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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 作戦名「ブギーマン」 編
45/72

45 榎本艦長の考察


「方位六十五度、俯角十八度に水圧弾三発! 攻撃来ます! 」

「最大戦速! 面舵六十五度、俯角十八度に転舵! 水圧弾に正対するぞ 」


『艦橋了解、最大戦速おもーかーじっ! 』


「魔装アクティブアーマー起動、船首に展開しろ! 」

「魔装アクティブアーマー起動了解! こちらCICより魔装砲雷科に通達、最大質量で船首にアクティブアーマーを展開せよ! 」


『魔装砲雷科了解、アクティブアーマー船首に展開します! 』


「上部主砲、下部主砲に射撃応戦命令! 目標、接近する水圧弾三発! 砲術士官の任意で射撃開始! 」

「砲術科了解! 上部主砲、下部主砲に応射命令! 目標、接近する水圧弾三発、弾種榴弾、近接信管二十メートルに調整! ……いくぞ、撃ちーかたはじめーっ! 」


 ドンドンドンドン!


 神州の船内に響き渡る主砲の轟音

 敵リバティ・ギアのヘラと戦闘を開始して二時間、巡空艦神州の船内は戦闘指揮所だけでなく各部署が喧騒と怒号に包まれている。


 ヘラに接近した巡空艦神州、そして神州の後続に配置された海上自衛隊の護衛艦隊に対して、ヘラは人知を超えた恐るべき方法で迎撃を加えて来たのだ。


 直径十八キロメートル四方の巨大な身体は、その全てが重力で集められた水であると言う情報が智也からもたらされていたが、その水全てが敵に対する武器に切り替わったのである。

 スフィダンテのダミーを搭載してヘラの中枢に近付こうとする神州に襲いかかったのは直径十メートルほどの「水の球」

 単なる水の玉であるならば、それが命中したとしてもただ濡れるだけの子供の遊びのような代物であるのだが、その水の球は恐るべき効力を発揮したのである。


 ーー水の球の本性は、重力を使って極限まで圧縮された超高圧の球体。直径十メートルの鉄球が勢いよく飛んで来るようなものなのだ。


 更に、この硬質の球体にはタチの悪いギミックが存在しており、たとえ直撃を避けたとしても安心出来ない仕組みが組み込まれていた。至近距離に近付くと圧力を自動的に解放するのか大爆発を起こすのである。

 空気の破裂とは質が違い、極限まで圧縮された水が元の体積に戻ろうとする力は凄まじく、神州の装甲をいとも簡単にヘコませてしまうのだ。

 また、神州がしゃかりきになってこの『水圧弾』の猛火を潜り抜けてヘラ中枢に接近しようとすると、今度はその水圧弾から細い水の柱が勢いよく吹き出して、バリバリと神州の装甲を切り刻むのである。

 水圧弾の一点に穴を開けたのか、圧縮されていた水が高圧で吹き出すそれは、硬い金属をも軽々と切断する工業用高圧ウォーターカッターそのものなのである。


 水を利用した攻撃方法を駆使し、尚且つ無限とも言って良い大量の水を抱えるヘラはまさに無敵。未だ神州と第3護衛隊は中枢にたどり着くどころか外縁で進撃と後退を繰り返すのが精一杯であった。


 ーーだがそれで良かった。あと五時間も粘らなくてはならないものの、ヘラがその場を動かない限り逆転のチャンスがあるのだからーー



「水圧弾ニ機撃墜を確認……一機すり抜けました! 水圧弾来ます! 」

「取り舵二十度、魔装アクティブアーマー右舷に展開! 」


 緊張感に支配された神州の戦闘指揮所では、戦術長である徳永少佐の怒声が止む事は無く、老齢の彼が一切気落ちしていない様は不退転を胸に秘めた鬼神のように見える。

 そして徳永少佐と対照的なのは隣に座る榎本艦長。戦端が切られてから一切の命令も発しないまま、腕を組んでシートに深く腰を据えている。もちろん戦闘分野では戦術長の提案を了承するのが彼の立場であるのだが、徳永少佐の命令下達に口を挟まないあたりは完全に任せた状態と言って良い。


 それだけ徳永少佐を信頼していると言う証でもあるのだが、榎本艦長はこのヘラとの欺瞞戦闘を俯瞰で眺めながらも塾考を重ね、リバティ・ギア・ヘラタイプの本質を見極めようとしていたのである。



