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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 驚愕!要塞「ヘラ」襲来 編
31/72

31 不吉の訪れ


「あはははは! これは無理だな」と、パソコンの画面を見ながら峯岸三等空佐は笑う。


 憮然とする智也を尻目に爆笑する峯岸三等空佐とは、航空自衛隊の装備を開発する研究者である。


 この航空自衛隊岐阜基地に配備された飛行開発実験団の上部組織である、東京都府中市にある航空開発実験集団から直々に派遣された研究者。

 プレイヤー・ウィールそのものの研究と独自開発を行う、防衛省の直属組織である技術研究本部から派遣されたのではなく、制服組の技術開発担当官たちとは一線を引いた、プレイヤー・ウィールを防衛装備品に組み込む道筋を立てる「現場に近い」研究者である。


 峯岸三等空佐は巡空艦神州のプレイヤー・ウィール研究には充たらず、スフィダンテのプレイヤー・ウィール研究とそれに伴う武装化の任務が充てられており、技術・整備面ではなく研究分野において智也と一番近しい関係であると言えた。


 神州艦内ではなく、リトルナガサキの民間立ち入り禁止区域でもなく、岐阜基地内に割り当てられた峯岸三等空佐専用のオフィス内。理知的なメガネを湯気で曇らせるかの勢いで、峯岸はカラカラと笑い続けている。


 事の発端は智也から峯岸への打診で始まる。ーー『スフィダンテに近代兵器の武装をしたい。電源ならある』と


 リトルナガサキと神州が停泊するエリアは超国家機密であり、いくら研究者であってもそう簡単に行き来する訳にはいかない。

 峯岸は一台のノートパソコンを智也に渡して自身のノートパソコンと繋ぎ、外界と遮断した形の独自回線を開いてやり取りを始めたのだ。


 ーースフィダンテのプレイヤー・ウィールに上書き保存された新たな能力、リバティ・ギア・アレスから継承した発電の魔法を利用し、「こちら側の世界の」近代武装を施したいーー


 遠距離から敵を攻撃出来るようにしたいから、護衛艦の砲台を担げないかと智也は提案して来たのである。

 智也の提案に沿うようにと、峯岸は自身の別のパソコンにスフィダンテのデータと護衛艦の砲台のデータを入力して設計図を作成し、CGグラフィックとしての視覚化に成功。

 そしてまさしく今、パソコンのカメラを使って覗き込む智也の目の前で、砲台を搭載したCGのスフィダンテが動き出して……峯岸が爆笑したのである。


 結果は惨憺たるもので、起動スタートを押した途端にスフィダンテは空を向いて後方にズデンと倒れ込んでしまったのだ。

 重心位置が悪いのではないかと智也の悔しさが滲み出た物言いが付き、今度は前傾姿勢でスタートさせると、前のめりに倒れ込んで両手を地面に付いたまま行動不能になってしまったのである。


 “まるで妖怪子泣きジジイの被害者じゃないですか”


 この智也の何気ない一言がトドメとなって、クールで知性が溢れていると女性隊士にも定評のある峯岸のツボを刺激したんのだ。


「……いやはや、智也君笑い過ぎて失礼した。これはまあ、見て分かる通り無理かも知れないよ」


『無理なんでしょうね……見る限り』


「一応ね、平均的な護衛艦の砲台としてスフィダンテの背中に付けたのは、オート・メラーラ127ミリ砲と言って、イタリアのオート・メラーラ社製の艦載砲で、砲塔部分、直下の即応弾ドラムマガジン、ドラムマガジンへの砲弾装填ホイストエレベーターと管制室で合計で約四十トンある代物なんだ。管制室を取ったところで変わらないと思うよ」


『アニメのように上手くはいかないか……』


「いくらスフィダンテの全高が五十メートルを超えた巨大ロボットだとしても、僕が見る限り人間工学に基づいた二足歩行の人型ロボットなんだよね。重量物を背負わせるべきではないな」


『地上歩行じゃなくて飛行中ならどうです? このまま行けませんか? 』


「砲身が右の肩口から真正面を向く形になってるよね、多分身体の重心が右に偏ってるはずだから、撃つ度に反動で身体の軸が時計回りに動く。多分空中で連射始めるときりもみ状態になってNGだね」


