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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 驚愕!要塞「ヘラ」襲来 編
30/72

30 スフィダンテ武装計画 後編


 巡空艦神州だけでなく、大型艦船などの花形ポジションと言えば、艦橋要員であると言える。


 空も海も無い密閉された空間において、日々の業務や任務を行う船乗りたちからすれば、同じ船にいながら景色が見放題の職場で働く者を羨むであろうし、尚且つ艦長や副長に常に接して船の命運を握る操舵に携わる者たちであるならば、自然と彼らをエリートとして見るような視線に変わってしまうのは致し方ない。

 たとえそれが双眼鏡による目視担当であっても艦橋で働けると言うことは、乗組員にとっては垂涎の的である事に変わりはなく、良くも悪くも「艦橋要員」とは、全乗組員からその一挙手一投足を常に見られている存在なのである。


 そして巡空艦神州において言えば、副長の冷ややかな美しさもさる事ながら、常に若い乗組員から注目を浴びているアイドルのような三人の艦橋要員がいる。


 マリィ・アップルトン

 カーリー・エンフィールド

 プリシラ・パクストン・神谷


 これが三人の名前であり、まだ三人とも二十歳には到達していない戦時雇用兵士。こちらの世界の自衛隊で言うところの予備自衛官にあたる少女たちであり、詰まるところソ連との異世界戦争が始まった際に学校の授業カリキュラムで操船を取得しただけの軍人のタマゴ。セミプロである。

 ……悲しいかな、日本共和国最後の最新鋭巡空艦に、彼女たちのような存在をスタッフとして置かなければならないほどに、軍備も人的資源も末期だったのだと言えよう。


 マリィ・アップルトンは、電探要員として神州操船の際の通常電探(レーダー走査)を任務とするアフリカ系日本人。子供のように小柄な彼女だが、そのしなやかなで健康的な身体つきは、異性からだけでなく同性からも注目を浴びている。


 カーリー・エンフィールドは、気象観測員として気象レーダーの走査を任務とする東欧移民の帰化二世。華奢な身体とサラサラの金髪が印象的な儚げな美少女である。


 プリシラ・パクストン・神谷は、マリィやカーリーと同じく三等航海士補で、操船指揮側の立場にいる航海通信士である。アメリカ系四世の日本人で、そばかすが特徴的で見る人に明るいイメージを与える快活そうな美少女である。


 三人が三人ともまだ駆け出しの船乗りであり、交代勤務のサポート番であるからして、不思議とオフ時間も三人重なり集って行動している事が多く、「ブリッジの美少女三人組」は行くところ行くところで男性の注目を浴びては常に話題を提供する日々を送っていた。


 ーーそんな美少女三人組は今日、巡空艦神州の食堂でぐったりとしている。


 昼食時間の喧騒も終わり、閑散とした食堂のテーブルの一角を陣取りった彼女たちは、テーブルに突っ伏したり両手を上げて大きなあくびをかいたりと、御機嫌斜めの空気を隠す事無く発散し続けている。

 朝から続いていた『空陸機動団』の合同会議が終わり、やっと解放された休憩時間にこの食堂へ逃げ込んだのだが、三人が三人とも眉間に皺を寄せて苦虫を噛み潰すかのような表情を続けるのは、長時間の打ち合わせによる疲労だけではなく、何か思うところがあるようだった。


「疲れた、ほんと疲れた」

「そうねえ、期待してた分余計にがっかりしたよね」

「まあ、確かに私らの方が異様なんだろうけど……」


 空陸機動団の合同会議とは、日本共和国側である神州の士官及び下士官、そして艦橋要員とCIC要員たちと、航空自衛隊及び陸上自衛隊から選抜された機動団の幹部士官との初顔合わせ。実務準備部隊の担当者たちが集ってのブリーフィングだったのである。

 相手側の自衛隊出席者が「ほとんど男! 」である事から、大いに喜び勇んで会議に出席したマリィたちは、一目惚れやロマンス発生どころか完全に打ちのめされてしまったのである。


「おじさまばっかり……」

「良く言っても親戚のお兄ちゃん以上の年の差感じた」

「一人ぐらい、せめて一人ぐらい……」


 ーー同世代の男子がいたって良いじゃないか! ーー


 これが彼女らの本音。

 だがそれについて不平不満を垂れる事は出来ないし、ナンセンスである事は彼女たちも重々承知はしている。

 人的資源が枯れた穴を埋めようと学生をかき集めて乗組員に起用したのは神州側であり、通常の軍組織ならば階級とともに歳も上がって行く。大学のサークル活動程度の想像に期待していたマリィやプリシラたちの考えが浅はかだったのだ。


「昨日の夜三人で見たドラマ……ほら、何だっけ? 」

「あ、あの刑事ドラマでしょ? 」

「えっとね、ツーマンセル。そうよツーマンセルだ! 」

「そうそう! インテリ主人公のパートナーの俳優さん。私あんな感じの良い男が来ると思ってドキドキしてたのに」


 (可愛そうなマリィ、そのパートナーもおじさまよ)


 マリィの名誉のために、喉まで出かかったツッコミを強引に飲み込むカーリーとプリシラ。

 どうやら、共和国時代に流れていたテレビ番組と「こちらの世界」のテレビ番組には相当な差異があるのか、それまでおじ様に囲まれてぐったりしていたはずの三人が、いつの間にか目を輝かせて語り合い始める。


