表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 驚愕!要塞「ヘラ」襲来 編
36/72

36 二人の距離


 夜が終わり、空が白み始めてから朝日が東の地平線から昇るまでの時を“(あかつき)”と呼ぶ。一日の始まりを告げる力に満ちた静かな時間だ。

 進路を東に向けて強行偵察作戦を開始した巡空艦神州も、夜の闇に隠れていたその巨体を暁の白い空に晒しながら、やがて水平線から現れるであろう朝陽に向かってゆっくりと足を進めている。



 突如日本海の佐渡ヶ島沖に現れた巨大なリバティ・ギアに対して強行偵察を開始した神州は、第一戦速と言う最も遅い速度でジワジワと距離を詰めている。

 

 神州のデータベースによるとそのリバティ・ギアは日本共和国に対する直接的な実戦の過去が無かった事から情報量はあまりにも乏しいのだが、異世界ソ連軍に所属する『ヘラ』タイプである事は間違いなく、なおかつ異世界ソ連軍所属であるからして純軍事的な侵攻である事は明白。

 その巨大な身体で佐渡ヶ島沖にあるレアアース採掘基地を覆ってしまった事から、希少鉱物の奪取と当該地域の占領を目論んでいるのではと推察されていた。


 ・リバティ・ギア・ヘラ

 大福もちを上下に潰したかのような姿、もしくは焼いている途中に膨らんだ餅のような、凹凸も何も無いのっべりとした外観のリバティ・ギアは、東西南北に約十八キロにも広がる人知を超えた質量を誇る物体であり、それが何で出来ているのかすらさっぱり分かっていない。

 言うなれば、千代田区にあるJR東京駅から新宿駅を通過して、杉並区をもなお飛び越えた先にある三鷹市のJR三鷹駅に差し掛かるほどの巨体。

 何を主力武器としてどう言う迎撃行動を取って来るのかが全くの未知数である。


 だからこそ『最大戦速でヘラに最接近するような相手を刺激する行動は取らない』ーーこの言葉に全てが集約されている。


 猛スピードでヘラに接近すれば、ヘラの契約者も神州側が好戦的な姿勢であると判断してフルファイア……最大火力で迎撃を行なって来る可能性が高い。つまり神州の生存確率は極めて低くなる。

 そうであるならば、どうせ魔力紋や物理レーダーで早々と発見されてしまうだろうし、慌てて急接近するよりも堂々とゆっくり近付いてヘラの反応を伺った方が確実且つ安全に情報が手に入る。


 神州の榎本艦長と徳永戦術長は強行偵察を行うにあたって慎重な議論を重ねた結果、このような結論に至ったのである。



 いよいよ東の水平線が朱色に染まる

 水平線の更に向こう側も晴れ渡っているのか、先に昇り始めた太陽の光は赤く熱く、穏やかな秋と言うより厳しい残暑が見込まれる一日を予感させる。


 だが神州の内部は注意を促すためのランプが仄赤く点灯するだけの暗がりに支配されたままで、通路には引き交う乗組員の姿は見受けられない。

 不気味に静まり返っているのだが理由は明白、今は戦闘配置中であり戦闘航行中だからである。


 戦闘状況下が宣言されれば交代勤務は一時凍結されて全ての乗組員は所定の部所に配置される。

 艦内は全て区画ごとに戦闘時非常閉鎖とされ通路の往来も制限されるので、食堂に赴いて温かいご飯にありつこうなどもってのほか。ーー各部所に支給されている野戦携行食で済ませるのである。



 ここ神州の格納庫も、戦闘配置命令に従って整備班待機所とパイロット待機所以外は遮断され、どの区画とも往来が禁じられた一種の与圧区画となっている。

 しかし活発な人の声や動きなどは微塵も無く、静寂が漂う格納庫の中央にポツンと「(やしろ)モード」のスフィダンテが鎮座するのみ。

 出番を失ったスフィダンテと、乗組員居住区から逃げ出して来た犀潟智也だけがそこに存在したのだ。


 作戦には参加しないが、いざと言う時もあるーー智也はそう言って居住区の当直士官が止めるのも聞かず、格納庫でスフィダンテと一緒にいる事を頑なに主張してそれが認められたのであるが、あくまでもそれは方便。

 乗組員たちの間に漂う緊張感や緊迫した空気を感じつつ、その中にいながら何もしない・何も出来ない自分でいる事が嫌であったのと、「犀潟智也」として人前に出る事で好奇の視線に遭うのを極力避けるために逃げ出して来たのである。


「……時間は朝の五時か。失敗した、腹が減ってきた」


 ハッチが開いたままのコックピットに潜り込み、シートを深々と倒して横になるのだが眠れない。

 イライラを押し殺し、強引に目を閉じて眠ろうとするのだが、これから始まる闘いにどうしても気が行ってしまうのか、腹の底がチリチリと疼いてすぐ目を開ける

 ーー結局こんな事を繰り返している内に朝を迎えてしまったのである


 閉鎖されてるから食堂へはたどり着けない。たどり着いたとしても食堂自体が開いていない。つまりは食堂で朝飯にありつくのは無理として、居住区に戻るのは気がひける……


 軽い睡魔が襲っては来るものの、さりとて目を瞑ると眠れない。今度は腹の虫が鳴り始めるも空腹を満たす方法が見つからない。

 まさにイライラの境地とも言うべき状況なのだが、頭に来て吠えたり暴れて物に八つ当たりしなかったのは智也の人間性の成すところ。慌てたところで事態は好転しないと諦め、深いため息を吐き出して再びシートに横たわりコクピットの天井を見つめた。


