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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 驚愕!要塞「ヘラ」襲来 編
32/72

32 貴族として……


 夏も終わりが近づいた日本海・佐渡ヶ島沖合い。

 夏の太陽はその力を衰えさせる事無く海原へと熱を注ぎ、波立つ様が眩いばかりに輝くそれは、生命の源を実感させる趣きがある。


 時間は昼を越えた頃。

 太陽が天井から西へ微かに傾き、涼やかな風が海面の鼻につくような湿気を洗い流し始める「秋の予感」を迎えた頃、この海原一帯に突如異変が訪れた。

 テレビのチャンネルを変えた時のように、軽々しくもパッと太陽の恩恵が失われてしまい、夜に切り替わってしまったのだ。


 夜に切り替わると言うのも大袈裟な表現かも知れないがこれぞまさしく夜。北を見ても南を見ても……四方八方ぐるりと見回しても辺りは真っ暗で、まるで完全なる皆既日食が起こったかのように闇に閉ざされてしまったのだ。


 何の訪れもなく突如始まったこの「夜」だが、一般的に言われる夜・闇夜とは趣きが違う。夜空に煌めく星々が見えないと言う理由もさる事ながら、遥か地平線まで伸びる低い天井が確認出来るのだ。ーーつまり突然夜と化した海域は全て、何かが覆い被さっていたのである。



 それは北の水平線から南の水平線まで、西の水平線から東の水平線まで……つまり海面から人の視線で眺めた先の水平線は約5キロメートルある事から、半径5キロ、直径で10キロメートル以上もある巨大な物体がいきなり現れた事になる。

 まるで一つの街とでも言いたげなそれは、底面が直線で上部はゆるやかに先頭から後方へ盛り上がる形をした、パソコンのマウスコントローラのような流線型の物体。ーーこれが佐渡ヶ島沖を夜に変えてしまった現象の正体。


 「ぬるん」とした質感しか無い、鈍く輝く紺碧の表面は、一切の継ぎ目が無く完全なる一体成形の物体である事を想像させる。現代社会の工業力ではあり得ない巨大な物体。神の奇跡を具現化したような荘厳なる『未確認飛行物体』が突如現れたのである。


 まるでさやから剥いた枝豆のようにつるんとした質感のその物体。頂点に視点を合わせて瞳を凝らすと、何やら高さ三十メートルほどの人の形が確認出来る。ーー物体の頂点に裸の上半身を晒す女性の見事な彫像、それがこの超巨大物体の名を表すモチーフなのであろうが、視点はその彫像の腰の部分へと自然に固定される。

 大きな窓ガラスが三百六十五度ぐるりと巡るその内側に目を凝らすと、白いドレスを着たうら若き女性の姿が見えるのである。


 中世の貴族の館、毎夜舞踏会が開かれるかのような豪奢な大広間の中央、玉座のような格式高い固定の椅子に座るその女性は、どうやらこの物体の支配者である事が伺えた。


「……エリーズ様、お茶をお持ち致しました」


 この物体の操縦席と呼ぶべきなのかも知れないが、操縦桿もモニターも計器類すらも無い簡素で豪華な玉座の背後から壮年の男性が声をかける。

 両手で大事そうにティーセットを持ち、この大広間後方の階段を上がって来たのはどうやら、このエリーズと呼ばれた少女に付く執事のようである。


「ご苦労様、マルセル」


 柔らかな笑みで執事を迎えたエリーズは、玉座で足を組み直してリラックス。玉座の横に据えられたテーブルの上で、執事の淹れる紅茶の香りが心地良く鼻腔をくすぐるのか、頬を緩めて上機嫌。


「インドのシッキム産オレンジ・ペコーにございます」


 差し出されたティーカップをソーサーごと受け取り、エリーズは芳醇な湯気に自らの鼻をくぐらせる。


「うむ、これは美味そうだ。ブリテン者からの贈り物とは大違いだな」

「昨日は大変失礼致しました」

「気に病むでない。頂いた以上一度は味わっておかないと、後で的確な礼が言えぬ。」


 ーーそれがたとえクソ不味くてもな


 エリーズは執事のマルセルに向かい意地悪そうな笑顔でウィンク。紅茶を軽く一口飲んで「はあ」と満足げなため息を吐いてリラックスすると、ここに至るまでの緊張を解いたようだ。


「無事、成功にございますね? 」

「ああ、ご覧の通り指示された世界にはたどり着いた。祖国より空気は良さそうだな」


 一旦ティーカップをテーブルに置き、華奢な両手をプルプルと震わせながら背伸びするエリーズ。


 直立不動で主人の様子を伺うマルセルは、次元境界跳躍に成功した事で『下の階の住人たち』から頼まれていた件を渋々と切り出したーーエリーズに是非伝えて欲しいと懇願された同乗者たちの伝言をだ


