13 大逆転の成り上がり
レーダー探知網に引っかからないようひたすら低く低くと、荒れてうねる日本海洋上を低空飛行する人型の巨体な物体がある。
今にも海と衝突するのではと見る者を心配させるほどに、海面すれすれを飛びながら能登半島沖を西南西に進路を取るのはスフィダンテ。ーー平行多次元世界の人類を整理するために、神が遣わしたと言う『自由を勝ち取る装置 (リバティ・ギア)』である。
新潟県佐渡ヶ島沖にあるレアアース採掘基地に突如現れた、ソビエト連邦日本自治州軍を名乗る武装集団とその後更に現れた「本隊」。それらをレアアース採掘基地から引き剥がして遠ざけるために、スフィダンテはひたすら日本海洋上を西に西にと逃げている。
犀潟智也と契約した直後、レアアース地下資源の地下深くに眠っていたスフィダンテは、ソ連邦日本自治州軍の手から逃れるために次元境界跳躍を敢行させて智也の目の前に出現したら、
次元と次元の境目を結合短縮させてジャンプ移動させるのだが、これには莫大なエネルギー消費と時間が掛かるため、ニ度目のジャンプは実質不可能。プレイヤー・ウィール (マニ車)が発現させる通常魔力のみを使い浮遊飛行を行なっていたのだ。
流線型による空気力学も揚力も関係無い、魔力による飛行移動は速度をそれほど上げる事は出来ないのだが、そこはそれ素人の智也にとっては絶好の訓練飛行となり、能登半島の先端を通過したスフィダンテは極めて順調且つ安全に西日本に向けて飛行時間を更新していた。
ーーそんな時である。
トイレ休憩のホバリングを終えて再びスフィダンテが加速を開始した際に、コクピットの中から智也の叫び声が聞こえて来る。
どうやらスフィダンテ・ポータルから多次元世界の存在や、様々な種類の日本と言う国家についてや、このスフィダンテの性能についての説明を懇切丁寧に受けていたのだが、とある説明を受けた際に、彼は腰を抜かす勢いで驚き叫んだのだ。
ーーぶ、武装が一個も無い? 丸腰状態なの? どうすんの、どう闘うのよ! ーー
スフィダンテ・ポータルとの会話の中で、このスフィダンテを追跡して来るのはソビエト連邦日本自治州軍の先遣隊と、その後方から来るリバティ・ギア一機を搭載したソ連軍の本隊だと説明を受けた上で、その部隊の詳細情報の説明を受ける。
先遣隊は巡空艦あさまと言う空飛ぶ戦艦。
単独で作戦活動が可能な武装を整えており、陸戦隊と言う名前の歩兵部隊と、擬似プレイヤー・ウィールつまり、リバティ・ギアの模倣マニ車を主導力とする戦闘ロボット部隊も搭載されているそうだ。
更に本隊は二隻の巡空艦と一隻の輸送艦で編成されており、巡空艦二隻は前述のあさまと同じく完全武装で輸送艦を護衛し、その輸送艦にはリバティ・ギア・アレスタイプが搭載されていると言うのだ。
「ポータル、ちょっと待ってくれ。今俺が乗っているのはリバティ・ギアのスフィダンテタイプで、追いかけて来る連中が持ってるのはリバティ・ギアのアレスタイプ。リバティ・ギアってたくさん種類があるのか? 」
『回答。リバティ・ギア一機に対して神話世界の神々が一体、プレイヤー・ウィールにその存在が刻印されている。つまりリバティ・ギアは現代に現れた神と認識して良い。したがって神話世界の神々は無数に存在する事をもってリバティ・ギアも無数に存在するロジックが完成するが、未だ様々な次元の人類はその多くを発見出来ていない事から、リバティ・ギアは希少価値の高い対人類最終決戦兵器と呼べる』
「なるほど神々の現し身って事か、そりゃあレアだな。それでアレスタイプってギリシャ神話のアレスの事なのか? 」
『回答。ギリシャ神話の十二神のアレスである。戦を司る神、狂乱の代名詞でもあるアレスのリバティ・ギアは、四頭の神馬に戦車を引かせ、その上に立つ大男をモチーフとし、全長2キロの槍が主要武器となる打撃タイプである』
「ぜ、全長2キロの槍って、何だよそれ! 」
『回答。リバティ・ギアに統一規格など無い。よって今現在追跡して来るソビエト連邦日本自治州軍の母国であるソビエト連邦本国には、七体のリバティ・ギアが確認されているが、その一つ一つどれをとっても同じスケールのものは無い』
「なるほどね、神々によって個体差はあると」
ここで智也はふと気付く
ギリシャ神話や戦の神アレスと言う単語を耳にした事で、小さな疑問が腹の底でどんどんと大きくなり、口にせずにはいられなくなったのだ。ーー今俺が乗っているこれは何? と
「ポータル、教えてくれ。……俺はスフィダンテなんて神は初めて聞くんだが、どの地方の神話に出て来るどんな神なんだ? 」
『回答。スフィダンテは神ではない』
「はあ? だって神話の神々がウィールに刻印されてのリバティ・ギアなんだろ? 」
『説明。リバティ・ギア・スフィダンテタイプは数あるリバティ・ギアの中でも唯一の特殊タイプである。名前はスフィダンテ、日本語で挑戦者を意味するこのリバティ・ギアは、大逆転タイプとしてこの世に誕生した』
