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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ スフィダンテ・マークⅡ その名は 編
61/72

61 あなたが私の身体を望むなら、私はすすんで差し出す



「あのお二人さん、仲良いわよねえ」


 リトルナガサキの軍属エリア、特に商店街界隈で最近話題になっているのは、リバティ・ギア契約者の犀潟智也が金髪の少女と常に行動を共にしている事。

 日本共和国の亡命者ではなく、見るからに自衛隊関係者でもないその少女が急に街に現れ、犀潟智也と肩を並べて行動していれば、噂になってもおかしくないのだ。


「スーパーで二人仲良く買い物してた」

「コインランドリーで長時間談笑していた」

「深夜コンビニエンスストアでスポーツドリンクを買っていた」

「女性用衣料品店に二人で入り、犀潟は顔を真っ赤にしていた」


 リトルナガサキは閉鎖都市である事から、常日頃から話題の絶対量が不足しているのは間違いない。そこに何やら注目の人物にロマンスの予感がまとわりついた事で、神州の乗組員だけでなく亡命民間人の老若男女までもが騒然となっていたのだ。


 ただ、当の本人である犀潟智也は、他人から浴びせられる好奇の視線などには構っていられない状態にある。

 きしむ膝、ガクガクと震える足、腹筋に走る電気、(はし)すらまともに握れない手など……日々のハードトレーニングで身体が悲鳴を上げており、とにかく家に帰って食べるものを食べ、睡眠を取る事で精一杯だったのである。


 基礎体力向上訓練も終盤に差し掛かり、いよいよ今週の週末には演習場を使用しての実戦訓練が始まる。

 演習場で二泊の野営を続けながらパイロット救出訓練を行い、最後は演習場から岐阜基地に向かっての夜間行軍。三十キロの荷物を背負って一晩中歩かなくてはならない。

 その訓練スケジュールをリタイアせずに全てクリアする事が、今の自分に求められていると感じた智也は、体力面と精神面がクラリッタより全て劣っている事に焦りながらも、必死に喰らいつこうと足掻いていた。


 ーーだから、周囲の人々が送って来る好奇の視線など、全く目に入らなかったのだ。



「うう……痛たたた……ぐうう」


 クラリッタと二人で夕飯を終えた後の事。智也は筋肉痛に悶絶しながら室内の間仕切りカーテンを閉める。

 智也の部屋を抜けないとクラリッタがシャワー室まで行けない関係上、苦肉の策として智也が作ったのだ。


「毎週医療検査を受けてたから、下着姿を見られるのは平気だって……。良く言うよ、ガチで裸だったじゃないか」


 ブツブツ独り言を繰り返しながら、クラリッタの部屋に向かって準備出来たよ! と叫ぶ。

 その後はまるでゾンビのようなおぼつかない足取りで、痛みに耐えられず顔をしかめながら自分のベッドで大の字になる。


 テレビは点いているが、盛大なる筋肉痛で首もまともに動かせない都合上、このまま寝ても良いかもと自分に甘くなる智也。

 すると、間仕切りカーテンの向こうからドアの開く音がする。クラリッタが現れたのだ。


(……それじゃあ私シャワー浴びるけど、智也はどうする?)


「訓練終わった時に基地施設で一度浴びたからなあ。めんどくさくなって来たよ」


(あら。だけど帰って来る時も汗かいてたじゃない。汗臭くなるわよ)


「どうせ明日も訓練で汗だくになるし……」


 身体が言う事を聞かないせいもあってか、だらしなさに磨きがかかる智也。そんな彼が面白く見えるのか、クラリッタはカーテンの隙間から顔を覗かせて智也を見詰めた。


「ねえ智也、一緒に入ろうか? 私が身体を洗ってあげる」

「い、いいっ! やめろよそんな事言うの、俺たち未成年だぞ! 」

「でも日本には混浴って言う風習があるんでしょ? 年齢なんて関係無いわよ」


 混浴ってのは、仲の良い男女がだな……と、首をひねってクラリッタを見る。

 カーテンの隙間から顔だけ出しているのだが、綺麗な首筋と鎖骨が露わになっており、この布一枚隔てた向こう側ではどんな姿になっているのかが容易たやすく想像出来てしまう、思春期の男子にとってはあまりにも危険なシチュエーションだ。


 全身の筋肉痛を忘れさせてくれるような高鳴る心臓の鼓動を抑え、改めて智也は説明するーー恋人や夫婦など、深い関係にある男女が混用するのであって、未成年がするものではない と


 だが、智也の説明を聞いたクラリッタは、智也が鼻と耳から蒸気を吹き出して赤面するような、爆弾発言をしたのだ。


「あら、私、智也とだったら混浴するの大歓迎よ」


 これには智也の心もフニャフニャになった。

 まさか出会って間もない外国人の少女が、これ程積極的に自分を誘って来るなどとは思っていなかったのである。


「い、いや……ほら、俺も君もまだ未成年で……法律的に……ね」


 腰砕けになって要領の得ない言葉に終始する智也。しかしクラリッタは続けざま、本日二度目の爆弾発言を行なったのである。……それも今度は智也を芯から凍らせるような氷の爆弾を。


「私ね、このポータルが動き出してくれるなら何でもする」

「うん?……ポータル? 」

「私にとってはリバティ・ギアが現れて契約してくれる事だけが全て。そのためにスフィダンテの心に触れなくてはならないなら、私は何でもする」

「何でも? 何でもって……」

「スフィダンテの心が何なのかは今も分からないけど、スフィダンテの契約者は智也、あなたよ。だから私はあなたの望むままになる」


 ーーあなたが私の身体を望むなら、私は進んで差し出す


 クラリッタが頬を朱く染めながら、カーテンを開けようとしたのだが、智也の怒声で遮られる。

「ちょっと待て! 」……それが智也の荒々しい言葉だったのだが、この時点で智也はカチンと来ていた。彼女の真意にひどく立腹しながら、寂しさを感じていたのだ。


 【クラリッタは、俺の人格や性格に感じるものがあって仲良くしてくれたんじゃない。彼女はリバティ・ギアと契約する事だけを目標に、俺に近寄って来た。俺は彼女にとって、単なる鍵に過ぎないんだ】


 そう気付いて愕然とする。


 とりあえずその怒りの感情を彼女にぶつけても意味は無いと、大声に驚いた彼女を上手く言いくるめながら、シャワー室へと向かわせた。


 自分の事がそう見られていた事へのショック、そしてそこまでして殺人兵器が欲しいのかと言う怒りはフツフツと沸き上がり、なかなかに冷静さを取り戻せないでいる。

 ーークラスのあの()、ずっと俺に熱い視線を送って来るけど、俺に気があるのかな? と思っていたら、俺の親友に気があって仲介役を頼まれたーー

 まさに自分がまんまと利用されていた、上手くノセられていたのである。


 この日を境に、智也は心に境界線を引いた。

 彼女に助力はするが、心までは許さない……そのスタンスをとったのである。



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