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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 無垢なる神器「スフィダンテ」 編
5/72

05 侵入



 空一面を覆う分厚い雲の切れ間から時折下界に届く月明かり。それが波間をチラチラと反射する事で、あらためてそこに海がある事を認識される真っ真夜中の洋上。

 陸地の街の灯りも煌々と輝くイカ釣り漁船の集魚灯も見当たらない、三百六十五度暗黒に支配されたその海の上で、突如空間が怪しげな変化を起こした。


 海面から見上げて商業ビル一つ分の高さのてっぺんあたりに、バリバリと小さな雷を辺り構わず放ちながら突如空間が歪み始め、その歪みの中心に小さな太陽ほどの明るさをもった巨大な光球が出現したのだ。

 そしてその光球はあっという間にパチンと弾けて静まり返り、元の漆黒の闇へと戻ったのである。


 だが、何も無いはずのその空間に何かがあるのは確認出来る。

 さっきまでは何も無かったはずなのに、その怪しげな異変が起きた途端、闇の中を何か巨大な物体が現れてそのまま蠢く様に空を飛んでいるのがシルエットで分かるのだ。


 ーーそれは、我々が知りうる飛行機の姿ではなかった。


 空を覆い尽くす分厚い雲がほんのちょっとだけ気まぐれを起こし、その物体に向かって月明かりを差し向けた事でその実体が肉眼で確認出来たのだが、それはまさしく飛行機の進化の歴史において、どの図鑑にも載っていない奇怪な飛行機であったのだ。


 ずんぐりとした軍用貨物機があったとする。その軍用貨物機を二機用意して、上と下でくっつけた様な二階建てのシルエットをしており、翼ももちろん下の分と上の分で合計二枚ある双翼タイプ。

 それだけ言えば第一次世界大戦中にデビューした双翼タイプのレシプロ戦闘機をイメージするかも知れないが、レシプロ戦闘機が豆に見えてしまう程にまずデカイ。プロ野球のドーム球場がそのまま空を飛んでいるかの様な大きさなのだ。


 機体重量や空気抵抗そして揚力と闘い続けた結果今現在の航空機があるのだが、まるで発明の時点からコンセプトがまるで違う様なそれは、もはや空飛ぶ要塞と言っても過言ではなく、航空関係者だけでなく一般の素人が見てもこの世のものとは思えない未知の飛行機……いや、飛行艦であったのだ。


 ならばこれは、アダムスキー型や葉巻型に並ぶUFO・未確認飛行物体なのかと言えば、どうやらそうでもなさそうだ。


 何故かこの機体、陸上自衛隊が主に使用する深緑色のペイントで彩られており、誰もがその色に対する“見慣れた感”を醸し出しているのだ。ーーつまり陸自がこれは新型ですと発表すれば、一般大衆の誰もが納得してしまう色なのである。


 ただ、一点だけ陸自仕様ではない違和感がこの機体にはある。

 鮮やかな朱色に彩られているはずの『日の丸』マークが何かおかしい。ーー何故か日の丸マークよりもふた回りほど小さな赤い星が、日の丸にずれて重なっていたのである。


『ビーッ! ビーッ! ビーッ! 』


 その謎の大型航空機の機内にけたたましい電子音が鳴り響き、機内の照明と言う照明が全て赤色灯に切り替わる。

 この心臓の鼓動を強引に早めるかの様な電子音と赤一色の光景をもって、この大型航空機は緊急事態に直面しており、搭乗員の全てに対して何かしらの行動を促そうとしている事が伺える。


 ひとしきり電子音の警報が機内を駆け抜けると、今度はスピーカーから今度は女性の声が流れて来たーー緊張感で張り詰めながらも、気品のある勇ましい声でだ。



『……傾聴! 傾聴! こちら巡空艦あさま艦長、九条より同志諸君らに達する。同志諸君、我が艦は無事次元境界跳躍に成功し、現在日本海を“別日本”に向けて飛行中である! 』



 電子音が鳴り響いていた時は、潜水艦の様に狭くて直立不動すら出来なかったその通路を、肩をぶつけ合う勢いで搭乗員たちが行き来していたのだが、この九条と名乗る女性艦長が艦内放送を始めると誰もがその場で足を止める。息を殺す様に静寂を作り上げ、これから達せられるであろう命令に耳を傾け始めていた。


『我々は予定通りこのまま日本海を南下、佐渡島近海にて【弐号作戦】を実施する。電探員による情報集積の結果、この別日本は乙型日本であり民主主義国家である事から、安全保障国も交えての苛烈な戦闘が予想される。よって只今をもって九条赤軍大佐の名で第二級戦闘態勢を発令、作戦にあたっては同志諸君の奮闘を期待する、以上! 』