スフィダンテは神話世界の神々に並ぶ者ではなく、挑戦者と言う名前の一発逆転を狙うタイプだと? ーー神ではないとポータルが否定した際に、何かしらの嫌な予感が脳裏をよぎったのだが、よりによって初心者をそれに乗せるのかと、智也は唖然としながらポータルの説明を聞き続ける。
多次元世界で偶発的に始まった人類淘汰戦争は、様々な次元世界で既に始まっており、大量のリバティ・ギアを持って常勝を続ける世界もあれば、既に焼け野原となって人類が絶滅した世界もある。
つまり契約者犀潟智也のいるこの世界は、次元世界と言う単位で考えれば今のところは平和かも知れないが、人類淘汰戦争は既にあちこちの世界で起きており、その流れは中盤戦に差し掛かっていると言っても過言ではない。
使えるリバティ・ギアを多く抱えた世界が勝利する事が既定路線となった今、リバティ・ギアを作りし者は「気まぐれ」で既定路線の打破を打ち出したのだ。
それが、形成逆転を目的にした大逆転タイプ、名前のごとく【スフィダンテ (挑戦者)】なのである。
「なるほど。チャンスはやるから平々凡々から成り上がってみせろ、のし上がってみせろってか」
ーーやってやる、やってやるよ! アレスタイプをぶっ壊せば良いんだなーー
瞳に熱っぽい力がみなぎり、心なしか表情に猛々しさが現れる。
普通の高校生では体験出来ないような話の主人公で、なおかつゼロからのし上がってみろと背中を押されれば、それは一端の戦士の顔になってもおかしくはない。
「ポータル教えてくれ。その2キロの槍にどう立ち向かう? こいつの武装はミサイルか? レーザーみたいなのか? 」
『回答。現時点でスフィダンテの武装はない』
この解答。このポータルの解答が、智也から前述の悲鳴を引き出したのである。
(ふっざけんなああ! )
『提案、犀潟智也は冷静に。提案、犀潟智也は……』
「うっせ! よくも長々と間抜けな説明しやがったな! 丸腰でどうしろってんだよ、出来る訳無いじゃないか、敵は戦争しに来てんだぞ! 」
『回答する。スフィダンテには他のリバティ・ギアには存在しない能力がある。それを駆使した戦闘を推奨する』
「唯一無二の能力……だと? 」
「説明。スフィダンテは触ったプレイヤー・ウィールの能力を吸い取り、自分のプレイヤー・ウィールに上書き保存が出来る。人造の模倣プレイヤー・ウィールでも、真のプレイヤー・ウィール、リバティ・ギアでも、全ての能力を吸い取る事が出来る。それを踏まえて作戦立案されたし」
「って事は、アレスタイプの能力だけじゃなく、勝ち続ければ勝ち続けるほど、様々な能力が自分のものになるって事か」
ギリシャ十二神をことごとく倒して能力を吸い取れば、自分自身が実質ギリシャ十二神になるし、更に北欧神話やインド神話、ケルト神話も日本神話までも……。なるほど、だから大逆転タイプなのかと納得した智也だが先程の猛々しい表情はどこかへと消え去ってしまう。
大逆転と言えば聞こえは良いが、その言葉の裏に潜むリスクに気付いたのである。だから彼は「化ける時は大化けするんだろうな」と、重くのしかかって来た空気から耐えるような苦しみを表情に見せ、額から冷たい油汗を滴らせる。
ーーつまりはオール・オア・ナッシング、勝者の全取り。
勝てなければ負けなのは当たり前だが、これは限りなくギャンブルであり、これを作ったサド野郎は……俺が血まなこになって足掻く姿が見たいんだな。
スフィダンテは何故空っぽなのか、そしてスフィダンテがなぜ犀潟智也を選んだのかに想いを馳せ、そして苦々しい表情でまだ俺に苦しめと言うのかとポツリ呟いた時、スフィダンテ内のコクピットに突如ブザーがけたたましく鳴り響く。
「な、何だ、何が起きてる? 」
『報告、報告。石川県小松市近辺より北上する飛行物体を確認。識別コード取得・解析中・終了……北上する飛行物体は日本共和国所属の巡空艦神州と確認。フレンドリーコード登録済み、通信を試みるか可否を乞う 』
スフィダンテの魔力レーダーに探知されたのは、航空自衛隊小松基地に抑留されたあの、異世界日本の軍隊。
ポータルが日本共和国軍は友軍であり、所属する依田真衣香がこのポータルを智也の元に届けた旨を説明する事で、智也もまたソビエト連邦日本自治州軍と共闘する仲間である事を認識したのだが、智也の脳裏にとある閃きがよぎる。
それはまだ口に出さずに、ポータルの助言も受けてはいないのだが、一つのアイデアとなって苦渋の空気に包まれていた智也に小さな一点の突破口を指し示したのだ。
“別の異世界日本軍か、それならプレイヤー・ウィールを装備しているよな。武器になるプレイヤー・ウィールをいただくのも手だ”
智也はきわめて無表情を装いポータルに指示を出すーー巡空艦神州に連絡してくれ、スフィダンテと共に合流すると