「僭越ながら申し上げます。先程マクシモヴィッチ大尉がお見えになられまして、是非エリーズ様にお伝えして欲しいと伝言を受けたまわりました」

「あははは、彼奴(きやつ)ら私が面会に応じないから痺れを切らして騒ぎ始めたか。マルセル、損な役割りをさせて悪かった。遠慮なく申してみよ」

「恐縮にございます」


 うやうやしくこうべを垂れ、マルセルは伝えて欲しいと言われた内容を一字一句間違わずに話し始めた。


 ーー次元境界跳躍の成功と、今後の戦勝祈願をもって【ヘラ】の大広間にてパーティを開催したい。これは政治局のマクシモヴィッチ単独の願いではなく、レニングラード軍管区・第138独立親衛自動化狙撃旅団ヤクトヴィチ少将と、第2独立特殊任務団スペツナズのニエストル大佐の同意に基づいた願いである



 そう、この直径十八キロに渡る巨大な質量体、街を飲み込むほどの物体こそが『リバティ・ギア・ヘラタイプ』であり、多数のソ連軍の兵器と兵士たちを積み込んで、我々のいる世界にジャンプして来たのである。

 そして次元境界跳躍を終えて本格的な任務が始まる前に、このヘラの契約者であるエリーズに対して、前夜祭としてのパーティ開催を求めて来たのだ。


 だがエリーズは苦笑いを向けながら却下だなと簡単に切り捨てる。


 エリーズに取り入ろうと企むのか、それとも単なる気晴らしなのか、ソ連兵士側にどんな思惑があるのかまでは分からんがここはホテルじゃないと一蹴したのだ。


 そして間に入ったマルセルの立場が悪くならないようにと、私が直接話すから政治将校のマクシモヴィッチ大尉を後で呼べと指示しながら、エリーズはその理由を語り始めた。ーーまるでマルセルお前だけは私の味方だよなと言いたげに


「マルセルよ、私はソ連が大嫌いなのだよ 」

「はい、かねてよりエリーズ様がそう仰るのは耳にしております」

「うむ。一端の兵士たちには罪は無く、労働者の天国が本当であるならば、それについても文句は言わぬ。ただな、私はあのマクシモヴィッチのような労働貴族がどうにも腹が立ってしょうがない。彼奴らは口は動くが身体は動かん、労働者ではないではないか」


 マルセルは沈黙している

 エリーズの独白に対して異論を唱える立場でない事は重々承知しているし、社交界で“氷の貴婦人”と呼ばれるエリーズがマルセルだけに心情を吐露してくれるのは執事としての誉れである。


戦場(いくさば)でもどこでも、貴族は常に先頭に立たねばならぬ、たとえそれが命を落とす危険がはらんでいたとしてもだ。それが平民に対する貴族の責任であり、高貴なる者が高貴でいるための矜持である」



 ーー主義主張の違いは分かる、それを受け入れずとも理解せぬほど(わらわ)は狭量ではない。エリーズ・ド・アレクサンドリーヌ・ブルボンはソ連と言う国、共産主義と言う思想に理解を示した上でこう嫌悪する。……労働貴族どもよ、銃後でぬくぬくと飯を喰らい酒を浴び、平民たちを死地に誘う貴様らはクズだと。だから妾は政治将校のマクシモヴィッチを心の底から嫌悪する、虎の威を借るネズミ風情、プロパガンダの人形がぬけぬけと人の言葉を喋るなとーー



「……そうだな、実動部隊の将校たちには食料庫を解放して好きにやらせよう。それなら奴の顔も立つだろう」

「よろしいのですか? 」

「ふふふ、このヘラの備蓄量をあなどるなよ。一万三千の兵が十年間寝泊まりしても食糧は尽きぬ」

「承知致しました。それではマクシモヴィッチ大尉をお呼び致します」


 深々とお辞儀をし、後方の階段に向かって歩き出したマルセル。

 そして何か言い足りなかったのか、エリーズは玉座に座ったまま彼の名を呼ぶ。


「マルセル、くれぐれも言っておくが、妾とこの女王ヘラはソ連軍の所属ではない。ナチスドイツ排除にソ連が協力してくれたから妾も協力している」

「はい、承知しております」

「妾が目指すはただ一つ、ブルボン家の再興である。ブルボン朝を復活させてルイの名を持つ者をこの世に誕生させるべく、このエリーズがいる事を忘れるなよ」

「おおせのままに」


 執事が去り、大広間にはエリーズが一人玉座に座るだけ。

 視線は外の真っ青な空を眺めるだけなのだが、表情は巌そのもの。これから始めようとする戦乱に思いを馳せ、氷の貴婦人の瞳からは苛烈な熱気が溢れていたのである。



 『リバティ・ギア・ヘラ』

 ギリシア神話に登場する最高位の女神で、オリンポス十二神の一柱。

 ソビエト連邦は神々の女王を第二の刺客として送り込んで来た。生まれたばかりのスフィダンテと巡空艦神州に対して、絶対女王をぶつけて来たのである。



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