叩き起こして訓練を行い睡眠欲の限界と闘わせたりと、精神力の鍛錬も行うのである。


 体力の限界にプラスして、空腹、喉の渇き、睡魔が襲ってくるのであれば、まさにそれは極限状態。

 その極限状況下にあって、自分に負けない強靭な精神力で困難を乗り切る事を求める訓練。

 つまり陸上自衛隊員のエリート養成課程、陸自レンジャー訓練課程の縮小版であったのだ。


 何とか互いを励まし合い、智也とクラリッタは野営訓練を終わらせる事が出来た。


 激しい筋肉痛は当たり前のこと、全身に擦過傷や打撲痕が浮き出て、手はガサガサに荒れ、足は潰れたマメの下に再びマメが浮き出て来る……

 目も虚ろにフラフラとしながらも、それでも乗り切った二人に待っていたのは、岐阜基地までの帰投夜間行軍。

 全ての荷物を背負った完全装備状態で林野と市街地を歩き抜き、夜明けまでに岐阜基地にたどり着かなくてはならないのだ。


「さあ、訓練の総仕上げだ! 分隊、準備は良いか! 」


 橘分隊長の掛け声が夜空に響く


「犀潟、アディントン両名は現刻をもって出発。分隊は二時間後に駆け足で出発する! 」


 橘分隊長に続き、小林副分隊長が兵士たちに檄を飛ばす。


「良いか、パイロット二人には認めてはいるが、水筒の水はそのまま残せよ! 自分に負けるな! 」


 こうして智也とクラリッタは暗闇に一歩踏み出した。

 木々に囲まれた森の中で足元を見下ろす。すると岐阜市の市街地が鮮やかな夜景で二人を迎えている。


「これで最後だ、頑張ろう」

「うん」


 クタクタになりながらも斜面を順調に下り始めた二人。

 サバイバル素人の二人に関しては夜目も効かない事から、灯火許可が下りているのは不幸中の幸い。真っ暗な山の中で、弱々しいライトの灯りが二つ寄り添うようにチラチラと動いているのが確認出来る。


 橘分隊長や分隊の隊士から見れば、表面上は仲が良かった二人。

 実際に智也もクラリッタも、何事も無かったかのように仲良さげに接してはいるものの、その二人の奥底にうごめく思惑は全く違う。


 ーークラリッタの微笑みと優しさは自分に向けてのものではなく、リバティ・ギアとの契約を強く望む彼女が言わば、ご機嫌を取っているのだと感じている智也。早く契約させないといつまでも自分にまとわり付くと焦っている。

 ーー数日前から智也の様子が変だと感じてはいる、距離を置こうとする素振りが見え、自分と言う存在を受け入れていないように感じる。その真意を問いただすと口論に発展してしまう恐れもあり、今は波風を立てずに普段通り接しようと考えるクラリッタ。全ては契約のためだと自分に言い聞かせている。


 近くて遠い二人。

 互いに近寄りながらも警戒するいびつな関係を続けていたのだが、山を下り初めて二時間経った頃、それが突如崩壊した。

 下り坂の獣道で足を踏み外したのか、クラリッタが「痛いっ! 」と叫びながら盛大に転んだのである。


「だ、大丈夫か? 」

「大丈夫よ、小石につまづいただけだから……痛たた」


 智也が差し伸べた手を掴んで起き上がろうとすると、左の足首に鋭い痛みが走る。


 二人は一度背負っていた荷物を降ろしてしゃがみ、ライトをクラリッタの左足に照らす。痛みが激しくて自分でタクティカルブーツが脱げないらしく、智也が紐をほどいて脱がした。


「これは……捻挫したかも知れないな。もの凄い熱を持ってるよ」


 彼女のブーツを脱がし、靴下をまくって確認したまでは良いが、足首の腫れが酷くて今度はブーツを履く事自体に痛がっている。つまりは今すぐに然るべき治療を受けさせなければならない状況なのだ。