「犀潟智也! いるんだろ? 」


 その時だ、整備班待機所の機密扉がガチャリと開いて智也を呼ぶ声が聞こえて来た。それは女性の声であり間違い無く真衣香の声。


「……あ、ああ。いるよ」

「降りて来い、渡したいものがある」


 アレス戦の後の一件以来、智也は真衣香とまともに話していない。元々真衣香は距離を取ったいたのだが、それ以上に智也が接触から逃げ回っていたのが原因でもある。


「居住区ダメコン担当の石原さんから連絡が来た。あんたに朝食渡してくれないかって」


 コクピットから降りた智也を前に、気恥ずかしそうに目を背けたままの真衣香が差し出したのは何やらビニール袋に梱包された両手サイズの長方形の物体だ。


「小松基地で自衛隊が支給してくれたんだけど、戦闘糧食二型って言うんだって」


 受け取った緑色のビニール袋の物体をマジマジと見詰めると、その中にはいくつかのプラスチック製の物体が入っており、「米飯(うるち米)」だの「ビーフシチュー」だのと表面にプリントがなされている。


「……これは? 」

「あんたの朝食よ。本来は丸ごとお湯で温めてから開封するらしいけど、今は冷たくても我慢してくれって」

「ああ、それはありがたいね。ありがとう、ゆっくり食べるよ」


 そう言って智也は振り返り、タラップを掴んで再びコックピットへ上がろうとする。


「……ねえ」

「うん? どうした」

「あんたさ、だいぶ参ってるって聞いたけど、大丈夫なの? 」


 いきなり核心を突かれたのか、ビクリと身体を震わせて動きを止める


 真衣香に激しい感情を吐露したあの日以降、智也は極力人と顔を合わせないようにしながら日々をしのいで来た。どうしても人と顔を合わせなければならない時は意識して笑顔を作って見せては乗り切って来た。


 だから智也が罪の意識を抱えている事を知っているのは真衣香だけであったし、その真衣香とも距離を置いていたからやがては風化するものと思っていたのだが……


「君に話したのはマーゴットさん……だね。他の人たちとは違ってあの人だけは気付いていたのかな。事あるごとに大丈夫かって心配そうに聞いて来てさ」

「戦争なの、殺し合いなのよ。あんたが殺さなきゃ逆に死んでたし、言い方変えれば正当防衛なのよ? 」


 かばってくれようとする気持ちを感じたのか、智也は弱々しく微笑み感謝しながら、それでも思うところがあるのか手のひらを見せて真衣香の主張を遮った。


「君がポータルを俺に渡してくれたのは本当に感謝してる。巻き込まれたとは思っていないし、俺が契約しなかったら両親や街の人々はことごとく死んでたよ」

「それなら、そこまで分かってるなら……! 」

「今はまだ、この日本は平和の中にいるんだよ」


 いきなり突拍子も無い事を言い出した智也を前に、何を言い返せば良いか全く分からない真衣香は「むう? 」と唸っておし黙る。いきなりポエムのような切り口を持ち出して来れば、結論まで黙って聞かざるを得なくなってしまったのである。



 ーー異世界のソ連軍が攻めて来た。敵のリバティ・ギアが現れたのもこれで二度目だ。確かに君の言う通りこれは戦争なのだろうし、既に戦争が始まっているのだと思う。だけどね、まだ日本人のほとんどはそれに気付かずに平和の中にいるんだよ。

 極力平和の中にいて欲しいと思うし、平和を維持したいと思う。だからこそアレスのパイロットを殺した俺は、脚光を浴びたりヒーローになっちゃいけないんだ。人殺しをしておいて胸を張っちゃいけないんだーー



「バカみたい! 影のヒーローを気取ってるみたいにも聞こえるわ。それでもし、あんたが頑張って人々が平和のままで終わったら、あんたが一人だけ損するようなものじゃ……! 」


 真衣香は言い終わらない内に気付いた。

 この人は本気でそれを願い、他人の血で人々が手を汚して苦しむよりも、いっそのこと自分が全ての罪を被る……その覚悟を決めたのだと。


「俺は闘うよ、この世界を守るためだけにね」

「……器用貧乏」

「えっ、何? 何か言ったか」

「器用貧乏って言ったの! 鈍感で良いところと神経質にならなきゃいけないとこ、まるであんたはあべこべじゃない! 」

「そっか器用貧乏か、そうかもな」


 顔を真っ赤にして憤る真衣香に対し、情け無い笑いで返す智也。

 二人の関係も多少の距離は縮まったかに思えたのだが、そんな雰囲気を突如ぶち壊すように、格納庫のスピーカーが大音量で鳴り響いた。智也に対しての突然の呼び出しである。



『こちら戦闘指揮所、戦術長の徳永より緊急呼び出し! スフィダンテ搭乗員、犀潟智也は至急戦闘指揮所へ出頭せよ! 繰り返す、犀潟智也は至急戦闘指揮所へ出頭せよ! 』




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