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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 驚愕!要塞「ヘラ」襲来 編
38/72

38 智也とエリーズ 前編



 まるで夢の国のような世界ーー

 大理石の床に大理石の円柱、それらで造られた大広間は余計な物が一切置いておらず、真ん中に真っ白なテーブルクロスで仕上げられた長いテーブルセットがあるだけ。

 ギリシャ神話の舞台にいるかのような感覚に襲われた智也は、ぽわんと呆けた顔をしながら浮世離れした空間に身を置いている。


 テーブルの反対側にはヘラの契約者であるエリーズ・ド・アレクサンドリーヌ・ブルボンが佇み、年老いた執事が二人の前へと朝食を運んでいる。


「ふふ、どうした? 何を呆けている」

「いや、その……」

「あはは、フルコースの料理が運ばれて来るとでも思ったか? 」


 いくら美食の国フランスと言っても、朝から豪華なものを食べる訳がなかろうとエリーズは笑う。

 智也の目の前にある料理は、薄く輪切りにしたバゲットとバター、そしてジャムだけ。そして傍らにはカフェオレとフルーツジュースが出されているのだが、これは決して嫌がらせでも何でも無く、ごく当たり前のフランス人の朝食なのだそうだ。


「ジャムやバターをたっぷりバゲットに塗って、カフェオレに浸して食べるのだ。もちろんカフェオレにはたっぷり砂糖を入れるのだぞ」


 エリーズに言われた通り、そして彼女の見よう見まねでバゲットを口に運んだ智也は何とも言いがたいクシャクシャの顔になり、助けを求めるようにエリーズを見る。


「あ……甘い……です……」


 淑女としてのたしなみを忘れ腹を抱えて笑うエリーズは、ひとしきり笑った後に執事を呼び、若いサムライにオムレツを作ってやれと指示する。


「すまぬな、食文化の違いを考慮していなかった」

「気になさらないでください。世界は広いのだと、あらためて知りました」



 ーースフィダンテはヘラの懐に降り立った

 白金のように輝くヘラの上空を延々となぞるように飛び、本体中枢であるかのようにそびえる女神像のふもとに着地すると、執事を従えたエリーズが笑顔で彼を招き入れたのだ。


(まるで貴族のような口調の女性だった。必要以上に構える事は無いが、丁寧にね)


 そう言って送り出してくれた榎本艦長は、ワイシャツとネクタイを貸してくれた。


(約束事を侮辱するのかと怒られそうだが、全面的に信用するのは正直面白くない)


 心配してくれているのか、岸田副長は士官室奥にある武器庫に連れて行き銃を渡してくれたのだが、素人が持てば逆に危ないと固辞し、丸腰で智也はスフィダンテに乗った。


 ただ雑談に行くのではない

 友好関係を築くために行くのでもない

 これから闘うべき相手がどんな人物なのか知りたい、知識欲を満足させる、ただそれだけのために二人は顔を突き合わせて言葉を交わす。

 それが無意味だと分かってはいても、上半身黒こげになったアレスの搭乗者が未だに夢に出る智也にとっては、残酷ではあるが相手を知る貴重な体験であるのだ。


 互いの左手にあるポータルが自動翻訳してくれるおかけで、ほとんどタイムラグが無いままの会話が可能な中で、挨拶から始まり季節の話など他愛の無い会話が進められて行く。

 やがて智也がオムレツを食べ終わり食後のコーヒーが出された後、エリーズは穏やかな口調でこう切り出した。では主催者としての責任がある故に、妾から語ろうかーーと


 見た感じ自分とさほど歳の変わらないこの女性は、智也が学んだ世界史とは全く違う歴史を語り始め、自分がどんな環境で育ちどのような想いを描いているかを話した。


 エリーズの話によると、民衆によるフランス革命は失敗して荘園制貴族社会の『フランス王国』は第二次世界大戦まで続いていたのだそうだ。そして王国滅亡のきっかけはナチスドイツ。パリ陥落を機に王族や貴族たちはイギリスへ逃げ延びる事になる。

 そして他の多次元世界との分岐点とも言うべき歴史の転換点が、ナチスドイツは「独ソ不可侵条約」を守った事。西の連合国と東のソビエトに戦力を裂く二正面作戦を避け、ソビエトと友好関係を維持しながら西ヨーロッパ完全制覇を成し遂げたのだそうだ。


 ナチスドイツの国家社会主義に染まったヨーロッパ、東ユーラシアの共産主義国家ソビエトの二大大国。そしてドイツと三国同盟を結んだ大日本帝国とムッソリーニ率いるイタリアに世界は席巻され、北アメリカ大陸が民主主義の最後の砦として絶望的な戦いを繰り広げて今に至る。