「クラリッタ、これはマズい。捻挫じゃなくて骨折の可能性もある。これは……」


 リタイアするしか無いなーー 智也がその言葉を口にしようとした瞬間、クラリッタの大きな声がそれを遮る。


「大丈夫! 私大丈夫だから! 私歩けるから! 」

「おっ、おい! 無茶すんなよ。まともに立ち上がれないじゃないか」

「大丈夫、私歩けるから! お願い、分隊長と連絡取らないで! 」


 無線に手を伸ばす智也を阻止しようと、フラフラになりながら立ち上がり、それを遮るクラリッタ。

 彼女の懇願(こんがん)があまりにも必死で悲壮感すら感じていた智也は、彼女を視界に置きながら考え込んだ。

 ブーツで圧迫する事すら無理そうなのに、何故そこまで訓練完了に固執するのか、彼女の身体が無理だと身体が信号を送って来ているのに、なぜ訓練に喰らい付こうとするのか不思議に思えて来たのだ。


 彼女の前にしゃがみ、落ち着いた表情で問いかける。


「クラリッタ、教えてくれ。何が君をここまでさせるんだ? 」


 何故必死になるのか事情を話せ……。その内容 如何(いかん)によっては、リタイア以外の方法を考える。

 智也の言葉の真意が伝わったのか、クラリッタは自分で自分のメッキを剥がした。

 今まで多くを語る事は無かったが、今こそ自分を理解して貰うために語る時なのだと気付いたのだ。


「私、私……! 不良品になりたくない! 不完全な不良品だと思われたくないの! 」

「不良品? 誰がそんな事を言うんだ。君は文武両道の立派な女の子じゃないか」

「違う、違うの! 私はリバティ・ギアの契約者じゃなきゃならないの。そうなれなかった不良品だから、お父さんもお母さんも私を捨てた! 」

「捨てた? 君を……君の両親が? 」

「もう嫌なの! 私が不良品の未契約者のままだと、どんどん人が離れて行く。私にはそれが耐えられない! 常に完璧を目指さないと」


 クラリッタの哀しげな表情、瞳からサラサラ溢れる涙を間近に見た智也。

 何か心に思うところがあったのか、自分のリュックに入っていたファーストエイド・キットを取り出し、三角巾を使ってクラリッタの足首を固定した。


「智也……どうしたの? 」

「ふざけるな、ふざけんじゃねえよ。君が不良品である訳ないだろ」

「でも、でも私……」

「君が不良品なら、体力測定や野戦演習で片っ端から君に負けていた俺は何なんだ。自分を卑下する事は、君に近しい者たちも卑下する事を知れ」


 智也はクラリッタの応急処置を済ませ、彼女のリュックサックを背中ではなく前に担ぐ。これで自分の分と合わせて六十キロもの重量を担ぐ事に。

 あまりにも重い荷物に「ぐぬう」と腹の底から悲鳴を絞り出し、それでも踏ん張って二本の足でドカリと地面に立った。

 そして無理矢理笑顔を作ってクラリッタに手を伸ばしたのだ。


「……クラリッタ、立てるか? 」

「えっ? 智也大丈夫なの? 」

「全然大丈夫だよ。俺の肩を貸してやるから、一緒に帰るぞ」


 度重なる疲労と筋肉痛と睡魔に襲われている今、更に二人分の荷物を担ぐと言う事は、智也にかかる負担は圧倒的であるのは自明。それでも手を差し伸べる智也のそれは、完全なる痩せ我慢であるのはクラリッタでも分かる。


 ーー心の中では一線を引いていたはずなのに、何故そこまでしてくれるのかーー


 智也の真意が掴めないクラリッタではあったが、智也の肩を借りて再び歩き出した時、智也がポツリと言う。


「橘さんが言ってただろ? 誰一人戦場に残すな、必ず連れて帰るって」


 この極限状況下において互いに意識はしていないものの、荒い息使いが頬をくすぐるほどに、二人の横顔同士は最接近している。


「……クラリッタ、今だから言う」


 森の斜面を抜けてなだらかな丘が始まる。

 目下の街は夜景に映えながら、いよいよ市道らしきアスファルトの山道も見えて来た。


「俺はスフィダンテと契約し、敵を一人殺した。そして直接手は下していないが、一人の素晴らしい女性を死に追いやった」

「……うん」

「君が失念している大切な事がある。リバティ・ギアと契約するのが君のゴールじゃない。リバティ・ギアと契約した後、どう生きるかが大切なんだ」


 ーー分かるかい? クラリッタ


 この問いかけがクラリッタの心を打つ

 目からウロコをこぼし、口をぽかんと開けながら呆けてしまい、ポカンと星空を見上げてしまったのだ。


  “リバティ・ギアと契約した後、私はどう生きるんだろう! ”



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