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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 作戦名「ブギーマン」 編
41/72

41 クローゼットに潜むもの


 リバティ・ギア・ヘラタイプの契約者であるエリーズと会談を終えた犀潟智也は、スフィダンテを駆り一路巡空艦神州へと戻った。

 そして強行偵察を中断して待機状態となっていた神州はスフィダンテを回収し、一時的にヘラから二十キロほど遠ざかって停止する。

 偵察行動を中断してまで洋上待機していたのはひとえに智也を待つ為、ヘラの膨大な情報を持って帰って来るのを待つためだ。



 時間は日没後の二十時

 神州の士官及び各部署の責任者一同はブリーフィング・ルームに集められる。ブリーフィング・ルームに集められると言う事は乗組員たちに新たな作戦が提示される事を意味し、それが強行偵察の終わりを意味しているのは明らか。


 ーー完全なる作戦中止なのか、それともあの巨大なリバティ・ギアに闘いを挑むのかーー

 その場にいた誰もが艦長と戦術長の入室を静かに待っていた。


「総員起立! 艦長が入室、艦長に敬礼! 」


 岸田副長の凛とした声が室内に轟く。


 いよいよ始まる作戦説明を前に、整然と立ち上がった乗組員たちであったが、そこで軽い違和感に襲われた。

 本来ならブリーフィングの際に入室して来るのは榎本艦長と戦術長の徳永少佐二人だけのはずなのだが、今回に限り二人の後に続いて入室した者たちがいたのだ。

 それは神州の純粋な乗組員ではなく、本政府側から派遣された鴻巣参事官と永谷三等空佐。そして最後尾には犀潟智也の姿があったのだ。


「予想外の状況で強行偵察を中断したが、結論としては敵リバティ・ギアを排除する事に変更は無い。強行偵察作戦は終了とし、反攻作戦に出る。徳永少佐、前へ……」


 艦長に促され戦術長が前へ出る。

 手元のファイルを開くのだが、作戦概要全てが完璧に頭に入っているのかチラリとも見ようとしない。


「敵リバティ・ギアから通告があったように、あと十二時間後に敵の上陸部隊が佐渡ヶ島沖のレアアース採掘基地の占領作戦を開始する。それをもって本艦及び日本国自衛隊との合同作戦を開始する! 」


 徳永少佐が職員の一人に合図を送ると、ブリーフィング・ルームの灯り全てが消されて背後のスクリーンに日本海の地図が投射される。

 新潟県の上越市そして城ノ岬市沖に浮かぶ佐渡ヶ島、そしてその近海にマークされたレアアース採掘基地。それらを基本として状況説明を始めた徳永少佐は、その後映し出されるヘラの姿や神州の現在位置、能登半島沖を通過して接近しつつある、海上自衛隊の護衛艦隊などの表示に従い説明を重ねて行く。


「スフィダンテが持ち帰った貴重な情報でヘラタイプの全貌が掴めた! ヘラタイプの巨大な質量体の正体とは液体、水である! 」


 (えっ、あれは全て水なの? )

 その場にいた乗組員全てがそう感じて驚きを表情に見せていたのだが、それに付随する説明を始めた徳永の言葉にどよめきが起こる。


「つまりヘラタイプとは重力を操る魔法を備えたリバティ・ギアである。本体は高さ一キロ、幅二キロのスズメバチの巣のような円盤が重なった金属体だが、それを守るように幅十八キロ、高さ五キロの水で覆われている事になる。つまり小さな【水の惑星】だと認識してもらいたい! 」


 ーーそう、犀潟智也はエリーズからヘラの全貌を聞かされていたのである。それはつまりスフィダンテの全貌を教えた事にも繋がるのだがーー


 重力を自在に操り大量の水で自らを守るリバティ・ギア。ちょっとでもそれを脳内にイメージすれば、人知を超えた神の構造に驚嘆するのは当たり前である。


 横幅十八キロ、縦五キロの中心に本体があると言う事は、横九キロ、縦ニ・五キロの水圧がかかっている計算になる。つまりヘラの本体は水深九千メートルの圧力に守られた深海の奥底に潜んでいるのである。


「ヘラの構造を元に攻撃手段を策定してみたものの、本艦に搭載された主砲の砲弾が効果有りとは到底思えない。合同作戦として本艦に随行する自衛隊の護衛艦も同じである」


 徳永少佐は言う。京都の舞鶴を出港した第3護衛隊の「ひゅうが」「みょうこう」「あたご」「ふゆづき」の各護衛艦に搭載されたマーク魚雷やハープーン対艦ミサイルであっても、有効な打撃は与えられないはず。

