53 マジェスティック12機関の真実
クラリッタ・アディントンはアメリカ生まれのイギリス人である。
アメリカのとある軍事施設の中で生まれた彼女は、十七年の歳月のそのほとんどを、軍事施設の地下にある巨大都市で過ごして来た。
幼い頃の彼女が気付く由も無いのだが、その軍事施設とはネバダ州の南部の広大な砂漠の中にあるグルーム・レイク空軍基地。通称『エリア51』と呼ばれる空軍基地で、知る人ぞ知る曰く付きの施設である。
1947年ニューメキシコ州ロズウェルで墜落したUFOの残骸を、ウォーカー空軍基地からエリア51に運び込んで残骸の研究を行っているのだとまことしやかに囁かれたり、宇宙人の解剖や生体実験が行われていると噂される……UFO研究家たちの間で常に話題に上がるのが、このエリア51なのだ。
そしてこのロズウェル事件に代表されるように、アメリカ国内でのUFO騒動で世間を騒がせたものに秘密政府組織『マジェスティック12(トゥウェレブ)』の存在がある。
国民に対してUFO関連の情報統制を行いながら、宇宙人側と密かに交渉を重ねていると言われる謎の組織。UFO関連の事件に合衆国政府が深く関与していると指摘されているのが、この『マジェスティック12(トゥウェレブ)』と言う組織の暗躍なのだ。
1945年に第三十三代合衆国大統領に就任したハリー・トルーマンはロズウェル事件を機に、政府内に秘密組織の委員会を発足させる。
UFOと宇宙人の存在を危険視し、情報の隠蔽工作などや研究の全てを政府管理下に置くと言う主旨に基づいた、マジェスティック・トゥウェレブの誕生である。
マジェスティック・トゥウェレブには六人のワイズマンと呼ばれる委員たちが運営し、ワイズマンには国務長官やCIA長官、FBIのフーバー長官などの政府高級官僚が名前があった。
UFO関連の情報を完全に機密化したり、組織的な隠蔽工作を行って国民の目を逸らすには、大統領の息のかかった高級官僚たちの絶対的な権力が必要不可欠だったからだ。
ロズウェル事件しかり、宇宙人が生体実験用に牛などの家畜を虐殺したキャトル・ミューティレイション騒動しかり。
グレイ型宇宙人「クリル」が宇宙人初の人質になってホローマン空軍基地に降り立った密約事件や、UFO機密を世間に公表しようとしたケネディ大統領を完全排除したケネディ大統領暗殺事件など、マジェスティック・トゥウェレブが合衆国内で行なって来た秘密工作は枚挙に暇が無いと言われている。
そしてネバダ州にあるエリア51ことグルーム・レイク空軍基地は、合衆国政府が行なって来た宇宙人との密約の中核と言っても良い。
『基地周辺の一切の立ち入りと撮影を禁ずる。尚、不審者と見なされた場合は警告無しに発砲する』
ーーと敷地境界線に置かれた警告文の向こうでは、最高機密の地下施設において、宇宙人の生体解剖や実験、UFOの研究を通じて新兵器開発に繋げているのだ。
【……だが、これらは全て完全な嘘である……】
ロズウェル事件やキャトル・ミューティレイション、そしてマジェスティック・トゥウェレブの存在など、それらの噂や公式機密文書の存在は、全てが嘘だったのだ。
それもUFO研究家が面白おかしく創作したものではなく、全てが合衆国政府主導による「公式」の嘘、公式発表の噂。
つまりは、合衆国政府がUFOやエリア51の「まゆつば」な偽情報を意図的に流布する事で、実はもっともっと深い機密情報を守っていたのである。
『異次元世界からの亡命者を一時保護し、社会進出出来るための適応化教育を行う施設』
『次元境界跳躍を行なって飛来して来た脱出ポッドを調査研究し、未知の技術を入手するための施設』
『プレイヤー・ウィールによる魔力機構を解析し、独自開発による運用を目指す』
『亡命者の証言にある神を模した兵器リバティ・ギアを、各国よりも先駆けて入手する』
ーーそう。つまり合衆国政府は古くから異世界国家間の戦争を知っており、どこよりも先にリバティ・ギアを手に入れようと躍起になっていたのである。
そしてエリア51とは宇宙人関連の秘密実験施設ではなく、収容人数三万人を超える広さを持った亡命者の適応化都市であったのだ。
地下都市に収容された亡命者の大半は異世界ナチスドイツの迫害から逃れて来た人々。
こちらの歴史では第二次世界大戦終盤に崩壊してその歴史を閉じたナチスドイツが、西暦二千年を越えても崩壊せず、いよいよ大西洋を渡って北アメリカ大陸にまで覇権の手を伸ばしている世界があるらしい。
戦火を避けるようにヨーロッパからアメリカに逃げたものの、アメリカ自体もジワジワとハーケンクロイツの旗に侵食されつつある現状、もはや別の世界に逃げるしかないと覚悟を決めてジャンプした人々が、地下施設で生活する亡命者であったのだ。
クラリッタの両親も他の亡命者と一緒にこの世界にやって来て、そしてエリア51の地下施設で知り合い結婚した。そしてクラリッタ・アディントンは地下施設で産まれた亡命二世と言う事。
この適応化施設において、老若男女を問わず亡命者全てが「この世界」の歴史教育や風習のレクチャーを受ける事になる。そして一定の成果を認められた者は、合衆国政府と機密保持契約を結んで、新たな名前と国籍を与えられてアメリカ社会に巣立って行くのだが、クラリッタ・アディントンだけは違った。
彼女が産まれたその時から、左手の甲にリバティ・ギアのポータルが宿っていたーー彼女自身がアメリカ合衆国の最重要国家機密になってしまったのである。
『全世界に先駆けてリバティ・ギアを手に入れる』それが合衆国の近代における軍事目標であるならば、一人の少女とその両親の人格は否定される。
地下施設において幼い友人とその家族たちが普通のアメリカ市民になってどんどんと姿を消して行く中、クラリッタは左手の運命に縛られて、辛く切ない孤独な幼少時代を過ごしたのである。
それも「起動しないポータル」によって、一生研究室に閉じ込められる可能性を含んだ、絶望的な人生を予感しながら……




