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第一次異世界大戦 武装神器リバティ・ギア  作者: 振木岳人
◆ 無垢なる神器「スフィダンテ」 編
1/72

01 プロローグ



 ーー犀潟智也(さいがたともや)は腑抜けになったーー


 彼を知る者全てがそう評する様になったのは、今年の六月。

 元号が平成から令和に変わってから丁度ひと月経った頃には、それまでの智也の評判は過去のものとなり、彼は実質的に生ける屍となってしまった。


 スポーツは万能とまではいかないが、一般入試で私立城ノ岬高校に上位で合格を果たした彼は、一学期に系列高校全てで開催された全国統一学力試験において推薦・選抜クラスの生徒たちをごぼう抜きにしてしまう。

 一般入学者の学年トップと言う驚愕の試験結果は、あっという間に過去の伝説となって封印されてしまった。


 犀潟智也が死んだと言われる理由はある、誰もが認める確固たる理由がある。

 それは依田真衣香の死によるものであり、この依田真衣香の死と言うのは抽象的表現における“死”ではない。

 彼女の心臓が止まり、医師が死を宣告する本当の死だ。


 智也の隣家である依田家の一人娘の真衣香(まいか)は同じ年で、幼児の頃から今の今まで智也と一緒に人生を歩んで来た。

 俗に言うところの幼馴染と言う存在であり、智也にとって彼女は恋人であり妻であり、妹であり姉であった。


 だが、今年の六月に悲劇が訪れた。

 同じ幼稚園、小学校、中学を卒業して同じ高校に進学して十六歳の思春期を迎えた二人、まるで産まれた時から夫婦になる事を運命付けられた二人であったのだが、運命の赤い糸はここでプツリと千切れてしまう。

 たまたま別々に下校した際に、信号を無視して交差点に飛び込んで来たダンプトラックに真衣香が轢かれて、グチャグチャになってしまったのである。


 真衣香が恥ずかしげに提案して来たのだが、今年の夏は泊りがけで海に行く約束をしていた。

 それはキスの予感を遥かに飛び越えて、互いに握った手が一つに溶け合う様な、甘くて鮮烈な二人の思い出になるはずであった。


 だが、そんな甘酸っぱい約束も真衣香の肉体から魂が去った事で全てが有耶無耶になった。


 ダンプトラックが彼女の身体を吹き飛ばしつつ、トドメを刺すかの様に巨大な後輪タイヤに彼女を巻き込んだ。

 その衝撃と圧力で、全身の骨は粉々に砕けて内臓は飛び出し、潰れた顔面と飛び出た脳漿は修復に難しく、哀れとしか表現出来ない死に様だった。

 警察での検死も終わり、無言の帰宅を果たした際は、棺に納められた彼女はエジプトのミイラよろしくギチギチに全身に包帯を巻かれて、別れのキスすら出来なかった。


 気丈に彼女を見送ったと言うよりも、呆然としたまま親に背中を押されて葬儀を終わらせたと言った方が正しい表現なのだが、全てが終わったその夜に智也は泣いた。

 赤ん坊の様に泣き叫びながらベッドの上で暴れ、勉強机の上に飾る二人のツーショット写真を見ては自分の頭と顔をガシガシと殴りながら更に泣いた。


 そして自分の半身を失うと言う事がどれ程恐ろしい事なのか悟ったのである。ーー自分は自分のものだけでなく、彼女の存在があって初めて自分たらしめている事に気付いたのだ。


 だがそれも既に時遅し。真衣香は二度と戻って来ない。

 無気力と言う“無”の世界の住人となった彼は、過去を懐かしむために今を生きる自分に成り果てた。

 そして前を向かない自分を(あざけ)りながらも、それでも過去を懐かしむ事でしか生きる意味が無い日々を送り始めたのである。


 『犀潟智也も死んだ』


 クラスメイトや教師たち、そして両親や真衣香の両親までも、智也に同情しながらもそう評した。


 ーーそれはまた、智也が乗り越える事を期待した声でもあったのだが、彼にそれが届くまでには、まだ幾ばくかの時間がかかる事となる。





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