 唯一空中から射出する神州の空雷(魚雷)だけがヘラの表面に着水して本体を目指して進行可能となるが、構造物の圧壊深度と言う問題があり水深九千メートル分の圧力に耐えられる訳が無く、現有兵装での攻撃は無駄に等しい。


「そこでだ、リバティ・ギア・スフィダンテの出番となる。我々と護衛艦隊が行うのはその陽動と考えてもらいたい! 」


 徳永は一度振り返り智也を見る

 何か言いたい事はあるかと視線を合わせたのだが、決意の色を瞳に浮かべた智也は無言でうなづいただけ。そのまま進行してくれと徳永を促した。


「スフィダンテは作戦開始と同時に次元境界跳躍を行い他次元へ移動し、ヘラの中核を狙って再度次元境界跳躍を敢行。ヘラ本体を内部から破壊する! 」


 ブリーフィング・ルームに集っていた者たち全ての視線が智也に注がれる。


「ヘラの情報を我々が入手したと同時に、スフィダンテの情報を敵も入手した。これを逆手にとって作戦を進める! 本艦が所有する空雷退避用デコイ(囮)一基にスフィダンテの魔力紋を入力。近接戦闘しか行えないスフィダンテを本艦が必死にヘラ中心上空に運んでいるように見せて、ヘラの注意をスフィダンテから逸らす偽装行動を取るのが本艦の役目だ」


 智也に注がれていた視線の大部分は再び徳永に向き直るも、いささかの視線は残っている。それはあまり行為的な視線ではなく「この少年で大丈夫なのか? 」と言う懐疑的な視線。

 彼らの出身である日本共和国において、異世界の犀潟智也がソ連側についた裏切り者で密告者であったのも起因しているのか、甚だ信じられないと言った顔。

 だが当の本人である智也は不穏な空気が漂っているのを肌で感じてはいても、あくまでも自分は自分だと無言で主張してそれを跳ね除けている。

 今までは人目に付かないようにコソコソと逃げ回っていたのだが、今回だけはヘラに対する思い入れが深いのか腹の据え方が違うのだ。


「スフィダンテが次元境界跳躍を行い、再度跳躍のための魔力エネルギーを充填させるのが約七時間! 我々にとっては地獄のような七時間になるがやり抜くぞ。私からは以上だ! 」


 徳永少佐ら作戦の詳細を説明し終わると、締めの一言をお願いするため振り向いて榎本艦長を見る。

 艦長は徳永と入れ替わるように乗組員たちの前に立った。


「本作戦は自衛隊との合同作戦であり、追ってアメリカ太平洋艦隊も増援として駆け付けてくれる大規模軍事行動となる。しかしその柱となるのは偽装行動を行い続ける本艦であり、敵にトドメを刺すスフィダンテだ。規律ある行動を厳となし、総員のより一層の奮戦に期待する」


「総員起立! 榎本艦長に敬礼! 」


 これで終わりだと判断したのか、頃合いを見計らった岸田副長の声が轟く。乗組員たちも電気的に立ち上がり敬礼するのだが、どうやら榎本艦長にはまだ話しておく事柄があったらしい。

 艦長は乗組員たちの敬礼に返礼しながらも、ニヤリと一瞬笑みを浮かべてこう言ったのだ。


「アメリカのおとぎ話にブギーマンと言うお化けがいる。知らぬ間に家に忍び込んで、クローゼットに隠れて子供の命を狙う悪魔、この世界ではゲームのキャラクターや映画にもなっているらしいね」


 急に何を言い出したのかと呆けた顔で艦長を見詰める一同。だがその言葉が何を意味するのかは、ひと呼吸置いた艦長の次の言葉で明らかになった。


「スフィダンテ搭乗者の犀潟君とさっき話してたらブギーマンの名前が出て来たんだ。だから今回の作戦名はブギーマンにしようと思う。たまにはカタカナの作戦名もカッコいいよな」


 「え〜! 」と言う困惑の空気が室内を包む。はっきりと否定も肯定もしないまさしく困惑の気配だ。


 なかなかサマになってるなと徳永はガハハと笑うが、智也はそれでも表情を和らげる事は無かった。

 彼は彼で自分を追い詰めながら深慮の淵で悩んでいたのである。


 ーー作戦は遂行する、断固として作戦を成功させヘラを叩く。だがエリーズだけは何とか助け出せないか と



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