「イギリスに亡命したものの、ものの数年でイギリスも陥落した。妾の祖父母たちはブリテン者たちに混ざって北アメリカに落ち延びたのだ」


 再度亡命した先のアメリカは決して豊かではなく、王族や貴族ともども荒れ地を開墾して自分たちの生活を守る事が精一杯。また、王国の者であるからか資本主義者たちに嫌われてな。「金の無い貴族などカカシにもならない」と、酷く肩身の狭い思いをしたそうだ。


「妾もな、生まれた時は親たちが本名を隠し、エリーズ・ブルと名乗っていた。その生活が劇的に変わったのが五年前だ」

「……リバティ・ギアとの契約ですか? 」


 穏やかにエリーズはうなづく


「小麦の収穫を手伝っていた時に現れたんだ、ポータルを持ったソビエト連邦のスパイがな」

「ソ連のスパイが持って来たのですか? 」

「民主主義アメリカの敵だからと言って、ナチスとソビエトが仲良しである訳が無い。敵の敵は味方であっても決して仲間ではないのだよ。ヘラのポータルを発見したその人物は、アメリカに密かに潜り込んで私にポータルを預けた。多次元世界に無数に存在するエリーズの中で、ナチスに対抗出来る者として妾を選んだのだよ」

「なるほど、だからエリーズ嬢はフランス王国再興のためにソ連側で戦っているのですね」


 エリーズは苦笑しながら「マドモアゼル」を省けと言う。ーー誰にも話した事の無い身の上話をしたのだ、だからエリーズと呼び捨てにしろと


「フランス王国の再興は妾の悲願である、だが決してそれに固執している訳でもない。今のこの状況にアンチテーゼのクサビを打ちたいのだ」



 ーー民主主義国家アメリカで生まれ育った妾だが、度を超えた資本主義は毒がキツくてかなわん。トモヤも見たり感じた事はないか? あの肥えて太った資本家たちの横暴を。

 一生かけて使っても使いきれないほどに金を稼いだクセに、それを懐にしまい込んだまま、やれ高級車だ別荘だ豪華クルーザーに自家用飛行機に愛人だと金の使い方が穢らわしくていかん。挙げ句の果てに酔狂だけで宇宙旅行だのと、開いた口も塞がらない。

 富める者は貧する者に施す義務がある、貴族世界では当たり前の事だ。妾なら社会で稼いだら社会に還元する義理を忘れないし、万人の富みを願う事それが貴族の務めだと思っている。そう言う国を作りたいのだよ。

 ひるがえってソビエト、労働者の楽園を謳ってはいるが見てみろ。雑草のスープとカビたパンしか食べられない楽園とは何か? 不平不満を言えば近隣住民からたちどころに密告され一家離散の強制収容所送りなど、もはやそれは楽園ではなく地獄だ。

 方や拝金主義の金地獄、方や思想で作られ思想を守るために国民を殺す地獄……そのどちらにも属さない王国があっても良いのではないか。


「ソ連は……お嫌いなんですか? 」

「好きな訳無かろう、ヘラを託してくれた恩に報いている事、フランス王国再興に協力してくれる事以外は大っ嫌いだ」


 苦虫を噛み潰したような顔で大っ嫌いだと言うものだから、つい微笑ましくなってクスリと笑う智也。彼女の高潔な意志に惹かれ始めていたのは間違いの無い事実だが、彼女の理想には盲点がある事も気付いた。

 うわべだけの会談ならばそれも腹の底にしまい込んだまま帰っても良かったのだが、彼女に共感を覚えたからこそ、不興を買ったとしてもそれでも聞き糺したいのだと思った智也は、神妙な顔つきで彼女に質問した。


「エリーズ、俺はあなたを尊敬します。人々に生きる希望をもたらす高潔な方として尊敬します。だから俺は質問せずにはいられない」

「遠慮なく申してみよ、妾は逃げる事無く答えよう」

「全ての貴族がエリーズのように聡明で美しいとは限らない、暗君が立った時は脆いのではないでしょうか? 」

「ふふっ、美しいは余計だな」

「すいません、つい……」


 まんざらでもなさそうに頬を軽く朱に染めて、悪戯っぽい瞳で智也を見るエリーズ。質問に即答せずに一旦間を開けて智也を見詰めたのは、美しいと褒められた以上の理由があった。それを含めて智也を熱く見たのだ。


「荘園制貴族主義、言い方を変えれば専制主義。これは頂点に立つ者の人格で万民が幸福か不幸か決まる。生まれながらの善王など存在しない故に、王たる者の教育を施すとしか答えられない。又は同じ理想を掲げた者たちが集うしかないとな」


 (つまりトモヤ・サイガタ、君を誘っているんだよ)


 この一言だけは口にしなかった。思っただけでグッと腹の中でこらえた。

 智也にしてみればエリーズは見た目も考えも魅力的な人物に見えたのであろうが、実はエリーズも智也を魅力的な人物として見ていたのだ。


「さて! これで妾の話は終わりだ。聞かせてくれトモヤ、君の話を! 」




 次回終章



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