 九条艦長が高らかに戦闘態勢命令を告げ終えた途端、機内は再び喧騒に包まれた。

 軍靴を鳴らして走る者、階段の手すりに手を添えて滑り落ちる者など、各々が自分の部署にたどり着こうとして必死である。


 そしてここ、今ほど九条艦長が「巡空艦あさま」を名乗って放送を始めた艦橋も、他の部署と同じく騒然とした空気が流れていた。


「隠密偽装航法用意」

「隠密偽装航法ヨーソロー、主機関から魔力回路へ切り替え準備! 」

「こちら艦橋より魔力室へ、マニ車1と2回転始めえ」

『こちら魔力室、マニ車1と2、回転開始! 』

「マニ車正常回転を確認、主機関との切り替えまで十秒」

「補助マニ車回転開始、防電探措置始めえ! 」

「防電探措置ヨーソロー! 」


 マニ車 (くるま・ぐるま・しゃ)とは、チベット仏教などで使われる仏具の事で、円筒形の仏具の表面にびっしりとマントラ(真言)が刻まれた経典それを一度回転させれば、マントラを唱え功徳を得るとされるもの。


 この、別の日本から来たらしき不審な大型航空機は、通常の工業エンジン出力に加えて、このマニ車を高速回転させる事で得る何かしら魔力の様なエネルギーを制御出来るテクノロジーを持っているようだ。


 そしてこの謎のエネルギーによる静かな飛行と、坊電探措置……つまりはステルス装置が安定して働いた事で、改めて機内各所に据え付けられたスピーカーから電子音のブザーと共に九条艦長の新たな指令が下る。


『傾聴、傾聴! こちら巡空艦あさま艦長、九条より同志諸君らに達する。グリニッジ標準時間と別日本の標準時間が判明した。ただ今は夜のマル・ニー・ヒト・ハチ! マル・ニー・サン・マルをもって時計合わせを行い、弐号作戦開始にあたっての秒読みを開始する。陸戦隊および重装機甲歩兵小隊は降下準備を開始せよ! 』


 巡空艦あさまの艦長九条大佐は(かたわら)に艦内通信の送受信機を置き、口元に手を当て何やら物思いに耽るような表情を作りながらも、きわめて厳しい瞳を窓の外へと向ける。

 初めて降り立ったこの世界での作戦の成否について思いを馳せているのか、その雰囲気までもがひどく険しく、艦橋にいる他の乗組員たちが気を遣って目も合わせない程だ。


 だが、搭乗員たちが窮屈そうにシートに埋もれながら与えられた作業に没頭している中、ひときわパリッと軍服を着こなしつつ左袖に赤い腕章をはめた男性が壁際に立っている。

 私は選ばれた人間だとでも言いたいのか、ひどく皮肉めいた笑みを口元に浮かべつつ、他人事のようにこの喧騒をみつめていた。

 しかし何かしら気付いた事があるのか、その男は壁から背中を剥がして歩き出す。ピリピリしたままの九条艦長に対して会話を要求したのだ。


「同志艦長いかがしました? ひどく悩んでいるように見えますが」

「政治将校殿か。悩んではおらぬ、この別日本……民主主義国家日本の即応力はいかなるものかと、思いを馳せていた」


 どうやらこのインテリを気取る男性軍人は九条艦長麾下の航空戦隊に所属する軍人ではなく、思想的な管理を目的として国家から派遣された政治将校のようだ。


「国家保安委員会の情報では、この別日本のある世界にはまだ【ギフト】の存在は無いと聞いています。つまりは、マニ車……プレイヤー・ウィールを利用した魔力装置は開発されていない。それでもあなたは心配だと? 」


 攻撃的な笑みを浮かべながら九条艦長の“憂い”を責める政治将校。この問答を通じて九条艦長のネガティブな部分を探り、国家運営の今後について必要な人物か不要な人物か計っているのである。

 もちろん不要だと判断されてしまえば、言い訳が一切通じないまま強制収容所送りとなり、誰もが彼女の消息を掴めないまま土の中で冷たくなるだけである。

 九条艦長もこの厄介な政治将校の存在を苦々しく感じ疎んじながらも、さりとて手荒な扱いも出来ない辛さを腹の底にしまい込み、模範解答で会話を打ち切ろうとする。


「政治将校殿、深読みの必要は無い。我ら英雄戦隊は一気呵成に進んで弐号作戦を成功させるのみであり、それが我々の存在意義だ。そして本隊が無事たどり着けるように、赤い絨毯を敷いてやるよ」


 ーーこの「巡空艦あさま」はステルス機能を駆使して既に日本の領空奥深くへと侵入している。

 自衛隊のレーダーに一切引っかからないまま、佐渡島沖そして城ノ岬市沖合いに非常に近い場所まで接近していたのだ。



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