初めてのおそと 1
「……よし、この辺で良いか……。いくぞ」
「………………キュ?」
待って。ちょっと待って。
今何が起きたの?
支団長さんの手から何かがものすごいスピードで放たれたのまでは分かったんだけど、ちょ、え?
私の見間違いじゃないよね?
その何かが風圧でひしゃげたボールに見えたのは。
「……どうした?ボールを追わないのか?」
「…………キュ?」
マジですか。
やっぱりあれボールでしたか。
て言うかそんな、あれ?って顔しないで。
無理だよ。
あんな猛スピードで飛んで行く物体は取れないよ。
確かに今世の私は視力がかなり良いらしく、1キロ……いやそれよりは近いかも知れないけど……も遠くに落ちたボールはバッチリ見えてるけど。
びっくりしすぎてボールを取りに行く気になれない。
「……取りに行かないのか?」
私がポカンと遥か遠くに落ちたボールを見つめていると、支団長さんが残念そうにしゅんとした顔でこちらを見てきた。
分かったよ、取りに行くから!
そんなしゅんとした顔しないで!
私は急いで遥か遠くに落ちているボールの元へ走り出した。
広い芝生の上を懸命に走っているとだんだん楽しくなってきた。
ハッハッハッと息を切らせて支団長さんのところへボールを持っていく。
「……楽しいか?」
「キュー!」
「……そうか。」
楽しい!めっちゃ楽しいよ!
だから早く!早く投げてっ!
私が上がったテンションを押さえきれずにそこら辺をバタバタ走り回っているとまたボールを投げてくれた。やったー!
というのを何度……いや何十回……何百回だったかな?繰り返し、私はようやく我に返った。
あれ?私、何かすごく遊んだよな。
いつの間にか空が夕焼け色になってるし。
……はっ?!支団長さん、お仕事は?!
お仕事は大丈夫なの?!
私が年甲斐もなく……実際前世が15、6くらいだし……遊んで貰っちゃったから!
うわああ、ごめんよ!
あわわ、と支団長さんの周りをぐるぐる回って心の中で謝る。
本当はこんなに手間取らせるはずではなかったんだよ、本当!
ただ少し思ったよりも楽しくてテンション上がっちゃったからなだけで!
しかし支団長さんはぐるぐる回っている私の頭を撫で始めた。
「……どうした、ボールはもういいのか?」
「キュキュ!」
うん、ありがとう、また遊んで!
……じゃない、違う、だからお仕事は?!
「……もう暗くなるからそろそろ帰ろうか。」
砦の建物の中に入り、そのまま食堂の方へ向かっていく支団長さんの後に着いていく。
今更なんだけど、支団長さんはそこまでガッチリした体つきではない。
むしろ細身で無駄のない身体付きだ。
そんな身体のどこからあんな豪速球の凶悪なスピードで飛ぶボールを打ち出せるのだろうか?
「……どうした?食べないのか?」
考えている間にご飯が出てきていたようだ。
支団長さんに声をかけられてようやくそれに気が付いた私は急いでそれを食べ始める。
この席は朝と同じところだから、もしかしたら支団長さんの特等席なのかもしれない。
出てきた夕飯のメニューは、オニオンスープに鶏肉とジャガイモのリゾット。
オニオンスープの玉ねぎは食感が残されていて、シャクシャクと食感が楽しめる物だった。
リゾットは少し熱かったけどハフハフしながら食べ進める。
ジャガイモがトロッととろけて、鶏肉にもしっかり味が付いていていくらでも食べられそう。
私は相変わらず支団長さんの席の影でそれを食べて居たのだが、支団長さんは既に食べ終えて私が食べ終わるのを待ってくれていたらしい。
「……綺麗に食べたな。」
「キュー。」
食堂から出ていくときに周りの視線がこちらに注目していたが、私はなるべく気にしないように支団長さんの後を追って行った。
そんな見ないでよ、緊張しちゃうよ。