「水圧弾直撃回避、右に逸れます! 」

「アクティブアーマー全開にさせろ、切り刻まれるぞ! 」


 ギャリギャリギャリ! と金属が引き千切られる音と共に、船体が激しく上下に揺れる。何かに捕まっていないて転んでしまいそうな揺れはまるで、直下型地震でも起きたような激しさだ。


「水圧弾接触、船体右舷前方に被弾しました! 」

「ダメージレポート! 」


『こちら船務科より報告! 右舷装甲部と船首圧力隔壁に異常音、ダメージコントロール願います! 』


「ダメコン班、A区画カタパルトデッキ下に急行! 」


 巨大ウォーターカッターの被害を被った神州は騒然となるも、徳永少佐がダメージコントロール(緊急補修)班を向けた事と被害自体が軽微であった事で落ち着きを取り戻す。


 ちょうどその時だ

 ヘラが次の行動として再び水圧弾の射撃を開始するであろう頃合いに、それまで口を開こうとしなかった榎本艦長がカッと目を見開き、徳永少佐に顔を向けたのだ。


「徳永さん、そろそろ一旦退こう」

「体制を立て直しますか? 」


 徳永はそう返すものの、正直言って立て直す体制など無い。

 神州も護衛艦隊もジリ貧の攻防を続けているだけで、朗報としてもたらされたアメリカ太平洋艦隊第5空母打撃群が参戦にはまだ二時間もの時間がかかるからだ。

 一筋の光明すらも見えないのに、それでも徳永が聞き返したのには理由がある。ーー榎本艦長は何か閃いたなと言う確信を抱いたのだ


「攻撃内容を変更しよう、護衛艦隊とも連携したいんだ」


 (やはり閃いたな)


 榎本艦長の言葉に目を輝かせた徳永少佐は、しばし時間をと言った後に各部に後退の指示を出す。


「徳永さん、ずっと合点がいかなくて考えてたんだが今納得出来た……ヘラは潜水艦だ」

「ヘラが潜水艦ですか? この水のバケモノが? 」

「ヘラの本体はあくまでも犀潟君が言っていたあの中核で、水は潜るための海なんだ」


 ーーヘラがどうやって敵を察知するのかは二点ある。一つは魔力紋、神州や偽装スフィダンテの魔力紋を判別して攻撃して来るよね。それは納得出来るんだけど、ならば何故洋上の護衛艦隊に精密射撃が出来る? 海上自衛隊の護衛艦にはプレイヤーウィールなど乗っていないのに。

 つまりヘラは魔力紋を識別する目と、それ以外のセンサーがあるはずだ。戦闘が始まって直ぐに身を隠したが、ヘラの中心にあった女神像の中核が密接に関係しているのだと思う。

 「リバティ・ギア・ヘラタイプは潜水艦」……人工的な深海に潜みながら、我々や護衛艦隊を魔力紋と音で認識しているんじゃないか?



「なるほど、何故あれだけの武器を装備しながら無差別飽和攻撃をして来ないのか、私も疑問には思っていました。対潜水艦戦闘をイメージすれば良いのですな」

「そうだね、いずれにしても深海に到達する武装を我々は持ってはいないが、限界深度で起爆して嫌がらせは出来る」

「護衛艦隊にも通達しましょう。アスロック対潜ミサイルやハープーンミサイルで圧壊深度を試すのではなく、派手に爆発させて敵の神経を逆撫でしてくれと」


 真っ白な口髭に囲まれた口が不敵な笑みを浮かべる。

 スフィダンテが現れるまでの欺瞞戦闘ではあるものの、このままやられっ放しでは面白くないと考えていたのか、徳永の表情からは痛快さが溢れている。


 榎本は苦笑しながら「頼みます」と一言発しただけで再びシートに腰を埋める。


 十時に戦闘が開始されて二時間が経過

 アメリカ太平洋艦隊が山形県沖から参戦するのは二時間後の十四時

 そしてスフィダンテがヘラの中枢目掛けて次元境界跳躍を行うのが推定十七時……


 ヘラとの直接戦闘もさる事ながら、スフィダンテが現れる事を全面的に信じた上で、アメリカ太平洋艦隊と海自の護衛艦隊が津波の安全圏まで退避出来るよう、タイミングを見計らうべき局面をも模索し続ける榎本であった。



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