「色んなドラマがあって楽しいよね。私はもっと派手なアクションのやつが見たい」とマリィ

「歌番組が気軽にやってるのは興味深い。音楽ってもっとアーティスティックな敷居の高いものだと思ってた」とカーリー

「曲なんかどうでも良いわよ。あのグループで歌ってる男たち……あれは全部私のものよ」うっとりするプリシラ


 もうすぐ休憩時間も終了し、その後は通常の当直勤務が待っている。

 鬼の副長がいる艦橋ではこんな話に花は咲かせられないと、この食堂でありったけの異文化談義を始めた三人だが、そんな乙女たちもかしましさがピタリと止まる人物が食堂に現れた。ーー犀潟智也の登場である


 三人がこちらの世界の男性アイドルや俳優など、テレビや雑誌などで見かけた「匂い立つ良い男」について談義を重ねていると、食堂の扉がギイィィとゆっくり開き、中の様子をキョロキョロと伺うような挙動不審な動きを見せつつ、智也がゆっくり入って来たのだ。


「あっ、犀潟智也! 」


 プリシラがついつい険しい声で名前を呼んでしまった。

 マリィもカーリーもそんな迂闊なプリシラに顔を向けて渋柿を食べた時のように顔をしわくちゃにさせながら、どうしてそれ言うかなと無言の圧力……

 だが幸いな事に、智也はそれに過剰に反応せず「ども」と軽く会釈をしながら意図的に三人を無視して厨房前の配膳コーナーへと向かって行く。


「……プリシラ」

「ごめん、つい」

「だめよ、彼に罪は無いんだから」


 顔を寄せ合って小声で話す三人。


 ーーそう、犀潟智也は神州の乗組員や一般の亡命者たちから、非常に微妙な目で見られている。

 確かに彼はヒーローだ。亡国となってはしまったものの、異次元の日本共和国とこの世界の日本国が有する初めてのリバティ・ギア契約者であり、異次元のソビエト連邦が送り込んだリバティ・ギアのアレスを撃破した救世主である。

 もう、それだけでも彼は国民栄誉賞を授与されてもおかしくはないほどの救国の英雄なのだが、日本共和国からやって来た人々からすれば、素直に喜べない事実がある。

 「人民の敵」として真衣香の両親を死刑台に送り込み、国営放送局のインタビューに嬉々として答えていた……あの犀潟智也の笑顔が忘れられないのだ。


 だから共和国から来た者たちは智也の偉業を讃えながらも、フラッシュバックで異世界の残忍な智也を思い出す。

 智也は智也でそれを理解しているから、極力人目につくような派手な行動をせずにと、コソコソと蠢いていたのである。


「あの、すみません。余り物で良いんで何かありませんか? 」


 配膳カウンターから厨房を覗き、調理員に声をかける智也。すると班長らしき年配の兵士が嫌な顔ひとつせずに、余った豚肉で生姜焼き作ってやるよと早速フライパンを電気コンロに置く。


 熱せられたフライパンの上で、豚肉が油の湯気を昇らせながら小気味良く踊る音を聞きながら、その場で出来上がるのを待つ智也。その彼の後ろ姿を遠くからチラチラと見つめながら、マリィたちは意識して声のトーンを下げて雑談を再開させる。

 しかし雑談はあくまでも雑談、他愛の無い会話を重ねるよりも目の前に話題の宝庫があれば、それについて語り出すのは致し方無い。


「……良い男なんだけどね」

「見る人によっては性格暗そうに見えるけど、私に思い詰めてるように見えるよ」

「私はっきりしない男は苦手よ、明るくてグイグイ引っ張ってくれる人じゃなきゃヤダ」


 (……全部聞こえてるんだよね……)


 急ごしらえの豚生姜焼き定食を受け取り、苦々しい表情がバレないように口角にチカラを込めつつ、マリィたちの席から遠く離れてテレビの前の席に。やっとの思いで遅い昼食にありついた。


 温め直したとは言え、出されたご飯は輝きを失わず艶々としており、米の甘さと熱々の生姜焼きのコラボレーションは「ささくれて」冷え込んでいる智也を内側から温めてくれている。

 異世界の真衣香以外には話していないが、いくら戦争だからと言う大義名分があったとしても、自分が殺人者になってしまった事実は変えようが無く、智也の心をその冷たさでジワジワと侵食させているのだ。


 だが、そんな料理の温かさを身に染みて感じながらもここでハタと気付く。ーーこの食堂の調理用のコンロは電気加熱式である事を。

 調理用コンロだけでなくこの食堂にあるテレビやオーディオ、そして室内を照らす電灯も電気の供給で賄っている。

 何が言いたいかと言うと、最新鋭巡空艦の神州は化石燃料や原子力などの力を使わず巨大なプレイヤー・ウィールの回転で発生した魔力を動力源として利用している事。つまりは魔力を何らかのタービン機関などに回してそこで電力を発生させて生活に利用している事に気付いたのだ。


 (スフィダンテで発生させた電気をそのまま技に使う事ばかり考えてた。違うんだ! スフィダンテの電気で武器を動かす事を考えれば……! )


 淀んでいた両の瞳がギラリと輝き、スローペースだった箸の速度が突如速くなる。もそもそと小口で噛み締めていた料理を全力でかき込み始めたのである。


 (いける、いける! 電気で動く武器を乗せれば、神州みたいに砲台乗せれば良いんだ。もう痛い思いはしなくて良いんだ! )



 突如豹変した智也の姿を見て、ビクリと身体を震わせ驚くマリィたち。

 ーーヤダこの人、何か怖い! と思われても仕方の無い状況ではあるが、戦力としてのスフィダンテが一歩前進した瞬間であったのだ。



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