『艦砲ダメかあ……。つか峯岸さん、分かってて付き合ってくれた感があるんですが、もしかして……』


「あはは、悪い悪い。こうなるだろうとは思ってたけど、発想は悪くないと思ったんだ」


 デスクの脇に置いてあったスチール製のマグカップを掴んで、室内と同じくらいに冷めてしまったコーヒーをゴクリゴクリと喉に通して乾いた口を潤わせた峯岸は、次の発言を静かに待っている智也の素直さに微笑みながら、中断していた説明を再開した。


「スフィダンテの身体に固定砲台を付けるんじゃなくて、アサルトライフルのように手持ち武器にするのはどうかな? 従来のガス圧廃莢式じゃなくてチェーンガンのような電機作動式のさ」


『手持ち武器ですか……威力はもちろん艦砲より劣るんですよね』


「そりゃあね、威力と射程距離は間違いなく落ちるよ。でもプレイヤー・ウィールの独自開発が始まれば魔装弾の実装だって夢じゃない」


『ああっ、なるほど! それがあったか』


「魔装弾だけじゃない。技術が進歩して電磁投射砲の小型化に成功すれば、大出力の電力供給によるレールガン・ライフルだって可能になる」


『悪くない話です。長距離攻撃は難しいとしても、接近戦しかない現状の打破にはなりますね』


「そうだね、オプション武器の可能性として僕も研究を続けよう。それと、オート・メラーラとは行かないまでも対空用のバルカンファランクスなら小型だから、スフィダンテに積めるんじゃないかって今閃いたんだ」


『ば、バルカン……ファランクス? 』


「高性能20ミリ機関砲、つまり束ねた筒がグルグル回りながら弾丸を発射するバルカン砲の事だよ。護衛艦などに搭載されていて敵のミサイル攻撃などを水際で防ぐ最後の砦。CIWS(シウス)と言う名の近接防御火器システムにしてスフィダンテに乗せれば、君がいちいち目標を狙わなくても自動的に守ってくれる」


 ーーもう痛い思いをしなくて良い、それに近代装備が俺を守ってくれる。何て甘い響きなんだーー


 表情には現れてはいないものの、可能性を示した峯岸の言葉に酔う智也。

 峯岸はCIWSシステムをスフィダンテに取り付けるイメージCGを作ってみるかと提案し、そして大きなあくびをしながら両手を天に掲げて背伸びする。


「智也君の希望は希望として、僕の趣味的な話をさせて貰うとね、烏帽子を被ったサムライ大将のような外見のスフィダンテには、日本刀が似合うと思うんだよねえ」


『いやいや峯岸さん、それ接近戦だし! あからさまな接近戦だし! 』


 慌てる智也のリアクションがことのほかツボに入ったのか、再び毒気の無い軽快な笑いをオフィス内に満たす峯岸。

 だが峯岸の無邪気な笑いが瞬時に収まり、顔を真っ赤に抗議していた智也が真っ青になる出来事が起きる。


 智也の宿舎があるリトルナガサキの一般亡命者立ち入り禁止区域と、峯岸のいる岐阜基地のスピーカーから、驚愕の情報がもたらされたからだ。


 けたたましい電子サイレンの音に続いて発せられた内容とは、航空自衛隊防空司令所からの領空侵犯措置の通達。

 「通常通り」日本の隣国から日々飛来してくる航空機に関しては岐阜基地には情報はもたらされないのだが、今回に限り岐阜基地と神州乗組員たちにも情報がもたらされた。ーー何故なら関係あるからだ


 【防空司令所より達する、防空司令所より達する。日本海新潟県佐渡ヶ島に国籍不明機の発現を確認。小松GCI (地上要撃管制所)が対領空侵犯措置行使、イーグル3・4を緊急即応発進させた。岐阜基地の空陸機動団においては、防衛措置準備を行われたし】


 ……スピーカーから流れた放送もこの段階では誰も腰を抜かす事は無かった。しかし国籍不明機の詳細についての説明が始まった途端、あちらこちらから混乱と驚愕のどよめきが起きたのだ。


【尚、国籍不明機においては、直径約十八キロの巨大な質量体である事が確認されている。異ソ国 (異次元ソビエト連邦)のリバティ・ギアの可能性高し! 】


 ……直径約十八キロの巨大質量体……


 航空自衛隊岐阜基地の隊員たち、そして巡空艦神州で当直勤務を行なっていた乗組員たち、さらには非番の時間をリトルナガサキで過ごしていた者たち。それら全ての者たちが間違いなくこの放送で戦慄を覚えたであろう。

 

 希望を胸に新たな生活を始めた者たちにとって、まさしくそれは絶望をもたらす死神の吐息のようにも聞こえたのである。



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